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NEXONが実践するユーザー獲得戦略 グローバル市場での成否はどこで分かれるのか 〈GAME FUTURE SUMMIT 2026〉
公開日: 2026/06/22

特集:GAME FUTURE SUMMIT 2026レポート 第2回

ゲームマーケティングとプロデュースに特化したカンファレンス「GAME FUTURE SUMMIT 2026」をレポートする本特集。第2回は、モデレーターのMoloco合同会社の長島大介 Growth DirectorとNEXONでUA(User Acquisition:ユーザー獲得)を統括するキム・ホヨン氏(Head of UA)によるセッション「良いゲームを、もっと遠くへ──グローバル実践者と語る、AI時代のマーケティング投資の思考と実践」の内容をお届けします。
セッションでの話題はマーケターのユーザー獲得だけにとどまらず、開発者、経営者も巻き込んだ「コンテンツをより遠くへ届けるための思考と組織のあり方」が示されました。

※本記事で触れられている内容は2026年6月時点の情報です。

左からMoloco合同会社の長島大介氏、NEXONのキム・ホヨン氏 左からMoloco合同会社の長島大介氏、NEXONのキム・ホヨン氏

 

《目次》

 

 

「良いコンテンツは自然に届く」はすでに幻想

講演冒頭、約16年のゲーム業界でのキャリアを持つキム氏は、かつて『アラド戦記』などのゲーム開発を担当していた際「魂を込めて本当に良いゲームを作れば、ユーザーが自然と見つけてくれる」と信じていたと振り返ります。しかし約5年前にUA(User Acquisition:ユーザー獲得)担当へと転じて、その認識は覆されることとなりました。

「ユーザーが自分からゲームを探しにくる時代は、とっくの昔に終わっていました」とキム氏は明言します。「YouTube、Instagram、TikTokなど膨大なコンテンツがある中で、自社のゲームでユーザーの注目を勝ち取らなければいけません」とその競争の激しさを強調しました。

さらに踏み込んだのは、「ユーザーが最初にコンテンツを体験する瞬間はどこか」という問いです。ゲームをダウンロードしてチュートリアルを始める瞬間ではなく、SNSをスクロール中にふと目に止まる15秒の広告動画こそが、ユーザーにとっての最初のゲーム体験だと話します。「だからこそ、これはマーケターだけの仕事ではない。開発者もマーケターも一緒に考えるべき、UXの領域なのです」と力を込めました。

 

グローバル成功のカギは組織設計にあり

「グローバルで成功する企業とそうでない企業の違いはどこにあるのか」。長島氏からの質問に対し、キム氏は予算の多寡でもIPの知名度でもなく、決定的な差は「組織の設計」と「仕事の進め方」にあるとの考えを述べました。

キム氏はその違いを「リレー走」と「二人三脚」という比喩で説明しました。従来型の開発スタイルではリレー走のように、開発チームが外部から遮断された状態で2〜3年かけてゲームを完成させ、その後マーケティングチームに引き渡すような体制をとっています。この問題点は、開発中に外部環境が大きく変化してしまうことです。2〜3年前の市場感覚のまま完成したコンテンツを届けようとしても、マーケターはその中身を変えることができません。

キム氏は「この方式は、NEXONも含めた韓国の主要ゲーム会社のほとんどで行われています。これは自戒を込めた反省でもあります」と付け加えました。長島氏も「日本のゲーム会社の皆さんともやり取りをしていて、マーケティングと開発チームの間にギャップがあることも多い」と自身の経験を補足しました。

その一方で、「グローバルでリードする企業のほとんどは、開発とマーケティングが『二人三脚』の体制をとっている」とキム氏は話しました。具体的には「ごく初期のコンセプトアートやプロトタイプ映像ができた段階からすぐにUAテストを実施し、キャラクター人気やCPI(インストール単価)を北米のユーザーで検証します」と説明しました。

この二人三脚の積み重ねで、ローンチまでに膨大なCPI・リテンション・LTV(顧客生涯価値)データが蓄積されます。「コストをいくら投入すればいくらの利益が得られるか、すでに全て計算された状態でローンチを迎えるので、非常に速くスケールできます」とメリットを示しました。

さらに、この施策において特に重要なのは、開発チームがそれを余計な口出しと受け取らず、フィードバック情報として活用しながらコンテンツを磨いていく姿勢だと語りました。日本のゲームディレクターやプロデューサーに向けて「素晴らしいコンテンツを、もう少し早くユーザーに見せてほしい。初期段階からUAテストで市場に問い、方向性をマーケターともに磨いてほしい」と呼びかけました。

 

UA(ユーザー獲得)予算は「コスト」でなく「投資」へ

「広告はコストとして捉えられがちですが、NEXONにとって広告はどういう位置づけでしょうか」。長島氏の質問を受け、キム氏は同社でのUA予算の管理方法を語りました。

NEXONではUA予算を一般的なマーケティング予算と切り離して管理しています。その基準となるのは「ユーザーをいくらで獲得し、LTVはいくらか、コストをいつまでに回収するか」を社内定義したアルゴリズムです。キム氏は「投資対効果が想定通りに進んでいる限りは予算を投入し続け、見込みが立たなければ広告を止めるという運用方式です。つまり、予算上限に制約を設けていないのです」と強調しました。

このような「UA予算を『コスト』ではなく、企業への『投資』として捉える」という運用設計は、経営陣・開発・マーケティング・財務を交えて定義されたといいます。上場企業であるNEXONで経営層を説得するためには、「数え切れないほどの実験とデータの積み重ねが必要でした」と振り返りました。また社内での承認は、「直近での『メイプルストーリー』シリーズのグローバルでの成功が大きな後押しとなりました」と語りました。

加えて、こうした設計は開発チームとマーケティングチーム間での対話を生むきっかけとなったとも話しました。「広告費が止まると新規ユーザーの流入がなくなるため、開発チームからLTVを上げるために何をすれば良いかという質問が自然に出てくるようになりました」。

 

AI活用で磨くべきは「改善サイクル」

セッション後半には、NEXONでのAI活用にも話が及びました。キム氏がAI活用の目的として据えるのは「IPを通じてユーザーの心に届くクリエイティブを作れるかどうか」という点だとしました。「AIの普及で大量の広告クリエイティブが生成できるようになりましたが、量産はあくまで手段です。ユーザーに届く広告を見つけるために、数を作るのだという考えです」

セッションの様子 セッションはAIによる同時通訳を介して進行された

 

加えてキム氏は、ヒットした広告クリエイティブを見つけた後の動きにこそ、AI活用の本質があると指摘します。発見したクリエイティブをAIで分析し、人間は「何を変えて再生産するか」の仮説を立て、成功事例を再生産する。この改善サイクルを構築し高速で回し続けることこそ、現在のマーケターの中心的な仕事だと位置づけました。

広告配信もAIで最適化されており、プラットフォーマー側で配信先やターゲティングまで自動で探してくれる時代になったとキム氏は言及しました。「これからのマーケターがすべきことは、開発チームとともにグローバルユーザーへのパイプラインを設計し、データを集め、コンテンツを磨くことです。私はこれを、オーケストラの指揮者のような誇り高い仕事だと思っています」

最後にキム氏は、日本のエンタメコンテンツへの期待を率直に語りました。ポケモンセンターや任天堂のオフィシャルショップを訪れるたびに感じる熱量を引き合いに、「日本のIPには国境がなく、押し付けがましいプロモーションも行わず、それでも愛され続けている。細部へのこだわりと、職人魂がある」と述べ、コンテンツをグローバルへ届ける機会はこれから大きく開かれるとの考えを示しました。

経営者はマーケティングを投資として再定義し、開発者は早い段階から市場に向き合い、マーケターは指揮者としてチームを束ねる。キム氏はこの3者が一体となった体制こそがコンテンツをより遠くへ届けていく条件だと語り、セッションを結びました。

特集:GAME FUTURE SUMMIT 2026レポート