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ファン交流・新作発表パネルから見える日本アニメの北米浸透状況~特集:Anime Expo 2025
公開日: 2025/07/18

特集:AnimeExpo 2025 第2回

日本のアニメやマンガなどのポップ・カルチャーに特化した北米最大級のコンベンション「Anime Expo」が7月3日から6日にかけて米ロサンゼルスで開催されました。本特集では、現地の様子や注目のイベントについてレポート。第2回は、人気のアニメクリエーターや制作・事業会社がファンとの交流や新作発表などを行う「パネル」に着目。その施策や内容を通じて、北米における日本アニメの浸透状況を紐解きます。
※本記事で触れられている内容は2025年7月時点の情報です。

《目次》

 

 

『鬼滅の刃』など人気アニメのパネルも大盛況

Anime Expoにおいて多数の人が集まるイベントの一つに、人気のアニメクリエーターや制作・事業会社がファンとの交流や新作発表などを行う「パネル」があります。「パネル」では、ファンに特別な体験をしてもらう“お決まり”的な工夫があり、「作家・声優らによるトークセッション」や「ライブアフレコ・ドローイング」「Give away(来場者プレゼント)」などを実施して会場を大いに盛り上げていました。

 

プレミアコンサートさながらの『鬼滅の刃』6周年記念イベント

「6周年記念イベント」銘打った『鬼滅の刃』のパネルが、現地7月4日午前10時半より会場内で最大収容人数を誇るPeacock Theaterで開催されました。同パネルでは、これまでのストーリーのハイライト映像を1時間たっぷり流しつつ、20人規模のバンドが音楽を生演奏。さらに、日本語版で竈門炭治郎の声優を務める花江夏樹と、英語版で我妻善逸の声優を務めるアレックス・リーが生アフレコを行うという豪華なものでした。

本作の劇場版最新作『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は、日本では7月18日に公開を迎えましたが、北米では9月12日にクランチロールとソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの配給で劇場公開予定です。パネルでは、北米公開前となる7月26日に、米サンディエゴで開催されるComic-Con(コミコン)で外崎春雄監督、花江らが登壇するイベントを開催することを発表。しかも、ハリウッドメジャースタジオが予告編を上映するなど最大級規模のパネルを行う“Hall H"で行われることも告知されました(プレスリリース)。『鬼滅の刃』が北米でポップ・カルチャーのメインストリームマーケティングを行っていることがうかがえます。

『鬼滅の刃』6周年記念イベント
 

ヒット作・人気作品パネルを数多く大規模に実施したTOHO animation

出展3年目となるTOHO animationは、『僕のヒーローアカデミア』(現地7月5日午前10時~)、および『呪術廻戦』(7月6日10時~)のパネルをPeacock Theaterで実施。取材した参加者から「TOHO animationと聞くと、品質の良いアニメというイメージがある」というコメントが出るなど、ブランドが北米のアニメファンに浸透している様子がうかがえました。

僕のヒーローアカデミア』のパネルには、本作の主人公である緑谷出久の日本語版声優を務める山下大輝、英語版声優を務めるジャスティン・ブライナーとともに、「週間少年ジャンプ」の編集者が登壇。10月に配信が始まる最終シーズンの制作秘話を語ったほか、原作者の堀越耕平がAnime Expoのために描きおろしたイラストを公開しました。

TOHO Animation『僕のヒーローアカデミア』パネル

呪術廻戦』のパネルでは、2週間後の7月16日に北米公開を控えていた『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』の紹介、限定動画公開に加えて、主人公の虎杖悠仁役の榎木淳弥と乙骨憂太役の緒方恵美が登壇し、ファンからの質問に答えるなど会場を盛り上げました。

『呪術廻戦』のコスプレイヤーら

「今さっき会ったばかり」と語った『呪術廻戦』のコスプレイヤーら。写真撮影を依頼すると、「虎杖(悠仁)が今いないからちょっと待って」とわざわざ呼んでくれました。Anime Expoに来るまでは他人であった人も、同じアニメのコスプレをやっていることをきっかけに友人となってつながっていく様子は、会場内の至る所で見かける光景です。

 

『怪獣8号』パネルはクランチロールが開催、アメリカに根付いたイベント回し

怪獣8号』は、クランチロールが"Kaiju No. 8 Panel Powered by Crunchyroll"と銘打って7月6日12時にPeacock Theaterでパネルを実施。スペシャルゲストとして、主人公・日比野カフカの日本語版声優を務める福西勝也と英語版声優のナジー・ターシャとともに、キャスティングディレクターのショーン・ガンが登壇しました。

日英それぞれの声優によるライブアフレコとともに、福西による台本になかったアドリブ発言や行動によって会場は大盛況。帰り際にファンの一人が「僕は普段は吹替で観るほう。でも、去年も福西勝也がAnime Expoに登壇したときに、面白い人だなと思ったので、『怪獣8号』は字幕版も観ている。今年も彼が登壇して嬉しい」と語っていました。コアなファンに向けたイベントの持つ力がうかがえます。

なお、『怪獣8号』のパネルでは、開始前に2人のアメリカ人MCが舞台下でコスプレイヤーを集め、「どこから来たの? コスプレで苦労した点は?」などと質問。そのやり取りは、日本アニメのイベントではあるものの、アメリカでのイベントっぽい雰囲気が感じられました。アメリカでスタートした企業であるクランチロールが、アメリカの観衆を理解してコミュニケーションをとっている様子が垣間見えました。同社は会場内展示でも大きな存在感を誇りましたが、パネルでも『ガチアクタ』の配信発表、『葬送のフリーレン』シーズン2の予告編解禁、続編制作決定発表のあった『薬屋のひとりごと』のパネルを実施するなど、アメリカでアニメビジネスをけん引するプラットフォームとしての存在感を示していました。

『怪獣8号』のパネル
 

Netflix「加入者3億人の半分がアニメを見ている」とアニメのグローバル化をアピール

Netflixは、“Netflix Showcase: Discover Your Next Favorite Anime”と銘打ったパネルで今後のラインナップを中心に紹介。登壇者から3億人の契約者の半数がNetflixでアニメをみていると明かされ、日米を超えた世界のアニメ人気を印象付けました。

日本アニメでは、非英語作品として10週間TOP10入りを果たした『SAKAMOTO DAYS』や、26年に配信開始予定の『BEASTARS』のFINAL SEASON Part2、ゲーム原作の『Devil May Cry』などのSF・アクションに加えて、『光が死んだ夏』のようなホラー×青春といったようなジャンルも提供しており、「日本アニメ」のラインナップの多様性が浮き彫りになりました。さらに日本マンガを原作とした日本アニメ制作会社のアニメだけでなく、「アメリカの製作陣、制作会社によるアニメ」(エミー賞4部門、アニー賞6部門で受賞した『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』)、ストップモーションアニメ(『My Melody & Kuromi』)など、グローバル企業として「アニメ」の境界を広げる取り組みを印象付けました。

“Netflix Showcase: Discover Your Next Favorite Anime”
 

個別作品プレミアや20周年を迎えたAniplex of America、“アニメのA24” GKIDSなどの制作会社もパネルを多く開催

人気アニメシリーズやプラットフォームが主催する大規模ファンミーティングイベンドだけでなく、新作発表や個別企業のパネルも多数実施されました。『BEASTARS』の板垣巴留原作、『ダンダダン』のサイエンスSARUが制作を手掛ける新作『SANDA』のパネルでは、第1話のプレミア上映のほか、板垣によるライブドローイングが披露されました。

『BEASTARS』のキャラクター「レゴム」に扮した板垣巴留(左から2人目)『BEASTARS』のキャラクター「レゴム」に扮した板垣巴留(左から2人目)

Aniplex of Americaは20周年を銘打ったパネル“Aniplex of America 20th Anniversary Industry Panel”を開催。『ソードアート・オンライン』『魔法少女まどか☆マギカ』など配信中の人気アニメを紹介するとともに、9月に劇場公開を控える『鬼滅の刃』や7月5日配信開始の『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』、今後配信予定の『ヴァージン・パンク』などの新作を紹介。

そのほかアニプレックスグループは、Aniplex of Americaのゲームタイトルを扱ったパネルや、 CloverWorks作品、『鬼滅の刃』関連、A-1 Pictures20周年パネル、FGO8周年×TYPE-MOON Projectsなどを開催しました。

Aniplex of America 20th Anniversary Industry Panel

株式会社東宝の米子会社Toho International, Inc.が24年10月に完全子会社化した米アニメ配給会社GKIDSは、最終日となる7月6日午後にセミナールームでパネルを実施。

アートハウス系の作品配給を得意とし、スタジオジブリ作品、新海誠監督や細田守監督作品の配給で知られる同社の登壇者は、自社を「アニメのA24」と表現。今後の劇場公開ラインナップとして、『もののけ姫』の4K・IMAX上映や『シン・ゴジラ』の4Kリマスター版上映、カンヌ国際映画祭で公式上映され、アヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を受賞した“Little Amélie or the Character of Rain”、同審査員賞を受賞した青木康浩監督の『ChaO』、今年のカンヌ国際映画祭でも上映された押井守監督の『天使のたまご』の4Kリマスター版上映などを紹介しました。

GKIDS
 

場外アニメイベントとしてのドジャース戦コラボ

Anime Expo期間中、大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースの本拠地ドジャースタジアムで行われた試合でコラボイベントが実施されました。7月3日のシカゴ・ホワイトソックス戦では『ONE PIECE』と、7月5日のヒューストン・アストロズ戦では昨年に続き『ホロライブプロダクション』とコラボし、多くのAnime Expoの一般・事業参加者も観戦を楽しみました。このようにAnime Expo開催地の近隣でもアニメビジネスに注目する人々が集まるイベントが開催されていました。

来場者4万人に配られた麦わら帽子をかぶって観戦する人も多くみられた『ONE PIECE』ナイト
Hololive限定グッズを求めてグッズショップにも長蛇の列

取材・文:梅津 文

特集:Anime Expo 2025