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ヒットは「熱量と数字」で作る 集英社ゲームズ・アソビズムの方法論  〈GAME FUTURE SUMMIT 2026〉
公開日: 2026/07/02

ゲームマーケティングとプロデュースに特化したカンファレンス「GAME FUTURE SUMMIT 2026」をレポートする本特集。第3回は、セッション「Steam/コンソールのゲームマーケティングのリアル〜経験してわかったヒットタイトルを生み出すためのノウハウと課題〜」の内容をお届けします。セッションは、ゲームメディア「AUTOMATON」の編集長で、株式会社アクティブゲーミングメディア メディア事業本部本部長の川瀬鮎郎氏をモデレーターに迎え、株式会社集英社ゲームズ部長の沼田知己氏、株式会社アソビズム マーケティング部PC&コンソール部門長の井上清勝氏が登壇。Steam/コンソール市場で実績を積んだ両氏が、マーケティングのノウハウからグローバル展開の"壁"を超える方法まで、現場の知見を余すことなく語りました。
※本記事で触れられている内容は2026年6月時点の情報です。

左から、ゲームメディア「AUTOMATON」の川瀬鮎郎編集長、集英社ゲームズの沼田知己氏、アソビズムの井上清勝氏 左から、ゲームメディア「AUTOMATON」の川瀬鮎郎編集長、集英社ゲームズの沼田知己氏、アソビズムの井上清勝氏

 

《目次》

 

 

重要となる初週売上とウィッシュリスト

モデレーターの川瀬氏が「グローバルで多層的なマーケティングを行っている」と評す集英社ゲームズとアソビズム。集英社ゲームズでは、オリジナルタイトルの『都市伝説解体センター』が日本ゲーム大賞2025優秀賞を受賞、アソビズムは2025年発売のタワーディフェンスゲーム『ShapeHero Factory』がSteam早期アクセス売上ランキングで全世界1位を獲得しています。

講演前半、アソビズムの井上氏はSteam/コンソールゲームでは、発売初週の売上が「最大の勝負」だと強調しました。理由として、Steam/コンソールゲームでは売り切り型モデルが主流であるからだと説明します。井上氏は、「スマホゲームがリリース『後』の勝負なら、Steamは『前』が勝負。初週売上の2〜4倍がソフトの生涯売上に相当するといわれていて、まさに『初週が命』の世界です。」と、売り切り型ならではの現場のリアルを明かしました。

沼田氏は、Steam内の気になるゲームを登録する「ウィッシュリスト」機能が、発売前の期待値を測る先行指標となっていると紹介しました。リスト登録の多寡によって、ストア内の表示アルゴリズムやリリース時の通知にも影響するといいます。沼田氏は「国によってリスト追加が購入につながるかの割合はバラバラで、数字自体を単純に鵜呑みはできません。しかし、他に現状でKPIにできるのがウィッシュリストしかない状況です」と明かしました。

集英社ゲームズ部長の沼田知己氏 集英社ゲームズ部長の沼田知己氏

 

 

楽して勝てる裏技は存在しない 現場で培われた4つのノウハウ

こうした販売方式や指標の少なさもあり、ゲームの認知拡大、リスト登録、購入までのフローにおいて「楽して勝てる裏技は存在しません」と全員が口を揃えました。その上で、ヒットの確度を上げていくための地道な取り組みとして、下記の4つの切り口から施策を紹介しました。

1:オンラインイベントへの参加、メディアへの掲載

井上氏は「Steam Next Festをはじめ、各ジャンルに特化した新しいフェスやショーケースが毎日のように生まれています」と共有し、「大規模でなくとも、作品ジャンルに合致したイベントへの出展は、関心の高いユーザーのウィッシュリスト獲得につながります。ただ、地道に応募していく作業は、本当にやれるものならやってみろというくらい、地味に時間をかけて思いを込めなければできないことです」と訴えました。加えて沼田氏は、集英社ゲームズであっても自社メディアにおける訴求力は限定的であるとし、「認知拡大のために国内ゲームメディアの力を借りること」も1つの手段だと補足しました。

2:インフルエンサーへのアプローチ

沼田氏は「欧米は日本よりもゲームメディアの信頼性や影響力が相対的に低いという実感があり、インフルエンサー施策が中心になっています」と語りました。フォロワー数の多い有名インフルエンサーへの有償アプローチはコストが高いため、熱量の高いサブスクライバーを抱えるマイクロインフルエンサーも有効だとしました。

井上氏は、特に重要なのはオフラインでの対面機会だと続けました。アメリカの「GDC(Game Developers Conference)」やドイツの「gamescom」、「東京ゲームショウ」などの機会を挙げ、「急にメールしても動画をプレイしてはくれません。直接対面してお茶できる機会などがあれば、呼び出してでも、こちらから出向いてでも、とにかく直に『会う』。そういった生々しくてアグレッシブな動きが必要です」と強調しました。

3:コミュニティでのファンとの関係構築

ウィッシュリスト登録にこぎつけた後が本当の勝負であり、井上氏は「『もう僕たちはチームだよね、開発仲間だよね』という関係をリリースまで作り、熱を保ち続けることが大事」だと話します。具体的なテクニックとして、DiscordやSNSのコミュニティに誘導する動線設計、各SNS・アプリでの定期的な情報発信や進捗報告、開発期間の密なフィードバックなどが紹介されました。

川瀬氏は「発表から発売まで、開発側のストーリー性も求められるようになってきている」と、ファンとの関係構築がマーケティングの一環となっている現状を示しました。

4:コンソールはウェットな人間関係から

コンソール市場では直接グローバルユーザーにリーチする手段が限られており、井上氏は「わらしべ長者のように一人ひとり泥臭く人を追っていって、やっとXboxのトップに繋がりました。一度繋がっても、毎月進捗を報告し続けなければすぐに忘れ去られてしまうほど、極めてウェットでシビアな世界です」と自らの経験を語りました。「オンラインショーケースで配信される機会を狙うなら、9カ月前にはアプローチしてピッチが終わっていなければいけません。最も重要なのは人間関係です」と、その実態を率直に語りました。

また、その連絡手段についても「XはグローバルなSNSとして機能していない」とし、英語圏ではLinkedInでの発信、アジア圏ではFacebookの活用が有効だと述べ、「現に僕のLinkedInは1000人以上ですが、Xはフォロワーが100人もいません」と実体験を明かしました。

株式会社アソビズム マーケティング部PC&コンソール部門長の井上清勝氏 株式会社アソビズム マーケティング部PC&コンソール部門長の井上清勝氏

 

 

海外の壁を超えるためのローカライズとSNS運営

セッション後半には、グローバルへ情報を発信する手段のノウハウも共有されました。

海外ローカライズでは、川瀬氏は翻訳の正確さだけでは不十分だとし、ユーモアやUI、トレンドといった文化圏を理解した「カルチャライズ」が求められると指摘。井上氏は「特に中国語圏では、言葉として正しくても現地では使われない言い回しはレビューで指摘されやすく、ゲームの評価を下げるケースがある」と話しました。AI翻訳の活用が広まっており「品質はチェックしているが、まだまだという実感」とし、ネイティブによる確認の重要性を改めて示しました。

SNSについて沼田氏は、日本のゲーム市場ではXの発信力だけが「極端なほど高い」一方で、欧米ではユーザーが多様化していることからDiscordに加えてX・Bluesky・Instagram・TikTokを使い分けるユーザーが多いと話しました。さらに地域ごとの特色もあり、北米はReddit、中国ではXが利用できないためWeibo・Bilibili・QQ・Heyboxなど、各国に合わせたSNSの運営やコミュニケーションが重要だと意見を交わしました。

セッション中は「熱量と数字」という言葉を用いて、限りあるリソースでいかに熱量の高いユーザーを獲得するか、ユーザーの期待を高めていくかも焦点となりました。沼田氏はウィッシュリストの数値を「認知と購入意欲をかけ合わせた結果」と表現し、井上氏は「リスト登録したファンの熱量を高めなければ、購入につながらない"死にウィッシュリスト"となってしまう」と形容しました。

リストに登録したユーザーを、ファンではなく開発仲間という意識で迎え入れる。コミュニティを通じて開発の過程を共有し、発売日を「俺たちのゲームがローンチした日」として一緒に迎えてもらう。井上氏はこうした取り組みを通して「ユーザー自身がマーケターになって一緒に熱狂してくれる状態を作れて初めて、発売日以降も第2・第3の売上の山に繋がったという強い実感があります」と振り返りました。

特集:GAME FUTURE SUMMIT 2026