「映画館好きの若者」を巻き込む方法論 —Z世代動員からα世代育成まで <CinemaCon 2026>
公開日: 2026/05/20
Cinema United(旧NATO:全米劇場所有者協会)のマイケル・オリアリー氏は、Z世代(12〜28歳)の劇場鑑賞頻度が1年で25%増加し、最も成長が速い常連観客層となっていることを2026年の業界における好材料として紹介しました。しかし、この流れを未来につなぐには、Z世代の習慣化と、その下のα世代(新生児〜16歳)を早期に劇場に引き込む設計の両方が必要です。本記事では、複数のセッションで議論された世代別の動員方法論について整理します。
※ 本記事で触れられている内容は2026年4月時点の情報です。
マイケル・オリアリー氏(President & CEO:Cinema United)Photo by David Becker / Getty Images for CinemaCon
- Z世代は「初の完全デジタル世代」、それでも劇場に足を運ぶ
- 習慣化の鍵 —クリエイター主導の動員、Letterboxd、リバイバル
- α世代という次の宿題 —コカ・コーラが示した「親世代を介した接点」
- 世代間をつなぐエコシステムを日本でどう築くか
「初の完全デジタル世代」と呼ばれるZ世代は、なぜ劇場に戻ってきているのか。そして、その次の控える4,000万人規模のα世代にどう接続していくのか。CinemaCon2026では、世代を超えて観客層を広げていくための具体的な方法論が議論されました。
Z世代は「初の完全デジタル世代」、それでも劇場に足を運ぶ
セッション"Understanding 2026 Audiences: Gen Z and Emerging Trends"では、パンデミック以降の映画業界で頭打ち感が出ているとの認識を出発点に、議論が展開されました。Comscoreのポール・ダーガラベディアン氏(Head of Marketplace Trends:Comscore)は、コロナ禍以前100~110億ドル規模であった映画業界が直近3年間は約90億ドル水準で推移しており、業界が「リーンでタフ(落ち込んでいて厳しい)」という状況下にあると表現しました。
このような状況下において、映画専門のマーケティング会社PaperAirplane Mediaのマイク・ポリドロス氏(CEO:PaperAirplane Media)は、Z世代での劇場利用の重要性を示しました。この世代の劇場利用が2009年比で5%上昇しているとのデータを示し、「Z世代は初の完全デジタル世代であるからこそ、彼らの劇場習慣をどう固定化するかが業界の未来を決める」と語りました。
なぜZ世代は劇場に足を運ぶのでしょうか。YouTuberのジェレミー・ジャーンズ氏(YouTube Content Creator)は、「キュレーションされた場」としての劇場の価値、つまり友人と集まって特別な体験ができる場所であることを強調しました。例として『DUNE/デューン 砂の惑星PART3』でIMAXのチケットが瞬時に完売した経験を紹介し、ラージフォーマット体験は今のところ自宅では再現不可能だと述べました。
GKIDSのチャンス・ハスキー氏(VP, Distribution:GKIDS)は、特に18〜24歳の層が高校卒業や大学進学を機に新しい人々と出会い、これまで触れてこなかったカルチャーを吸収していく時期であると指摘。そうした若い層を『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『パーフェクトブルー』のような作品へ導き、「習慣的な映画ファンへと育てていく」ことが同社のミッションだと語りました。
習慣化の鍵 —クリエイター主導の動員、Letterboxd、リバイバル
Z世代を単発の来場者から常連客へとどう育てていくのか。同セッションでは複数の具体策が示されました。
クリエイター主導の動員モデルとして注目されたのが、YouTuberのマークプライヤーが自主配給した“Iron Lung”の事例です。同作は3年がかりのプロセスでファンコミュニティに制作過程を共有し続け、公開時にはファンの「とにかく上映してほしい」という声が各地の劇場マネージャー宛に殺到しました。まさに「コミュニティが映画館を開いた」といえるほどの動員となった同作について、ポリドロス氏は「Z世代の観客をオーガニックに動かす、これまで見られなかった新しいアクティベーションの形」と評価しました。
映画の鑑賞記録・レビューを共有するSNS「Letterboxd」の存在も、重要な論点として挙がりました。ハスキー氏は、13歳でWebアニメの『アメイジング・デジタル・サーカス』に夢中だった子どもが、21歳にはマーティン・スコセッシ監督やヴェルナー・ヘルツォーク監督の作品に辿り着くというように、関心の広がりをどう次のステップにつなげるかが鍵だとしました。同様の文脈で、マーベルファンがLetterboxd内の映画ランキングTop 250 を見て、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』や『DUNE/デューン』に出会う流れが生まれていると指摘しています。
ハスキー氏は、アニメや名作のリバイバル上映と、PLF(プレミアム・ラージ・フォーマット)の相乗効果にも触れました。スタジオジブリの4KリマスターIMAX上映や、『君たちはどう生きるか』のIMAX先行上映は、「視覚芸術として劇場で体験すべき作品」というメッセージを発信しており、新作アニメ映画への導線を生んでいると説明しました。
デジタルネイティブ世代がレコードや真空管アンプに惹かれるのと同様に、「アナログ=クール」という感覚は映画体験にも及ぶ――。ジャーンズ氏はそう指摘し、35mmフィルムでの旧作上映復活に期待感を示しました。
α世代という次の宿題 —コカ・コーラが示した「親世代を介した接点」
Z世代の次に控えるのがα世代(新生児〜16歳)です。コカ・コーラがスポンサーするセッション"The Future of Cinema:The Future of Cinema, Culture & The Next Generation"では、同社のライアン・ワトソン氏(Senior Director of Consumer & Occasion Strategy:The Coca-Cola Company)が、α世代の消費実態とその影響力について、詳細なデータを交えて解説しました。
ライアン・ワトソン氏(Senior Director of Consumer & Occasion Strategy:The Coca-Cola Company)Photo by David Becker / Getty Images for CinemaCon
ワトソン氏は、米国に約4,000万人いるα世代は、自身の購買力以上に家族の購買意思決定に大きな影響を与えていると指摘しました。その購買行動の規模は約5,000億ドル分と、α世代本人の保有額の約5倍にも及びます。同氏は、家族全体の支出である食料品、外食、エンタテインメント、旅行などが、α世代の好みや要望によって動いていると話しました。
α世代の親のうち73%が「新製品を子ども経由で知る」と回答していることも、この構造を裏付けます。世帯構成から見ても、この世代の約40%は祖父母と同居し、祖父母の32%は年間約500億ドルの経済的支援を行っており、α世代を軸に家族全体の消費が動いていることがデータからも示されました。
ワトソン氏が劇場に向けて強調したのは、59%のα世代が自宅より劇場での映画鑑賞を好むと回答していること、そして68%が「家族・友人と過ごすこと」を劇場訪問の主要因に挙げていることです。α世代自身が劇場体験を求めているという事実は、そのまま家族全体の来場につながる可能性を示しています。
ワトソン氏が指摘する、α世代と家族間の関連性Photo by David Becker / Getty Images for CinemaCon
ワトソン氏はこの数字をもとに、α世代とその上の世代を結ぶ劇場体験の設計を提案しました。ベビーブーマー世代の祖父母向けには孫との世代間体験、ミレニアル世代の親向けには子ども向けのプレイエリアや、明るめの照明で低音量の家族向け上映や平日割引といった施策を挙げました。また、年上のきょうだいであるZ世代向けには、eスポーツ上映やゲーミング連動企画を紹介しました。
グローバルでは91%が「時々現実から逃避する必要がある」という調査もあり、エスケーピズム(現実逃避)市場は2028年までに14兆ドル規模に達すると予測されるなか、ワトソン氏は劇場を「数ドルで別世界に連れて行ってくれる」最高のエスケープ手段だと位置づけました。
世代間をつなぐエコシステムを日本でどう築くか
ここまで紹介してきたZ世代の動員とα世代の育成は別々の論点ではなく、エコシステム構築という同じ目標に向けた、異なる2つのアプローチです。今日のZ世代の常連客は、Letterboxdやリバイバル上映を経由してマーティン・スコセッシ監督や宮崎駿監督に辿り着き、いずれはα世代の子どもを劇場に連れていく親世代となるでしょう。また、α世代を劇場に呼び込めれば、家族購買の影響者である彼らを通じて、親世代・祖父母世代もまとめて動員できます。
日本市場での参考としてNRG(National Research Group)の調査結果も紹介します。ワーナー共同CEOのパム・アブディ氏がCinemaCon2026のラインナッププレゼンテーションで取り上げたこの調査では、α世代の55%が友人グループで映画館に行くことを強く好み、約7割が家族・友人との時間を主な来場理由に挙げており、ワトソン氏のデータとも整合します。日本においても、Z世代向けの習慣化施策(リバイバル、PLF、コミュニティ動員)と、α世代を起点とした家族連れの動員設計を並行して進めることは、長期的な顧客資産の構築につながる、アプローチの一つとなりそうです。
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- 第3回:「映画館好きの若者」を巻き込む方法論 —Z世代動員からα世代育成まで
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