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AIは「フォース」であり「新しいフィルム」/NVIDIA・Flawlessらが語る支援AIの実装
公開日: 2026/06/26

特集:カンヌ国際映画祭 2026 第9回<カンヌ映画祭2026レポート 映画とAI編 3>

前回は、AIが新しい作り方とスピードを生む側面を見ましたが、今回は同じ「実装」でも、すでにある制作の現場や、過去に作られた映像資産にAIを組み込むという側面から取り上げます。素材は前回と同じく、5月15日・16日の「AI for Talent Summit」のセッションが中心です。ゼロから生み出すのではなく、今ある工程・スタジオ・ライブラリをどう拡張し、効率を上げていくか。監督・脚本家でもあるAI映像技術Flawless共同CEOのスコット・マン氏は、この違いを「生成AI(Generative AI)」と「支援AI(Assistive AI)」という線引きで説明しました。
※本記事で触れられている内容は2026年5月時点の情報です。

《目次》
 

「コンピュートは新しいフィルム」、スタジオの経済が変わる

サミット初日(5月15日)のセッション「Inside the AI-Powered Studio」で、NVIDIAのアナイス・ヘイズ氏は、AIがいま最も価値を出している領域としてレンダリングを挙げました。では、レンダリングが速くなることの価値とは何か。それは「作るのを待つ」工程が「並行して試す」工程に変わることだといいます。脚本も視覚的なテクスチャもすべてが「生きた素材」になり、世界中に分散したチームが同時に異なるパートを試せる。直列だった作業が並列になる、という変化を指摘しました。

NVIDIAのアナイス・ヘイズ氏(右) NVIDIAのアナイス・ヘイズ氏(右)
Marché du Film © Snap Motion / ADR

 

この変化は、制作の経済そのものを変えます。同氏はこれを「新しい経済」と呼び、時間や日数で支払う「固定費」から、処理量に応じて支払う「可変的なインテリジェンスの経済」、いわばトークン経済への移行だと説明しました。「コンピュート(計算資源)は、新しいフィルムです。ただしこのフィルムは、毎年速く、安くなっていきます」とし、実際にコストは下がり続けていると話しました。ほかにもAdobeと協業した取り組みでは、企業の持つIPをファインチューニングしたLLMモデルを使う動きも広がっていると明かしました。

もう1つの大きな変化が、場所の制約が消えることです。ローカライズの技術が大きく進み、国ごとに時期をずらして公開する従来のやり方から、世界同時公開へと移りつつあります。ヘイズ氏は「アクセスを民主化することこそ、この技術の最も強い点です」と述べ、CEOジェンスン・フアン氏の言葉を引いて、「創造性が市場に届く"方法(HOW)"を民主化すれば、市場に新しいプレイヤーが現れる」と語りました。

同様の基盤づくりを、プロ向けに掲げるスタートアップもあります。イスラエルのAI開発企業Lightricksは、自社のAI映像モデルLTXを「職人技とそのコントロールを損なわずに、人間の創造性を増幅する」と紹介。4Kで音声と映像を同期生成でき、一般的な機材でも動き、さらには自社用に微調整できるオープンな基盤だと解説しました。新しい作り方だけでなく、既存スタジオの経済そのものにAIを活用している事例だといえます。

 

生成AIと支援AI、撮影済みの素材を活かす

「今年で22回目のカンヌ参加」と語る監督・脚本家のスコット・マン氏は、初日のセッションで、自身が共同創業したFlawlessの考え方を「生成AIと支援AI」という対比で説明しました。「AIとはフォースのようなもので、善にも悪にも使える極端な力です」。無許可のデータを集めて新しい映像をゼロから生成するのが「暗黒面(ダークサイド)」の生成AIなら、すでに撮影された素材を修正し、作品やIP、著作権をそのまま引き継ぎながら変更を加えるのが、「光明面(ライトサイド)」だという線引きです。

同氏は支援AIの用途を3つ挙げました。1つ目はビジュアル吹替で、役者の口元を翻訳後の言語に合わせ、本人の演技として届けるというものです。スウェーデン映画『Watch the Skies』が最初の公開作で、「ある配信サービスでの比較では、通常版に比べて視聴時間が25倍、完了率が2.5倍になった」と話しました。

2つ目は制作工程での活用です。編集のワークフローに組み込み、再撮影なしで台詞を別の言葉に差し替えられるというもので、具体的な事例として、罵り言葉(Fワード)を別の単語に置き換えるといった使い方が紹介されました。これにより撮影日数が4分の1になり、環境負荷も大幅に下がるとし、米俳優組合のSAG-AFTRAもこの手法を評価していると述べました。

3つ目には同意と著作権を挙げ、自社ではすべての修正履歴を追跡するプラットフォームを用意していると話しました。「同意と著作権がなければ、そもそも作品は配信できません」。マン氏は影響を受けた人物にジェームズ・キャメロン監督を挙げ、『アバター』の芸術性は生成AIによるものではなく、モーションキャプチャで俳優の演技を捉えた結果だと語りました。

 

声をどう扱うか、RespeecherとElevenLabs

支援AIのなかでも、声の領域は実装が進んでいるようです。2日目(5月16日)に登壇した音声合成ソフトウェア開発のRespeecheerは、「8年にわたってハリウッドのメジャースタジオと協業し、実際に作品の最終ミックスにも使われてきました」といいます。具体的には、ルーカスフィルム、ディズニー、ソニー、パラマウント、Netflixなどの企業において、『スター・ウォーズ』のルークやダース・ベイダー、オビ=ワンの声や、『ブルータリスト』『エミリア・ペレス』といった作品で使用されたことが紹介されました。

同社では次の一手としてAI吹き替えに取り組んでいます。「現状の自動吹替ではニュアンスが失われ、劇場・放送の品質には届かずスタジオの現場には馴染みません」。倫理・法的な考慮事項などもあるとし、人間が深く関与するハイブリッドの形で埋めようとしています。

より大規模なプラットフォームを提供しているのがElevenLabsです。2日目のセッションで同社のアレックス・ジョージ氏は、70以上の言語に対応し、累計で1万を超える声を扱っていることを明かしました。象徴的な事例が、ディズニー・Epicとコラボした『フォートナイト』でのダース・ベイダーです。権利処理を済ませたうえで故ジェームズ・アール・ジョーンズの声をAIで再現し、ゲーム内でファンと会話させました。ジョージ氏はこうしたプロセスについて、ボタン1つで吹替が完成するわけではなく、あくまで人間が主導するものだと強調し、「あらゆるコンテンツを、あらゆる言語で」届けることを目標に掲げました。

声をどう許諾しどう守るかという議論は次回に譲りますが、技術としての到達点では、すでにこうした実装段階にあります。

 

ハイブリッドで人間を中心に置く、実写現場のAI

実写の現場からは、初日のセッションにザヴィエ・ジャン監督が登壇しました。『セーヌ川の水面の下に』などで知られる同監督は、次作『Sanctuary/サンクチュアリー』のバンコク撮影時のエピソードを紹介しました。現地でカーチェイスの撮影許可が取れなかったため、撮影後にVFX会社へAI支援を依頼し、3Dモデルからハイブリッドのカーチェイスを作ったといいます。このプロセスでも中心となるのは人の手です。「ハイブリッドのモデルを使っており、AIは単なるツールです。1つのプロンプトで作るのではなく、後ろ側ではグラフィックアーティストが時間をかけています」。

ザヴィエ・ジャン監督 ザヴィエ・ジャン監督
Marché du Film © Snap Motion / ADR

 

時間とコストの効果も具体的な数値で示しました。『セーヌ川の水面の下に』では、橋を爆発させてパリが水没するシーンにCGIとVFXで1年以上かけたといいますが、「今なら1〜2ヶ月、半額で作れる」と述べました。フランスの映画制作大手Gaumontから依頼された作品では、1936年を舞台に2000人のエキストラや衣装、列車が必要になる駅のシーンがあり、当時の白黒のアーカイブ素材をスキャンし、AIでカラー化して再現することで、約200万ドルを節約できたと話しました。

同監督は20年来のグラフィックアーティストの仲間とともに自前のAIスタジオを立ち上げる一方、既存のVFX会社との協業は続けるとし、「1枚のAI画像をそのまま完成画として使うのではなく、要素だけを取り出して組み合わせる」と説明しました。

 

失われた映像を取り戻す、非生成AIによるレストア

初日のスタートアップ・ピッチに登壇した、韓国のInshortsを率いるアンディ・リー氏は、過去の映像資産にAIを使う事例を紹介しました。「私たちはビートルズや昔の日本の歌を毎日のように聴きますが、90年代や2000年代初頭のテレビシリーズは、誰も観ません」。同氏はこれを映像産業の「失われた歴史」と称し、アナログテレビのSD画質のコンテンツをアップスケールする技術を紹介しました。サイズでは縦横ともに4.5倍、1ピクセルが20ピクセル以上になるといいます。

Inshortsがアップスケーリングに携わった作品群 Inshortsがアップスケーリングに携わった作品群

 

自社で携わった作品として、ポン・ジュノ監督の初期作『支離滅裂』、ヨン・サンホ監督の初期アニメ作品、65カ国2000の劇場で公開された『BTS MOVIE WEEKS』のライブ映像などを挙げました。リー氏は、自社の技術はVeoやSeedanceのように新たに動画を生成するAIではないため、IPホルダーにとって信頼して任せられる点が強みだとしました。

新しく作るAIと、すでにあるものを生かすAI。両者に共通するのは、人間の作業や既存の権利を引き継ぎながら、制作の経済を変えている点です。次回は同じくAIの実装において、クリエイターと技術者、そしてテック企業がどう組んでいくか——協業のかたちを見ていきます。

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