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アロノフスキー監督が直感したAIによる変革/映画制作のスピードと民主化
公開日: 2026/06/26

特集:カンヌ国際映画祭 2026 第8回<カンヌ映画祭2026レポート 映画とAI編 2>

前回は、カンヌがAIを「実装・倫理・教育」という3つの軸で論じたことを取り上げました。今回はそのうち「実装」を、AIが新しい作り方とスピードを生む側面から見ていきます。今回取り上げるのは主に、「マルシェ・ドゥ・フィルム(以降、マルシェ)」が5月15日・16日の2日間にわたって開催した「AI for Talent Summit」のセッションです。そこで共有されたのは、制作にかかる時間やコストが桁違いに縮んだ事例や、映像制作における垣根が取り払われつつあるという兆しでした。AI技術はどのように実装が進んでいるのか、セッションでの議論をもとに見ていきます。
※本記事で触れられている内容は2026年5月時点の情報です。

2日目の基調対談に参加したダーレン・アロノフスキー監督 2日目の基調対談に参加したダーレン・アロノフスキー監督

 

《目次》

 

 

「3週間 vs 3年」、制作の時間が桁違いに縮む

AI for Talent Summit初日(5月15日)のセッション「Animation, Reimagined」では、アニメスタジオAnimajのCEO、シクスト・ド・ヴォープラン氏が登壇。生成AIにより制作環境が大きく変わりつつある事例として、自社チームが5分のフルアニメ・エピソードを、アイデアからYouTube公開まで3週間で制作できるようになったと語りました。3年前の多くのスタジオでは、52話のセットを3年かけて作るのが当たり前だったといいます。

同氏は、従来のアニメ業界を成り立たせてきた3つの条件を挙げました。まず、1作あたり製作に1億〜1億5000万ドル、宣伝に1億ドルという巨額の予算。そしてアイデアを選別するスタジオや放送局という門番。さらに、少数の都市やスタジオへの集中です。これらの前提が、AIと配信構造の変化で崩れつつあるとしました。「資本が参入障壁でなくなり、流通も、従来のマーケティングも障壁でなくなったとき、残るのは才能、センス、技、そして物語です。そしてそれは、世界中どこにでもあります」。Animajが保有するIP「Pocoyo」は、放送や劇場展開を経ずに、年間125億回再生に達しているといいます。

AnimajのCEO、シクスト・ド・ヴォープラン氏(左) AnimajのCEO、シクスト・ド・ヴォープラン氏(左)
Marché du Film © Snap Motion / ADR

 

このほか同Summitの期間中には、様々な放送形式において、制作時間やコストが縮まった事例が多数紹介されました。OpenAIのチャド・ネルソン氏とamersiaのジェームズ・リチャードソン氏は共同で進める長編アニメ"Critterz"について、「従来ならば3~4年かかり、3億ドル規模の予算であった作品」とし、AIがその前提を変えつつあると強調しました。

実写ドラマでは、ジョン・アーウィン氏が手がけた短編のドラマシリーズ"Old Stories: Moses"(ベン・キングズレー主演)が、クリスマスの着想から約4ヶ月でPrime Videoでの配信にこぎ着けたと紹介されました。同氏がAIツールを本格活用した最初のドラマシリーズ『ハウス・オブ・ダビデ』は全世界で7500万回視聴されています。またコマーシャルの分野においては、初稿を2時間、完成を2日で仕上げたという、あるスタジオの実績も報告されました。

 

技術より難しいのは「選択」、AnimajとYouTubeの教訓

Animajのド・ヴォープラン氏が強調したのは、AI技術そのものよりも、その先で何を選ぶかということでした。テクノロジーが安く速くなるほど、作品を際立たせる驚きや技巧、そして「何を、なぜ作るのか」という選択が問われると訴えました。

例として「今の子どもたちは、テレビではなくYouTube、Roblox、TikTokでコンテンツに触れている。だからこそ、こうしたプラットフォームで彼らに向けた作り方そのものを設計し直す必要がある」と説明しました。中でもYouTubeで特に重要な要素として挙げられたのは「音楽」でした。Pocoyoでも、YouTube向けはより短く、ダイナミックで、音楽性の高いパイプラインを別に用意しているといいます。

一方で、YouTubeには大きな課題もあると述べました。「YouTubeでのマネタイズは難しいのです。数十億回再生されても、得られる収益はほとんどゼロに近い。これが子ども向け分野の大きな問題です」。子ども向けコンテンツは規制も多く、再生数が収益に結びつきにくい。そこでAnimajは玩具大手ハズブロと合弁会社「Lumee」を設立し、子ども・ファミリー向けYouTubeの広告マネタイズの基盤を共同で作ったと話しました。こうした取り組みからは、AIという新しい作り方が広がるほど、最初のビジネス設計がより重要となっていることがうかがえます。

 

「コンテンツはレゴのブロックになる」、チャド・ネルソンのツール作り

上記でも紹介したサミット初日の"Critterz"をめぐるセッションにおいて、OpenAIのチャド・ネルソン氏は、既存のツールの限界から話を始めました。「私はPhotoshopやAdobeの製品とともに育ちました。しかしAdobeやPhotoshopは、私が今何に取り組んでいるのか、このキャラクターが誰で、物語や世界とどう関係しているのかを、まったく理解しません」。

こうした課題から、脚本を読み込ませることで、キャラクターや世界観を理解させた状態で使えるAIツール「Woven」を15人のチーム向けに開発したといいます。前年2025年10月の公開されたこのツールはOpenAIのCodexを使ってわずか2日で作られており、同セッションのモデレーターを務めたギヨーム・パヤン氏(Guillaume Payan)は「Pixarが独自パイプラインの構築に10年かけたのと対照的だ」と評しました。

OpenAIのチャド・ネルソン氏(右)と、amersiaのジェームズ・リチャードソン氏(中) OpenAIのチャド・ネルソン氏(右)と、amersiaのジェームズ・リチャードソン氏(中)

 

ネルソン氏は、コンテンツの将来像を「レゴのブロック」に例えました。「コンテンツやIPは、人々が遊ぶレゴのブロックのようなものです」。今の観客はRobloxやMinecraftのような世界に生き、IPを手に取って組み替え、ファン作品を作って共有する。それ自体が作品のマーケティングの一部になっていく、という見方です。同席したリチャードソン氏は、これを音楽になぞらえました。「映画も音楽のようにリミックスし、ライセンスを払って使い、遊ぶ対象になっていくのではないでしょうか」。

「映画制作の民主化は、とても重要です」とネルソン氏は前置きしたうえで、新しさへの不安に対しては、過去の事例を引用して表現しました。「『トイ・ストーリー』が最初に出たとき、『これでアニメーション・ビジネスが壊れる』と言われました。でも上映が始まって30秒もすれば、観客は技術のことなど考えず、ただ素晴らしい映画だと思っていたのです」。

 

「制作の民主化」が進みつつある

AIは時間とコストだけではなく、制作における参入障壁にも大きな影響を与えています。同Summitに登壇した映画プロデューサーのグレゴワール・ジャンソレン氏は、世界中どこにいても、才能ある人が自分のビジョンを形にできることがAIの最も刺激的な点だと語りました。

"Critterz"をプロデュースするamersiaのリチャードソン氏は、自身の友人であるギャレス・エドワーズ監督の言葉を紹介しました。「子どもの頃はギターを手に取れば自分の歌を作れた。しかし映画を作りたいと言えば『2000万ドル必要』といわれる」。だからこそ制作の民主化は極めて重要だ、という趣旨です。

ただし、ツールが作品を作るわけではありません。ネルソン氏は"Critterz"について、「AIはどの工程も主導していません。重要な工程はすべて、従来通り人間が手がけています」と強調しました。脚本は『パディントン』の脚本家が担当し、ストーリーボードもキャラクターデザインも人間が起点です。コマーシャルや高品質な映像を手がけるあるスタジオの代表も、「AIの作業は自動化ではありません」と述べ、20名のアーティストが大量の手作業で品質を押し上げていると説明しました。制作体制の幅が広がることは効率化にとどまらず、産業の裾野が広がることでもあります。

 

「AIは新たに加わるもの」、ダーレン・アロノフスキー監督が語ったこと

AI for Talent Summit 2日目(5月16日)の最後は、『ブラック・スワン』『レスラー』などで知られるダーレン・アロノフスキー監督と、GoogleおよびAlphabetのリサーチ・ラボ・テクノロジー&ソサエティ担当プレジデントであるジェームズ・マニカ氏の基調対談でした。アロノフスキー監督は、Midjourneyが生成した画像を見て「映画作りのすべてが変わる」と直感し、2023年に制作会社Primordial Soupを設立したと話しました。Google DeepMindとパートナーシップを結び、まず3本のショートフィルムを、同社のAIモデルを使って制作しました。

その1つが若手のエリザ・マクニット監督による"Ancestra"で、心臓に穴のある状態で生まれた自身の実話をもとにした作品です。新生児を撮影現場に連れてくることは現実では制約が大きく、「AIがなければ、この作品は存在しませんでした」と語りました。

左からジェームズ・マニカ氏、ダーレン・アロノフスキー監督 左からジェームズ・マニカ氏、ダーレン・アロノフスキー監督

 

同監督はまず「AI」という言葉に注文をつけました。「AIはひどい言葉です。あまりに多くの異なるものを指す言い回しになっている。画像を生成することと、チャットボットに天気を聞くことは、まったく異なります」。加えて、これは映画の歴史の延長にある技術だとしました。「音声が初めて導入されたときも、楽士たちから強い反発がありました。軽量カメラが登場してヌーヴェルヴァーグが生まれ、VFXがスーパーヒーロー映画を可能にした。AIもその延長です」。

そして「私たちはまだ、ごく初期の段階にいます」と述べました。「もし自分が今25歳で物語を作ろうとしているなら、新しい技術を使って作るでしょう。AIは何かに置き換わるものではありません。純粋に、新たに加わるものなのです」。一方で、「ボタン1つで完成した映画ができる」というのはまだSFの話で、実際には膨大な人間の労働と芸術性が要るとも語りました。面白いのは、AIモデルができても、それで何ができるのかは開発したエンジニアにも分からないことだといいます。「私たちが問うのは、これでどうすればもっとうまく物語を語れるかです。これは共同創作のプロセスなのです」。

雇用については、マニーカ氏が、米国で現在ある職業カテゴリの約68%は1945年には存在しなかったと指摘しました。アロノフスキー監督も、「多くの人がAIを嫌い、仕事を奪われると考えています。でもこの作品は、AIなしには存在しなかった」と述べ、雇用は総量が減るというより内訳が変わり、まだ名前のない役職が次々に生まれるとの見方を示しました。

アロノフスキー監督のPrimordial Soupが手がけた"Goodnight Lamby"(現代美術家のダスティン・イェリン監督、ポール・ラッドとクリス・ロックが出演)は、カンヌ・クラシック部門で5月19日に上映されました。

2日間の最後に、ホストのクリスティン・デイヴィス氏は議論をこう締めくくりました。創造性、物語、人と人とのつながりという映画の核は、AIによっても変わらない。一方で、支援的に使われるAIは、より多くの作品にゴーサインを出し、雇用を増やしうる。そして倫理やIP、同意をめぐる課題は、これからも残る——。時間とコストの短縮に加え、「誰が作れるか」の幅が広がったこと自体が、産業の新たな発展につながる論点です。次回は同じ「実装」でも、既存の制作現場や過去の資産にAIを組み込む側面を見ていきます。

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