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出版社パネルや展示に見るAnime Expoの内容とファンの広がり~特集:Anime Expo 2026
公開日: 2026/08/06

特集:Anime Expo 2026 第3回

日本のアニメやマンガなどのポップ・カルチャーに特化した北米最大級のコンベンション「Anime Expo」が7月2日から5日にかけて米ロサンゼルスで開催されました。特集第3回は、出版社・配給会社のパネルと展示ブースに着目。ヒットマンガ獲得の舞台裏を語った出版社横断パネル、インディペンデント系配給会社GKIDSの戦略、そして日中韓のIPが混在する展示ブースの様子をレポートします。
※本記事で触れられている内容は2026年7月時点の情報です。

《目次》

 

 

出版社の編集者が一堂に――米国マンガ出版の“ヒット獲得競争”の舞台裏

「From Japan to the US: How Manga is Acquired and What Breaks Through」「From Japan to the US: How Manga is Acquired and What Breaks Through」

映像だけでなく、出版のパネルもAnime Expoの重要な柱です。その象徴が、初日に行われたパネル「From Japan to the US: How Manga is Acquired and What Breaks Through」でした。ペンギン・ランダムハウスで講談社の米国出版を担当するベン・アップルゲート(Ben Applegate)氏、日本のマンガ・アニメの翻訳出版と日本アニメの映像販売を行うVIZ Mediaのホープ・ドノヴァン(Hope Donovan)氏、SQUARE ENIX MANGA & BOOKSのレイラ・エーカー(Leyla Aker)氏、そしてペンギン・ランダムハウスが設立したアジア発のコンテンツに特化した新しい出版レーベルInkloreのレベッカ・テイラー(Rebecca Taylor)氏、同出版社傘下のRandom House Graphicが展開するInk Popのホイットニー・レパード(Whitney Leopard)氏と、大手からインディペンデントまで、普段はライバルである米国マンガ出版各社の編集者が同じステージに並びました。日本のマンガがどのように米国市場でライセンス取得され、何がヒットを分けるのかを本音で語り合いました。

議論の中心の一つは、ライセンス判断における「ハート(編集者の直感)」と「ブレイン(商業分析)」のバランスでした。キャラクター・物語・商業性は方法論的に評価できる一方、“雷に打たれる瞬間”が必須条件として挙げられました。『BEASTARS』に出会って一晩で9巻読み切ったという編集者の告白は、データ全盛の時代にも作品と出会ったときの熱量がヒットの起点であることを示していました。

出版業界で利活用されているデータの限界についても率直な考えが披露されました。「トレンドとしてラベリングされた作品は、もうトレンドが終わっている」「日本でヒットしても米国でのヒットは保証されない(新選組もののように文化的な前提知識が要る作品は響きにくい)」「SNSのバズは売上とイコールではない」。そうしたなかで目利きたちが販売データが乏しい作品への代替として挙げたのが、二次創作投稿サイト「Archive of Our Own(AO3)」の投稿量から“ファン密度”を測る手法や、Discordのファンコミュニティ、コスプレのトレンド、さらにはファン翻訳サイトまでを組み合わせて需要を三角測量するという、インディペンデント系ならではの実践でした。

ジャンル面では、ホラーや心理スリラーの伸び、安定した買い支えのあるBL・GL、英語圏で供給不足の少女・女性向け作品などが有望領域として挙げられました。さらに「米国のマンガ読者は一般書籍の読者に比べ、エスニシティ・性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性が際立って高い」「LGBTQ+作品は日本より米国で売れる場合があり、海外需要が日本での企画にも影響し始めている」という指摘もありました。


Q&Aでは絶版復刊の経済学も明かされました。復刊には最低ロットと倉庫費用の壁があり、海外印刷は発注から8~16週間かかること、出版権は5~10年の期限付きで失効すれば再交渉が必要ということが指摘されました。また、ニッチなBL・GLはクラウドファンディングが選択肢に入ることなど、ジャンルによって復刊への道のりが異なることが語られました。

「Seven Seas Industry Panel」「Seven Seas Industry Panel」

こうした出版社横断の議論の場に加え、各社の単独パネルも活発でした。大手ではVIZ Mediaが『BLACK TORCH』のワールドプレミアパネルを主催し、講談社は『ブルーロック』原作者の金城宗幸氏と作画担当のノ村優介氏のパネルを開催。インディペンデント系では、創業22年、年間約1,000点を刊行する出版社Seven Seas Entertainment(2026年3月1日に株式会社メディア・ドゥが全株式取得)のパネルで、同社のインプリント(出版レーベル)構成が紹介されました。その構成の中では、日本のマンガ・ライトノベルに加えて、中国発BL作品の「Danmei(耽美/ダンメイ)」とGL作品「Baihe(百合・バイフー)」や、ウェブトゥーンなどが含まれています。この日発表された新ライセンスにも中国発作品が複数含まれ、北米の出版市場で「日本のマンガ」の隣にアジア発コンテンツの棚が着実に育っていることがうかがえました。セッション中、新作の発表にはファンが嬉しさのあまり絶叫したり、パネル中に何度も挟まれる書籍が当たるラッフル抽選会に会場が沸いたり、ファンイベントらしい熱量も印象的でした。

 

“アニメのA24” GKIDS――劇場と物理メディアで「失われた作品」を連れ戻す

「GKIDS Industry Panel」「GKIDS Industry Panel」

昨年“アニメのA24”を自称した配給会社GKIDSのパネルは、インディペンデント系配給の哲学がよく表れた内容でした。作品獲得の基準は、厳密な計算よりも「感情的な反応」であるとされ、チームは映画研究者と、LiveJournalやTumblr、X育ちの生粋のアニメファンの混成であると紹介されました。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の劇場上映、『君の名は。』公開10周年の劇場再上映、『オッドタクシー』チームの新作『ホウセンカ』の9月4日劇場公開、『ゴジラ-0.0』の大規模上映計画に加え、フィジカルメディアでは『パーフェクトブルー』の4K UHD、北米初4K化となる『鉄コン筋クリート』(20周年)、『天使のたまご』4K UHDなど、コレクター向け商品を続々と発表。東宝傘下に入ることで主要な東宝作品を手掛けつつ、独自のキュレーションに基づく作品も手掛ける同社の姿勢が垣間見られました。

 

出展ブースの多国籍化・異業種化

展示ホールでは、出版社・映像会社・グッズメーカーによる体験ブースと物販が高密度で展開され、来場者は購入品や配布グッズを抱えて回遊していました。昨年に続きCrunchyrollの大型ブースが存在感を示す一方、今年はゲーム企業も目立ち、しかも日本発に限らないアジアコンテンツが立ち並びました。『原神』などを擁するHoYoverse、韓国のNEXON、ポーランドのCD PROJEKT REDなどが出展。北米の「アニメ」市場が、日本IPを中心としつつもアジア・世界のゲーム・マンガ・ウェブトゥーンを横断する"統合エンタメ市場"として動いていることを実感しました。

その象徴と言えるのが、中国発の恋愛シミュレーションゲーム『恋と深空-Love and Deepspace-』です。大きなイベントブースを構え、ゲーム内のキャラクターとファンとの交流イベントを開催。“観る”だけでなく“キャラクターと会う”“実際に触れあう”体験を提供する設計に、来場者の長い列ができていました。日本・中国・韓国発のIPが同じ会場に並び、来場者が制作国をほとんど意識せずに回遊する光景は、「アニメファンダム」が「日本発コンテンツ」の枠を超えて拡張している現状を反映しています。

異業種の出展も広がっています。JR東海・JR東日本といった鉄道会社に加え、ANA・JALなど航空各社も出展。アニメファンのインバウンド旅行需要を取り込むことが狙いです。さらに、鉄道や新幹線グッズなどのニッチな商品が実際に売れる場面も見られ、アニメイベントの経済圏がコンテンツ産業の外側へ広がっていることを示す象徴的な光景でした。

取材・文:梅津 文

特集:Anime Expo 2026