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パルム・ドールは“Fjord”、濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』主演の岡本多緒が日本人初の女優賞 ~第79回カンヌ国際映画祭 結果と全体像~
公開日: 2026/05/29

特集:カンヌ国際映画祭 2026 第1回

第79回カンヌ国際映画祭は2026年5月12日に開幕し、5月23日のクロージング・セレモニーで幕を閉じました。日本関係作品も多数上映されたなか、濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』で主演を務めた岡本多緒が、日本人として初の女優賞獲得という快挙を成し遂げています。併せて開催された「マルシェ・ドゥ・フィルム」では日本が「カントリーオブオナー(Country of Honour:COH)」として位置づけられ、日本映画やエンタメビジネスの活発な発信の場となりました。
今年のカンヌの論点を整理する本特集。第1回の本稿では、その結果と全体像をお伝えします。

※ 本記事で触れられている内容は2026年5月時点の情報です。

カンヌ国際映画祭コンペティション部門における最高賞(最優秀作品賞)、パルム・ドールのトロフィー
© Valentina Claret / FDC

 

《目次》

 

 

コンペティション部門の結果 —"Fjord"のパルム・ドール、岡本多緒が日本人初の女優賞

最高賞のパルム・ドールを獲得したのは、ルーマニア出身のクリスティアン・ムンジウ(Cristian Mungiu)監督による"Fjord"でした。同氏は2007年の『4ヶ月、3週と2日』に続き、2度目のパルム・ドール受賞となりました。配給を担うのは米インディペンデント配給会社のNeon。同社によるパルム・ドール作品の配給は、これで7年連続です。

"Fjord"(監督:クリスティアン・ムンジウ)

今回の映画祭における最大のハイライトは、日本人初となる女優賞の獲得です。コンペティション部門において、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』でW主演を務めた岡本多緒(Tao Okamoto)ビルジニー・エフィラ(Virginie Efira)が女優賞を共同受賞しました。

『急に具合が悪くなる』(左から岡本多緒、ビルジニー・エフィラ)

また、日本関連の作品が多数ノミネート・上映されたのも今年の特徴です。コンペティション部門には『急に具合が悪くなる』以外にも、深田晃司監督『ナギダイアリー』、是枝裕和監督『箱の中の羊』が選出されています。「ある視点」部門では岨手由貴子監督『すべて真夜中の恋人たち』、カンヌ・プレミア部門では黒沢清監督『黒牢城』が日本人監督作品として名を連ねました。

昨年、記録的な大ヒット作『国宝』が上映された監督週間(Quinzaine des Cinéastes)では、日本のアニメーション作品として、門脇康平監督『我々は宇宙人』と矢野ほなみ監督による短編『エリ』が上映されました。

 

今年はハリウッドの存在感が薄かった? 国際映画祭の意義とは

併設マーケットの「マルシェ・ドゥ・フィルム(以降、マルシェ)」は今年の参加規模を「過去最高水準」と発表しています。140カ国以上の登録国から16,000人の業界関係者を含む計4万人の産業関係者が集まったと報告しています。

しかし、現地での体感は異なり、関係者からは「やや静かな年」との声が多く聞かれました。昨年はアウト・オブ・コンペティションで『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』がワールド・プレミアされましたが、今年はそのようなハリウッド大作のプレミア上映が無いことが影響しているとみられます。代わりに、ヨーロッパのインディペンデント作品や、各国の中規模製作の存在感が強かった年といえそうです。

カンヌのモンテ・デ・マルシェ(レッドカーペット)
© Mathilde Petit-Boh / FDC

開幕式や審査員長の言葉には、映画祭が世界に向けて何を語り掛けたいかが反映されます。緊張感が高まる国際情勢を踏まえ、今年の登壇者たちはそれぞれの立場からメッセージを発しました。

開幕式のMCを務めたフランス女優のアイ・ハイダラ(Eye Haïdara)は、詩的なスピーチで登場しました。「インターネットが遮断されていない場所、AIが現実に取って代わっていない場所。ここ、そして他の地で抵抗を試みる皆さん、こんばんは、ようこそ」と語り掛け、検閲やAI、社会的緊張への抵抗としての映画というスタンスを明確にしました。さらに「カンヌは、韓国映画がブラジル人観客の心を動かし、スウェーデン人がフランスの雪崩を映像化し、イラン人の寓話が無関心の壁を貫く唯一の場所」として映画祭の意義を表現しました。

今年の審査員長は、韓国のパク・チャヌク(Park Chan-wook)監督が務めました。開幕式の韓国語スピーチでチャヌク監督は、審査員のひとりである脚本家ポール・ラヴァティ(Paul Laverty、ケン・ローチ監督の長年の脚本パートナー)の言葉を引用しました。「ケン・ローチと脚本作業をするとき、よく喧嘩しますか?」と尋ねた際、ラヴァティが「We argue a lot, but we don't fight(議論はたくさんするけれど、喧嘩はしない)」と答えたと語り、この一言を審査員団の方針として観客に紹介しました。続いて「皆さんも周囲の人々と議論は十分に交わしながら、喧嘩はしない、そんな人生を送られますように」と語っており、平和に向けたメッセージとも受け取れるものでした。

開幕宣言を担ったのはコン・リー(Gong Li)ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)です。リーは「ジェーンは西からやってきて、私は東からやってきました。今夜、私たちはここで共に立っています。これがカンヌ国際映画祭の魔法です」と語り、「映画は言語・文化・世代を越えて、私たち皆が共有する人間の感情について語ります」と続けました。フォンダは、地政学的な緊張が続く現状を踏まえ、より明確に政治的なメッセージを発しています。「私は声の力を信じます。スクリーン上の声、スクリーン外の声、そして街路の声。特に、いま」「映画は常に抵抗の行為であり続けてきました。私たちは物語を語り、物語こそが文明を形づくるからです」と聴衆に語り掛け、大きな拍手と共感を呼んでいました。

開会宣言を行ったコン・リー(左)とジェーン・フォンダ(右)© FDC(撮影:GEM Standard)

このように、世界中から多くの人が詰めかける世界最大規模の映画祭として、映画というメディアを通じた国際的な平和への呼びかけや政治的メッセージを明確にしようという姿勢が見て取れました。

 

マルシェ・ドゥ・フィルムで日本がカントリーオブオナーに —日本映画・エンタメビジネスの活発な発信

併設マーケットのマルシェでは、今年「カントリーオブオナー(COH)」として日本を位置づけています。日本からのマルシェ参加者は例年の50%増、今年のフィルムマーケットで5番目に人数が多い国と発表されました。

カンヌ国際映画祭に併設される映画見本市「マルシェ・ドゥ・フィルム」
© Mathilde Gardel / FDC

期間中には、メインステージや併設のセッション枠で、日本企業によるパネルや新規スキームの発表が複数行われました。藤村哲也氏(フィロソフィア)による日本IPセッション、Crunchyroll×Sony Pictures Entertainmentのパネル、AI for Talent Summit、K2 Pictures×三菱UFJ銀行×西村あさひ法律事務所による日本映画ファイナンスのパネルなどが組まれました。

加えて5月17日には、K2 PicturesがJWマリオット・カンヌにてラインナップ発表会見を実施し、約50億円規模でクローズした映画製作ファンド「K2P Film FundⅠ(ケーツーピーフィルムファンドファースト)」の進捗を報告しています。

並行して、マルシェのオープニング・ナイトでも日本がフィーチャーされ、日本作品と関係者を世界に紹介する場として、TIFFとTIFFCOMが主催する「Japan Film Night」が開催されました。また、女優のMEGUMIが主催する国際文化交流イベント「Japanese Night」も開かれ、日本作品の海外発信に向けた集まりとなりました。

Japan Film Nightでの一幕。『ナギダイアリー』の深田晃司監督(中央左)、
アニメ映画『我々は宇宙人』の門脇康平監督(中央)、『箱の中の羊』の是枝裕和監督(中央右)らが鏡開きを行った。
© FDC(撮影:GEM Standard)
特集:カンヌ国際映画祭 2026
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