海外展開の二つの道とこれからの展望 / ハリウッド映画化と、日本が自ら作り届ける挑戦
公開日: 2026/06/09
映画祭併設マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム(以降、マルシェ)」期間中の各種カンファレンスでは、「カントリー・オブ・オナー」に選ばれた日本に関する製作者同士の交流イベント、企画ピッチから製作誘致含めて幅広いトピックスのセッションがありましたが、本特集では海外市場に向けたセッションを中心にみてきました。本稿ではそれらを踏まえて、今後日本が海外展開を加速していくためにはどうしていくべきなのかを整理しました。
※本記事で触れられている内容は2026年5月時点の情報です。
マルシェ・ドゥ・フィルム© Mathilde Gardel / FDC
- 海外パートナーからの助言、「早めに、対等に、共に」
- 世界市場を前提に誰が作るか
- 日本の映像エンタメメディアの持つポテンシャル
- 「メジャーリーグでプレーするか」「WBCで優勝を目指すか」
- 展望:二つの道を合わせ技で
海外パートナーからの助言、「早めに、対等に、共に」
まず、セッションに登壇した海外パートナーが日本に対してアドバイス・要望を語った場面がいくつかありました。ソニー・ピクチャーズのサンフォード・パニッチ氏は、ハリウッドはより早期から参加すべきで、日本側もグローバル化を後付けにせず当初から組み込み、交渉の席を当然のように求めてよい、と述べました。フランスで新海誠・細田守作品を配給するEurozoomのアメル・ラコムCEOも、カンヌやアヌシーといった映画祭の時間軸を意識し、完成前から配給を検討してほしいと、タイミングの重要性を強調しました。海外展開を作品完成後の選択肢ではなく、企画段階の前提として組み込むこと。こうしたことは海外展開においてはキーポイントとなりそうです。
世界市場を前提に誰が作るか
この視点から日本の海外展開を整理する出発点は、「誰が作品を作るのか」という問いです。様々なパターンがあるなかで、大きく二つに分けると、日本のIPをもとにハリウッドが映画を作る道と、日本が日本映画・日本アニメを主体的に作る道があります。
ハリウッドが、日本のIPで作る
一つ目は、第1弾で取り上げた藤村氏の講演で語られた、日本のIPをもとに、ハリウッドが企画・製作・世界配給を手がける道です。日本側もパートナーとして関与しつつ、ハリウッドが築いた企画・開発力と世界規模の流通網は大きな価値を持ち、日本IPの認知を一気に世界へ広げます。日本にとっては、自社IPの価値を世界市場で大きく換金し、ブランドを拡張する有力な戦略の一つです。
日本が、主体的に作る
二つ目は、日本が主体的に作る道です。作品の核を日本が握ったうえで、海外への届け方にはいくつもの異なる形があります。マルシェのカンファレンスでも作り方や資金調達におけるチャレンジ事例が多く共有されました。東映アニメーションの「各国のコンテンツをアニメとして作る」挑戦、TRIGGERやCoMix Wave Filmsのオリジナル志向に加え、約50億円規模でクローズした映画製作ファンド「K2 Pictures Fund I」とラインナップ発表などです。こうしたものは日本の作り手の関与と日本らしさの追求と新たな取り組みを合わせた挑戦だといえるでしょう。流通においては、日本の作品がハリウッドのシステムに乗って大成功した事例として挙がったものとして『鬼滅の刃』がソニーグループ内のソニー・ピクチャーズとCrunchyrollが世界配給における統合体制を担ったものがあります。
日本の映像エンタメメディアの持つポテンシャル
では、世界市場で日本の映像作品はどのように捉えられているのでしょうか。下表は当社GEM Partnersが2025年5月~6月に世界14カ国・17,000サンプルで実施した消費者調査で、対象メディアを「アニメーション」「連続ドラマ・テレビドラマ」「映画」とした際の各国別「好きなカテゴリTOP15」の結果です。地色がピンク色の項目が日本に関連したカテゴリです。
多くの国で首位は自国の映画・ドラマかハリウッド作品です。そのなかで際立つのが、日本アニメの広がりです。タイで1位、ベトナムとブラジルで2位、中国・インドネシア・サウジアラビアで3位、米国・インド・韓国で4位、フランス・ドイツで5位と、アジア・欧州・中東・南米を問わず、12カ国でTOP5に入っています。実写の日本映画も、米国(9位)、インドネシア(6位)、タイ(6位)など複数の国でTOP10前後に入り、アニメほどではないものの、各国で受け入れられる素地がうかがえます。さらに、ゴジラに代表される特撮ものも、日本(7位)に加えてインドネシア(13位)、韓国(13位)、ブラジル(13位)など複数の国でTOP15内に登場します。
「メジャーリーグでプレーするか」「WBCで優勝を目指すか」
先ほど見たとおり、ハリウッド映画は確かに人気ですが、一方で、コロナ禍からの復興の遅れや産業再編のさなかにあり、供給力が落ちています。また、各国でハリウッド映画以外の市場も広がりつつあります。さらに、新しいメディアや技術で作り手がファンと直接つながれる環境が整いつつもあります。すでに各国に厚いファン層を持つ日本のIPにとって、ハリウッドに頼らず世界へ届く道は、年々現実味を増しています。
世界市場を前提に、ハリウッドが日本IPを作るのか、日本が作ったものを世界に向けて提供する挑戦をするのか。この構造は、日本選手がメジャーリーグで活躍してチームを優勝に導くのか、WBCで日本チームが優勝を目指すのかと似ています。思い出すのは、大谷翔平選手の言葉です。2023年のWBC決勝前、米国代表のスター選手たちを前に、大谷選手はチームへ「憧れるのをやめましょう」と語りかけました。憧れの対象として見ているうちは超えられない、という趣旨です。そして日本は勝ち、世界一になりました。日本のコンテンツ産業にも、同じことが言えるのではないでしょうか。日本のIPがハリウッドで映画化されて認知度が上がること自体は大きな成果ですが、新しい可能性の道も開かれています。
展望:二つの道を合わせ技で
もちろん、これは二者択一ではありません。ゴジラはこのどちらも経験しています。レジェンダリーピクチャーズ、ワーナー・ブラザース製作の『GODZILLA ゴジラ』はハリウッド映画として世界的大ヒット。東宝が自ら製作した『ゴジラ-1.0』も、東宝グループ傘下のTOHO International が北米で直接配給し、興行収入が5700万ドルを超える(Box Office Mojo)快挙を成し遂げています。どちらもゴジラの世界におけるブランド力の証左です。
ハリウッドと組む道には確かな価値があり、その関係を活かすことと、自分たちらしさを追求して新しい挑戦に踏み出すことは両立します。大谷選手がメジャーで活躍しながらWBCで日本代表を世界一に導いたように、二つの道は才能と経験を共有し、相互に作用しながら市場全体を広げます。憧れにとどまる必要はなく、日本にはまだ大きな力がある。二つの道を合わせ技で進めることが、産業全体の発展につながります。
そういった潮目で後押しとなるのが、技術革新と流通・メディア構造の変化です。過去は難しかったものが技術革新で容易となれば、戦い方も変わってきます。なかでも重要なキーワードであるAIは、マルシェの技術系イベントシリーズ「Cannes Next」でも取り上げられました。次回以降は、このAIに関連するカンファレンスをレポートします。
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