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クリエイターと技術者は、どう組むか/AIをめぐる協業のかたち
公開日: 2026/07/02

特集:カンヌ国際映画祭 2026 第10回<カンヌ映画祭2026レポート 映画とAI編 4>

前回まで、AIが新しい制作方法を生む側面(生成)と、既存の現場を拡張する側面(支援)を見てきました。AIの実装をめぐってもう一つ繰り返し語られたのが、「クリエイターと技術者、そしてテック企業がどう組むか」という協業のかたちです。今回は、5月17日に「Cannes Next」で開かれたパネル「Hybrid Futures」を中心に、その実際を見ていきます。
※本記事で触れられている内容は2026年5月時点の情報です。

VILLAGE INNOVATION

 

《目次》
 

元ピクサーのクリエイターが、Google DeepMindで作る

アンディ・コーネン氏(左)、コニー・フー監督(中)、リカルド・ビヤビセンシオ監督(右) アンディ・コーネン氏(左)、コニー・フー監督(中)、リカルド・ビヤビセンシオ氏(右)

「Hybrid Futures」は、伝統的な手わざとAIを組み合わせたアニメーションをテーマにしたパネルでした。取り上げられたのは2本の短編です。1本は、第8回で触れたダーレン・アロノフスキー監督の制作会社Primordial Soupが手掛ける“Goodnight Lamby”。もう1本が、Google DeepMindのコニー・フー氏(Connie He)による“Dear Upstairs Neighbors”です。同氏はピクサー出身で『インサイド・ヘッド2』に関わっています。また、司会のマルシア・マイヤー氏(Marcia Mayer)も、同スタジオ出身でGoogle DeepMindのプロダクション責任者を務めています。クリエイターとテック企業の境界が溶けつつあることが、登壇者の顔ぶれそのものに表れていました。

 

フー氏の“Dear Upstairs Neighbors”は、パンデミック中のアパート暮らし(上階の騒がしい隣人に悩ませられる女性)を描いた作品です。手描きのアクリル画のスタイルを自分用のモデルに学習させ、通常のCGでは難しい、絵筆の質感を残した表現を実現したといいます。AIに「自分自身の画風を覚えさせた」というわけです。

 

「箱に打ち込めば動画が出る」とは正反対

Hybrid Futures登壇者

 

Google DeepMindでリサーチと音響を担当するアンディ・コーネン氏(Andy Coenen)は、“Goodnight Lamby” “Dear Upstairs Neighbors”をこう位置づけました。「この2本は、箱にテキストを打ち込めば動画が出てくる、という主流なAI動画制作方法から、最も遠いところにあります」。テキストの入力だけでは到達できず、反復と時間、そして意図を持って世界観を作ることが必要、というのが要点です。

実際、両作品とも絵作りは人間が起点でした。“Goodnight Lamby”は、彫刻家ダスティン・イェリン氏の作品に生命を吹き込んだもので、9割をAIで生成しながら、すべてはイェリン氏のデザインに基づいています。主要なキャラクターは従来の手法で、背景や副次的な要素にAIを使う、という役割分担です。

 

アーティストが起点、AIはチームメイト

フー氏は、AIを「もう一人のチームメンバー」と表現しました。制作は、アーティストと研究者の間を何度も往復する、反復のプロセスだといいます。“Goodnight Lamby”のアニメーターを務めたリカルド・ビヤビセンシオ氏(Ricardo Villavicencio)も、「私たちは画像をプロンプトで出すのではありません。自分たちでコラージュやイラストといった画像を作り、それをAIで動かすのです」と語りました。

“Goodnight Lamby” © Primordial Soup “Goodnight Lamby”
© Primordial Soup

 

イェリン氏は、自分の彫刻を「凍った映画(Frozen Cinema)」と呼び、「ビジョンさえあれば、AIは渡るべき素晴らしい橋になりうる」と述べました。自身が主宰する非営利文化センターPioneer Worksのチーム編成は、アニメーション制作チームの構造とよく似ているとも語っています。独立系のアーティストは限られた条件の中で創意工夫することに慣れており、「このテクノロジーは、まさに私たちが必要としていたものだ」という言葉もありました。

 

テック企業とクリエイターが、同じテーブルに

左からジェームズ・マニカ氏、ダーレン・アロノフスキー監督 左からジェームズ・マニカ氏、ダーレン・アロノフスキー監督
Marché du Film © Snap Motion / ADR

 

同じ構図は、ほかのセッションでも繰り返し見られました。第8回で取り上げた長編アニメ"Critterz"は、OpenAIのチャド・ネルソン氏と、映画製作の現場を知るプロデューサーが組んだものでした。アロノフスキー監督のPrimordial SoupはGoogle DeepMindと組み、3本の短編を作っています。さらに、フランスの実写映画のザヴィエ・ジャン監督は、20年来のグラフィックアーティストと自前のスタジオを立ち上げました。テック企業が自社の研究者をクリエイターの隣に置き、ピクサー出身の人材がGoogle DeepMindで作品を作る。クリエイターと技術者という区分が溶け合いながら、創作が行われている状況です。

フー氏は次のように語り、セッションを締めくくりました。「このテクノロジーによって、人間性が輝くのです」。クリエイターを置き換えるためではなく、クリエイターをより強くするためにAI使うという実装の仕方です。

この座談会からひと月余りが経った6月22日、Google DeepMindは独立系の映画スタジオであるA24と、複数のプロジェクトにまたがる研究開発に関する提携を結んだと発表しました。単発や短編でのコラボレーションにとどまらないこの連携は「Hybrid Futures」で語られていた「クリエイターと技術者の境界が溶ける」という構図が、カンヌの外でも一歩具体化した形だといえます。

一方で、こうした協業が広がるほど、誰の何を、どう守るのかという問いも避けて通れなくなります。次回からは、3つの軸の2つ目「倫理」、すなわち新しいパラダイムを継続可能にするための約束事を見ていきます。

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