映画産業発展のためにスタジオと興行会社が互いに求めること
公開日: 2025/05/12
CinemaCon2025では、スタジオのラインナップ発表に加えて、映画業界のキーパーソンらが映画産業の課題や発展に向けた取り組みについて語りました。本記事では、スタジオ、興行会社がそれぞれの立場から述べた映画産業の発展にむけた要望をまとめました。
※本記事で触れられている内容は2025年4月時点の情報です。
スタジオから興行会社への要望:広告、予告編上映を含めた体験価値の向上
「劇場重視」姿勢をアピール、劇場に「体験価値」向上を求める
すべてのスタジオは、自社のラインナップ発表時に例年通り、「劇場公開を重要視している」というスタンスを表明しました。その裏付けとして、劇場興行収入の実現に大きく貢献していること、多様なラインナップを提供していることなどが強調されました。ユニバーサルのドナ・ラングレー会長(Chairman:NBCUniversal Studios & Entertainment)は、商業的成功だけでなく、その数字を支える“質の高い映画”も提供していることを、ディズニーのアンドリュー・クリップス氏(Head of Theatrical Distribution:Disney Entertainment Studios)は、年間通して大作を供給している点を、ワーナー・ブラザースのジェフ・ゴールドスタイン氏(President、Global Distribution:Warner Bros. Pictures)は、ドラマ、ホラー、コメディ、アクション、フランチャイズ、スーパーヒーローまで供給する多様性など、各スタジオの戦略に基づきアピールしました。
興行会社側が重要テーマとして掲げていることであり、スタジオからも要望として挙げられたのは「劇場体験をよいものとすること」。前述のラングレー氏は、「ユニバーサルは今後も、世界中の観客に『映画館に行きたい』と思わせるプレミアムなエンタテイメントを提供し続ける」と約束したうえで、「しかし、観客が家庭で体験する以上の素晴らしいシアター体験を提供できるかどうかは、上映を担うパートナーの皆さんにかかっている。これは、私たち双方にとってのチャレンジである」と訴えました。

Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2025
広告、予告編上映に対する要望
体験価値を損ねるので対処する必要があるといくつかの場で挙げられたのは、「劇場での広告、予告編の上映」です。パラマウントのクリス・アロンソン氏(President、Domestic Distribution:Paramount Pictures)は同社のラインナッププレゼンテーションで、本編上映前の予告編の本数を減らし、広告を廃止すべきだという考えを示しました。また、同社のマーク・ヴィアン氏(President、International Distribution:Paramount Pictures)もパネルディスカッション"Globally Speaking"で、「プレショー(CMや予告編)の長さと質が、体験価値を損なっている。劇場での体験は重要、戻ってこなくなる」との懸念を示し、「広告が収入として大事なのは理解できますが、自宅でNetflixを見ているときに観客は広告を目にしないのに、映画館であまりに多くの広告を見せるのは如何なものでしょうか」としたうえで、「グローバル市場では予告編を60〜90秒に短縮し、体験を簡潔にする工夫をしている」との事例を共有。同イベントに登壇したワーナー・ブラザースのジェフ・ゴールドスタイン氏(President、Global Distribution:Warner Bros. Pictures)も、「必要に応じて5分以上の“特別映像”も活用すべき」一方で、「予告編は90秒や60秒でも十分伝わる。2.5分にこだわる必要はない」と工夫の余地があるとの考えを共有しました。
セッション“International Day Breakfast“で配給側の基調講演を行ったソニーのスティーヴン・バジル-ジョーンズ氏(EVP、Head of International Marketing:Sony Pictures Releasing International)も、特に広告の多さを問題視しました。同氏は、「現在、観客は広告の猛攻を避けるために、告知された上映開始時間から20〜30分遅れて来場するのが一般的になっており、その結果、私たちが知っている限り観客が好んでいる予告編を見逃してしまっています」との問題意識を語ったうえで、「私たちは、観客にとって素晴らしい環境を作ることが絶対に必要です。そして、わずか2分の映像でさえ観てもらうのがますます難しくなっている今の時代において、スクリーン上で予告編に目を向けてもらうことを最優先するために、私たちが協力し合うことが不可欠なのです」と訴えました。

(EVP、Head of International Marketing:Sony Pictures Releasing International)
Photo by Bryan Steffy/Getty Images for CinemaCon 2025
映画宣伝にとって重要な劇場予告編、そして映画館の収入減として重要な広告。来場者がまた戻ってくるための体験価値とのバランスが求められています。
興行会社からスタジオへの要望:作品、マーケティング、そしてウィンドウ(劇場独占公開期間)
なによりも作品の量と多様性
期間中、多くの興行会社の幹部が口にしたのは「今の映画興行において問題なのは、需要ではなく、供給である」との考えでした。つまり興行収入・動員がコロナ禍前の水準に戻っていないのは、観客の映画鑑賞意欲がなくなったからではなく、供給が以前のレベル、内容になっていないからということです。多くの登壇者が、GCF(Global Cinema Federation)が行った消費者調査結果を引用し(※)、「消費者は映画館にはいきたいが、行っていないのは観たい作品がないからである」との考えが示されました。
※参考:消費者調査結果概要「GCF Global Research Amplifies Movie-Goers' Voices: They Want More!」
この認識のもと、例えば興行会社Cinemark Internationalのヴァルマー・フェルナンデス社長は、“International Day Breakfast”の基調講演のなかで、「観客を呼び込むためには、安定した公開スケジュールとジャンルの多様性が必要です。特にコメディ、ロマンス、ドラマといったジャンルが不足しており、これらの供給は観客層の拡大と頻度の向上に寄与する」と訴えました。
イベント化と認知度
興行会社から作品のマーケティング強化も要請されました。Cinemarkのフェルナンデス氏は「各映画は単なる公開ではなく、『イベント』として訴求されるべきです。そのためには、明確な『劇場で観るべき理由』が示されたマーケティング戦略が不可欠であり、国別に最適化されたキャンペーン設計も必要です」と要望。また、アメリカの映画興行会社の産業団体Cinema United(旧NATO:全米劇場所有者協会)トップのマイケル・オリアリー氏は、産業の現況と施策を発表するプレゼンテーション”State of the Industry"で、強化すべきテーマとしてプロモーションを提言。「劇場と配給が連携し、観客の映画認知度を上げる努力が必要。公開日までに50%以上の認知度を得た映画は38%減少との調査結果もあります。一定以上の認知度を確保することを目指すべき」と強調しました。さらには「劇場のみで観られる」(Only in Cinemas)の宣伝強化や、家庭向け配信の宣伝については劇場公開中は避けるべきだと訴えました。

Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2025
45日ウィンドウ
産業としての長年にわたる継続的な論点であり、また今年のCinemaConでも強調されたのは、「ウィンドウ(劇場独占期間)問題」です。前述のオリアリー氏は“State of the Industry”において、柔軟性を前提としつつも「少なくとも45日のウィンドウが業界全体の利益になる」と具体的な日にちを示し、「劇場公開期間が長ければ、配信でも同様の成果を上げつつ、宣伝効果と興収が増える」と強調しました。“International Day Breakfast“のヴァルマー・フェルナンデス社長の基調講演でもほぼ同様の提言がなされたほか、”Globally Speaking“のセッションでグローバル映画興行チェーンCinépolisのアレハンドロ・ラミレス・マガーニャCEOは、「欧州ではウィンドウ(劇場独占期間)が平均75日と長く、それが市場回復を後押ししています。ラテンアメリカのウィンドウは60日。一方、米国では30日以下が一般的であり、違いが明確」として各国の事例を紹介し、ウィンドウの重要性を訴えました。ウィンドウについては次回で詳しく論点を掘り下げます。

アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ氏(CEO:Cinépolis)、ティム・リチャーズ氏(Founder & CEO:Vue International)
Photo by Bryan Steffy/Getty Images for CinemaCon 2025
- 第1回:今年を「よい年」にするために
- 第2回:映画ビジネス機会創出と生き残りのために体験価値への投資が必要
- 第3回:映画産業発展のためにスタジオと映画興行会社が互いに求めること
- 第4回:ウィンドウ(劇場独占公開期間)の議論の行方
- 第5回:映画館AI先駆者たちが語る取り組み~AI導入で「拡張する」映画館の可能性(前編)
- 第6回:映画館ビジネスでのAIと人間の協業の在り方~AI導入で「拡張する」映画館の可能性(後編)
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