米国アニメファンの実像にマーケティングリサーチで迫る――グローバルエンタメファンダム調査に基づく「KAIJU Report」プレゼンテーション~特集:Anime Expo 2026
公開日: 2026/08/06
米ロサンゼルスで開催された北米最大級のコンベンション「Anime Expo 2026」の様子をレポートする本特集。第5回は、FanserveUsによる「Delicious in Data: Anime Market Research with FanserveUs」を紹介します。本プレゼンテーションでは、当社GEM Partnersの「グローバルエンタメファンダム調査」に基づいてFanserveUsが手掛けた「KAIJU Report」の最新データを公開。のべ15市場・3.4万人の調査データから、米国アニメファンの実像、日本のソフトパワーの現在地、ハリウッド実写化への期待、そしてマーチャンダイジングの未開拓機会が語られました。
※本記事で触れられている内容は2026年7月時点の情報です
スピーカー
ジョン・マッカラム(John McCallum) FanserveUs:CEO
ミッチェル・ノワコウスキー(Mitchell Nowakowski) FanserveUs:Giant of Analytics
- 「アニメは小さなジャガイモ」と言われた時代から――2020年から世界のアニメファンを定量化するチーム
- パンデミック後も“定着”したアニメ視聴――コンソールゲームとの対比
- 60代の7割は「アニメを知らない」――世代で割れる認知とファン自認
- 「日本は新しいイタリア?」――34カ国比較でソフトパワーを定量化する
- 日本IPのハリウッド実写化へのポジティブな姿勢は上昇中――『ONE PIECE』効果とキャスティング分析
- 世界のファン分布と収益分布のギャップ――マーチャンダイジングの未開拓機会
- Q&A「アニメ人気はバブルではないのか?」
「アニメは小さなジャガイモ」と言われた時代から――2020年から世界のアニメファンを定量化するチーム
「この中でデータ分析にワクワクする人は?」。満席の会場への挙手の呼びかけから始まった本セッションは、クイズ形式で来場者に問いを投げ、正解者に日本の菓子「ブラックサンダー」やステッカーを配るという、参加型のプレゼンテーションでした。
左からジョン・マッカラム氏、ミッチェル・ノワコウスキー氏
登壇したジョン・マッカラム氏は、2020年からグローバルアニメ視聴者の調査・定量化を手掛けてきました。キャリア初期に所属した大手調査会社で「アニメをもっとクライアントに提案すべきだ」と進言したところ、担当役員に肩に手を置かれ、「アニメは小さなジャガイモ(取るに足らない存在)で、我々の時間を割く価値はない」と言われたというエピソードを披露。「いまはこのオーディエンスに全力で取り組めることが本当に嬉しい」と語るマッカラム氏。かつて一蹴されたテーマが自身の主戦場になったという対比に、会場からは笑いが起きました。
現在マッカラム氏が率いるFanserveUsは、GEM Partnersとのパートナーシップのもと、「グローバルエンタメファンダム調査」に基づく「KAIJU Report」を展開しています。「グローバルエンタメファンダム調査」は、アニメ、マンガ、特撮、ゲーム、映画、キャラクター、音楽、VTuberなど、日本のポップ・カルチャーが消費されるタッチポイントを横断的にカバーする大規模シンジケート調査で、13~69歳を対象に各市場1,000サンプル、米国のみ市場規模を踏まえて毎年4,000サンプルまで積み増して回収。2025年・2026年の2回分の累計は15市場・約3.4万人(米国8,000人)に達します。今回のプレゼンテーションは「KAIJU Report」の最新版をもとに米国にフォーカスした内容となりました。
米国で厚いサンプルを取る狙いについて、マッカラム氏は「都市・都市圏レベルの戦術的な分析ができる」ことを挙げます。サンプルが小さい都市圏については報告しないという規律を守りつつ、調査回を重ねて統合することでサンプルを積み増し、主要都市圏の分析を可能にしていくアプローチが説明されました。配布資料では、ロサンゼルスとニューヨークの人気アニメ作品ランキング比較も例示されています(両都市とも首位の『ドラゴンボール(Dragon Ball)』ほか、『鬼滅の刃(Demon Slayer)』『NARUTO ・BORUTO』『ONE PIECE』が上位に入っている点は同じです。一方、ロサンゼルスでは『DEATH NOTE』『BLEACH』、ニューヨークでは『機動戦士ガンダム(Gundam)』『俺だけレベルアップな件(Solo Leveling)』がTOP10入りするなど顔ぶれが異なる部分もあります)。
もう一つ強調されたのは、既存データとの補完関係です。「たとえNetflix(のような巨大プラットフォーム)であっても、(調査をしなければ)米国アニメファンダムの全体像は持っていない。各種のコアなファンが集うサイトも、特定のファン層の興味深いデータは得られるが全体像ではない。我々は既存のデータソースを置き換えるのではなく、ギャップを埋め、クライアントがアニメファン全体の姿をつかめるようにする」とマッカラム氏。一般的な人も含めた大規模消費者調査によって全体像とともに、幅広いアニメファンの姿を描くことが狙いです。
パンデミック後も“定着”したアニメ視聴――コンソールゲームとの対比
プレゼンテーション本編は、米国におけるアニメの「直近3カ月視聴率」の年次推移データからスタート。2019年から2020年にかけてパンデミックがアニメ視聴を大きく押し上げたことはよく知られていますが、注目すべきはその後です。マッカラム氏は、パンデミック期に急増した後に世界が日常へ戻るとともに減少へ転じたPC・コンソールゲームと対比しながら、「アニメ視聴の粘着性(stickiness)には正直驚かされてきた。試してみた人がそのまま定着した。パンデミックは、もともと起きていた成長を加速させたにすぎない」と解説しました。
60代の7割は「アニメを知らない」――世代で割れる認知とファン自認
続いて示されたのは世代別のエンゲージメント構造です。「アニメのファンだと自認する」「エンタメジャンルのTOP5にアニメを挙げる」「ナンバーワンのジャンルに挙げる」という段階別のデータでは、30歳未満とそれ以上の世代の間に大きな断層があることが示されました。
ここでクイズが出題されます。「60代で『アニメを知っている』と答えた人は何%でしょう?」。客席からの「15%」という回答に続き、2人目が「26~30%」で正解。60代の認知は約30%、つまり7割はファンでない以前に「アニメが何かを知らない」状態です。マッカラム氏は「組織の意思決定者の中にはアニメを知らない世代がまだ多い。アニメが何かを知らなければ、このオーディエンスの機会を正しく評価することは難しい」と、この認知ギャップのビジネス上の意味合いについて触れました。
「日本は新しいイタリア?」――34カ国比較でソフトパワーを定量化する
今年の調査から新たに加わったのが、34カ国のリストから「どの国の文化のファンか」を尋ねる設問です。米国の回答では、すべての年齢層で自国アメリカが1位。では2位は?――10代、20代、30代、40代、50代まで、一貫して日本でした。60代では日本が上位3カ国から外れ、イタリアが2位に。日本への選好率は若い世代ほど強く、年齢とともに弱まることが確認されました。マッカラム氏が「日本は新しいイタリア、ということでしょうか」と会場を沸かせる場面も。
さらにこの日本人気は、共和党支持層(Republicans)・民主党支持層(Democrats)のいずれでも2位という“超党派”であることも紹介されました。
「日本と米国、どちらが優れているか」というカテゴリ別の品質評価では、米国の一般人口(13~69歳、アニメファンに限らない)が日本を選んだ割合は「マンガ/コミック」で56%、「アニメーション」で54%と過半数を占めた一方、「ビデオゲーム」は45%、「映画」は25%にとどまりました。マッカラム氏は「日本のエンタメすべてが無条件に選ばれる“ハロー効果”ではない。消費者はカテゴリごとに意味のある形で品質を見分けている」と語りました。
日本IPのハリウッド実写化へのポジティブな姿勢は上昇中――『ONE PIECE』効果とキャスティング分析
「ハリウッドにおけるアニメ実写化は“発展途上”だった」。映画批評サイト「Rotten Tomatoes」の批評家スコアと観客スコアを簡易指標として振り返ると、過去の実写化には苦戦の歴史があります。しかし調査では、アニメファンの実写化への楽観度が1年前と比べ上昇していることが確認されました。背景の一つがNetflix版『ONE PIECE』の成功です。調査に含めたモンキー・D・ルフィ役のイニャキ・ゴドイ(Iñaki Godoy)、ナミ役のエミリー・ラッドはいずれも、ファンベースに占めるアニメファン比率が非日本人セレブリティの中でトップクラスであり、うちゴドイは自身のファンの大きな割合が『ONE PIECE』ファンで占められ、同作が俳優のファンベース拡大を実際に牽引したことが読み取れるといいます。また、日本の俳優であるロロノア・ゾロ役の新田真剣佑もアニメファン比率が高いことが分かりました。
会場を沸かせたトリビアクイズもありました。「過去15年のアカデミー賞主演男優賞受賞者のうち、ファンベースに占めるアニメファン比率が最も低いのは?」――正解はレオナルド・ディカプリオ。「スコセッシ監督がこのパネルを知ったら考え直すかもしれない」というジョークを挟みつつ、続く本題はキャスティング分析です。
具体例として取り上げられたのは、『ガンダム』の実写映画の主演を務めるシドニー・スウィーニーのケースです。彼女のファンダムと『ガンダム』ファンダムの重なり(ガンダムファンの24%がシドニー・スウィーニーファン、シドニー・スウィーニーファンの9%がガンダムファン)は、一般人口比で高いことが分かりました。年齢構成もともに30〜40代を山とする点で共通します。
一方で相違点もあります。『ガンダム』のファンベースは30~49歳が56%を占め、約7割が男性という濃い偏りを持ちます。共和党支持と答えた割合は、アニメファン33%、ガンダムファン39%、米国全体41%、シドニー・スウィーニーファン49%で、両ファンダムは米国平均を挟んで逆方向に位置していました。マッカラム氏は「打ち出し方次第で摩擦にもなるが、観客を広げる機会にもなる」と述べました。
このように、様々な観点でファンダムの重なりや嗜好を分析できることがこのデータの強みです。
世界のファン分布と収益分布のギャップ――マーチャンダイジングの未開拓機会
経済的な議論の中心となったのは、「ファンの分布と収益の分布が一致していない」という論点です。アニメファンの圧倒的多数が日本国外に住んでいるにもかかわらず、海外の収益は日本動画協会のデータを例に日本の約1.3倍にとどまっていることが示されました。マッカラム氏は「マネタイズや過少収益化という言葉はドライに聞こえるかもしれないが、ファンの立場から言い換えれば、海外のファンは大幅に“アンダーサーブド(供給不足)”だということ。日本国内のファンへの供給効率と比べ、海外市場でははるかに非効率な状態にある」と語ります。
その最大のレバーがマーチャンダイジングですが、ここでも「アニメファン」を一括りにする発想への警鐘が鳴らされました。少年マンガ原作の『鬼滅の刃(Demon Slayer)』『ドラゴンボール(Dragon Ball)』『ONE PIECE』に『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ(KPop Demon Hunters)』を加えた支出カテゴリ比較のクイズでは、『鬼滅の刃』ファンの支出1位がマンガである一方、『ドラゴンボール』ファンの上位10カテゴリにマンガが入らないという意外な結果が明かされ、会場がどよめきました。衣類はどのファンダムでも人気ですが、『鬼滅の刃』ファンではマンガが衣類を上回るなど優先順位はシリーズごとに異なります。Q&Aでは「多くのシリーズで衣類しか商品がないことへのファンの不満」「フィギュアなどコレクター商品への強い需要」も指摘され、「シリーズ別のファンベース理解に基づくマーチャンダイジング戦略」の必要性が繰り返し強調されました。
Q&A「アニメ人気はバブルではないのか?」
Q&Aセッションでは多くの人が登壇者に質問を投げかけました。「2025年から2026年にかけて視聴率の伸びが小さな踊り場を迎えている。COVIDのような大きな押し上げ要因がない今後、成長は鈍化するのか。つまり、これはバブルなのか?」という質問に対し、マッカラム氏は「ヒット作の有無で上下する年は必ずある。しかし若い世代ほどアニメ人気が高く、人はアニメを年を取って突然嫌いになったりはしない。これが中長期成長の明確なドライバーだ」と補足しました。
「アニメの定義をどこまで広く取っているのか。パキスタン発のジブリ風作品“The Glassworker”や中国のマンホア(漫画)、韓国のマンファ(漫画)はどうか」という質問には、「競合ジャンルとして中国・韓国発の作品群も追跡しているが、最も重要なのは、ファン自身に定義させるという設計。われわれが“何がアニメか”を決めるのではなく、自分をアニメ視聴者だと答えた人が実際に何を観ているかを明らかにする」と回答しました。
来場者から多くの質問がなされ、データへの関心の高さと熱気の中で、約1時間のセミナーは締めくくられました。
プレゼンテーション後、多くの質問者が列をなしました
取材・文:梅津 文
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