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創造の民主化は、日本のチャンス/カンヌのAI議論の意味合い
公開日: 2026/07/02

特集:カンヌ国際映画祭 2026 第12回<カンヌ映画祭2026レポート 映画とAI編 6>

ここまで、カンヌ国際映画祭の併設マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム(以降、マルシェ)」でAIを論じた3つの軸のうち、「実装」と「倫理」を見てきました。最終回は3つ目の軸「教育」を取り上げ、そのうえで、これらが日本のクリエイターにとって何を意味するのかを考えます。教育は産業のすそ野を広げ、次の作り手を育てる発展の下地です。そして今年のカンヌで繰り返し語られた「創造の民主化」は、日本にとって一つのチャンスだと考えます。
※本記事で触れられている内容は2026年5月時点の情報です。

《目次》
 

「AIはプロンプト技術者を育てる場所ではない」、教育の論点

教育の議論で登壇したのが、フランス国立映画学校ラ・フェミスの校長、ギヨーム・デュシュマン氏(Guillaume Duchemin)でした(「AI for Talent Summit」の2日目・5月16日のセッション)。彼によると、同校は設立40周年を迎え、8つの学科で年間およそ200名を教育し、専任の教師を置かずに年間1,000名を超える現役のプロフェッショナルによる演習があるのが特徴だといいます。

左からモデレーターのクリスティン・デイヴィス氏とギヨーム・デュシュマン氏 左からモデレーターのクリスティン・デイヴィス氏とギヨーム・デュシュマン氏
Marché du Film © Snap Motion / ADR

AIについて同氏は、「単なる技術ではなく、映画制作における深い文化的な変化だ」と位置づけました。そのうえで、「AIはクリエイターに奉仕すべきもので、クリエイターを置き換えるものではありません」「私たちは、プロンプト技術者を育てるつもりはありません。ツールの使い方ではなく、その仕組みを理解させます」と述べました。同校は、AIを含む新技術の実験と協業のための新拠点「ラ・フェミス・ラボ」を発表しています。第1弾は2026年9月から始まる4カ月のアーティスト・レジデンシーで、CNC(フランス国立映画センター)やパリの文化施設サンキャトル・パリと連携するといいます。

また、ごく最近Googleとの協業を開始したことを明かし、ツールの導入にとどまらず映画制作のワークフロー全体への統合を共に検討していると述べました。一方で、Googleはあくまで出発点であり、他のエコシステムとも並行して協議を続けているといいます。そして、技術・経済・政治・芸術という4つの次元からAIを探求するとし、政治の次元では「文化的主権」を挙げています。

 

「使うか否か」ではなく「どう使うか」へ

デュシュマン氏は、問いはもはや「AIを使うか否か」ではなく「どう使うか」だと述べました。現段階は進化(Evolution)であり、革命(Revolution)と呼べるかは時期尚早だ、という慎重な見方も示しています。

教育のあり方をめぐっては、別の登壇者からも示唆がありました。Luma AIのジョシュ・ディカルロ氏(Josh DiCarlo)は、「アーティストをAIが使えるようにアップスキルする」という言い方を好まないと述べました。AIを使うことがクラフトより高度なスキルだ、という含みは誤りだという指摘です。むしろ「アーティストが、生成AIの出力を引き上げる」のだと訴えます。第8回で触れたジョン・アーウィン氏(Jon Erwin)も、最良のAIアーティストは編集や撮影、衣装、美術といった既存のヘッド職であり、彼らが学び直してAIアーティストになっていく、と語りました。AIの教育は、ゼロから新種の人材を作ることではなく、すでにある技能の上に積み上げることであるという見方です。

ジョン・アーウィン氏 ジョン・アーウィン氏
Marché du Film © Snap Motion / ADR
 

検証:実装・倫理・教育は、いま揃いつつあるか

第7回で、技術が産業の発展に寄与するには3つの条件が要る、と述べました。既存の作り方を壊し新しい作り方を生む「実装(破壊と創造)」、新しいパラダイムを継続させる「倫理(約束事)」、そしてすそ野を広げる「教育(下地)」です。この3つは揃いつつあります。

実装は、5分のアニメを3週間で、実写の大作を数カ月で、という形で確実に起きていました(第8〜第10回)。倫理は、許諾・ロイヤリティ・透明性の仕組みが、欧米を中心に企業の実装レベルで動き出していました(第11回)。そして教育も、ラ・フェミス・ラボのように、次の作り手を育てる動きが始まっています。技術が一時の話題で終わるのか、長く産業の発展につながるのか。その条件をそろえていこうとする取り組みが紹介されました。第8回で触れたように、技術の転換期には、雇用は失われるだけでなく、新しく生まれてもきました。

 

創造の民主化は、日本のチャンス

「AI for Talent Summit」で繰り返し語られたのが、「創造の民主化」でした。作り方も、スピードも、作れる人の幅も変わり、世界のどこにいても、自分のビジョンを形にできる。これは日本にとって一つのチャンスだと考えます。

今年は日本のXRスタジオであるCinemaLeapが「Japan Immersive Showcase」で、世界遺産・二条城とアーティストのKento Moriを組み合わせたXR作品のパイロット版をプレミア上映し、冒頭のナレーション生成には「AI for Talent Summit」に登壇したElevenLabsが技術協力したといいます。新しい技術を使った日本発のプロジェクトが、カンヌという場で世界に向けて発信された一例です。作品と作り手の話題を世界に広げる力を持つカンヌ国際映画祭の場でこうした事例が増えていくことにも期待です。

第6回で、日本の海外展開には大きく2つの道があると整理しました。既存のグローバル・プラットフォームに乗る道と、日本が主体的に作って世界に届ける道です。創造の民主化は、このうち「自ら作って届ける」道の現実味を高めます。これまでは資本や流通が壁になっていた挑戦が、技術によって手の届く範囲に入ってくるからです。

マルシェのエグゼクティブディレクター、ギヨーム・エスミオール氏 マルシェのエグゼクティブディレクター、ギヨーム・エスミオール氏
Marché du Film © Snap Motion / ADR

マルシェのエグゼクティブディレクター、ギヨーム・エスミオール氏(Guillaume Esmiol)が述べたように、世界最大の映画市場であるカンヌ国際映画祭は、IPの権利や責任あるAIの利用を議論のテーブルに乗せる場でもあります。すそ野が広がり、約束事が整い、新しい作り方が手に入りつつあるいま、その議論に日本がどう加わり、この機会をどう掴むか。それはいま政府も各社も進めている海外売上の拡大、エンタテイメントを基幹産業として育てる取り組みにおいても注目すべきテーマでしょう。世界でコンテンツの作り方、産業参加者、コンテンツが大きく変わるなかで、日本のクリエイターもどのように取り組むのかは論点ですし、ゲームのルールが変わるのは日本にとってブレイクスルーのきっかけとなりえます。

本特集では、全12回にわたって、コンペティション部門での日本作品の選出と受賞から、マルシェでの海外展開の議論、そしてAIの現在地までをお伝えしてきました。こうした議論が、日本の映像産業のこれからを考える材料になればと思います。

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特集:カンヌ国際映画祭 2026