今年を「よい年」にするために~特集:世界映画興行ビジネスの現在地 CinemaCon2025
公開日: 2025/05/12
CinemaCon2025では、スタジオのラインナップ発表に加えて、映画業界のキーパーソンらによる産業の概況についてのスピーチや、スタジオ・興行・関連各社幹部らが登壇するパネルディスカッションなどが開催され、映画産業の課題や発展に向けた取り組みが明らかになりました。開催期間中にどのようなことが語られたのでしょうか、その意味合いは。本記事では、各セッションで語られた、グローバル興行市場の現状認識について紹介します。
※本記事で触れられている内容は2025年4月時点の情報です。
2024年のグローバル興行収入は300億ドルに到達。大ヒットは下半期に集中
CinemaConでは、初日に“International Day Programming”が開催され、北米以外のグローバル映画興行市場の現状について配給・興行各社の代表が語る基調講演や、顕著な業績・貢献を表彰するイベント、セミナーが行われます。今年はプログラムの中で、米国の消費者情報分析会社Comscoreのポール・ダーガラベディアン氏(Senior Media Analyst:Comscore)が登壇し、“Comscore International Boxoffice Achievement Award”を発表。昨年、スタジオとして総興行収入1位を獲得したウォルト・ディズニー・スタジオを紹介すると同時に、昨年の興行収入について共有しました。
映画館の興行収入データにおいて、北米市場の99%、全世界市場の95%をカバーするComscoreによると、2024年の興行収入は、中国を含む「インターナショナル」市場(米国外)が212億ドル、米国(「国内」)市場が88億ドルで、全世界で合計300億ドルに達しました。ダーガラベディアン氏は、2024年は年間を通して興行収入の変動が非常に激しかったと明かし、「インターナショナル市場では、2月の旧正月は大盛況でしたが、その後停滞が続き、年末にかけて再び大きく盛り上がりを見せました。実に、2024年公開作品のTOP10のうち、7本が6月から12月の間に集中しています」と強調しました。
米国では多くのレジャーが復活も、コロナ禍前の水準に戻らない映画興行
ダーガラベディアン氏は、2025年の見通しについて多くは語りませんでしたが、CinemaCon期間中に「2025年はコロナ前の水準に戻る」という見解は聞こえてきませんでした。4月後半には『マインクラフト/ザ・ムービー』の大ヒットがあったものの、CinemaConが開催された4月頭時点では、「厳しい」というムードがベースにありました。3月のアメリカの興行収入は、前年比45%減で、21年以降最低を記録。インターナショナルでは中国の『ナタ 魔童の大暴れ』の大ヒットがあり、四半期を終えた時点で、世界全体では前年比+7%となりましたが、コロナ禍前(2017~2019年平均)と比較すると16%減にとどまるという状況でした。

国ごと、会社ごとに状況は異なるものの、“International Day Programming”で開催されたパネルディスカッション“Globally Speaking”に登壇したティム・リチャーズ氏(Founder & CEO:Vue)が語った内容が、今年のCinemaConでグローバル興行会社全体に漂うムード、マインドを良く表していました。同氏は「今年はよい(Good)1年になるでしょう。ものすごくよい年(Great)にはならないでしょうが、もしかするとすごくよい年(very good)にはなり得ます」という認識のもと、進めるべきことを着実にやっていこう、という「地に足が着いた楽観論」を示しました。

マーク・ヴィアン氏(President、International Distribution:Paramount Pictures)、
アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ氏(CEO:Cinépolis)、ティム・リチャーズ氏(Founder & CEO:Vue International)
Photo by Bryan Steffy/Getty Images for CinemaCon 2025
こうした中、産業の成長と発展に向けて取り組むべき課題は多いというのが共通認識となっていました。4月1日にはPuck Newsのマシュー・ベローニ氏(Founding Partner:Puck News、Host:The Town)がモデレーターを担当したセッション“An Industry Think Tank: 2025”が開催されました。ベローニ氏は同セッションで、Netflixのテッド・サランドス氏(Co-chief executive officer:Netflix)がCinemaConに先立って行われたインタビューで、「(コロナ禍以降)ライブイベントはすべて大盛況、ブロードウェイでは記録更新が相次ぎ、スポーツ、コンサートもすべてコロナ禍前の水準、あるいはそれ以上となっていますが、映画興行収入は戻っていません。そこから見える消費者からのメッセージは何でしょうか」と発言した内容を引用し(※)、登壇したスタジオ・興行会社のトップらに問題提起をしました。映画産業の回復に向けた取り組みが、今なお必要であることを登壇者だけでなくその場にいた誰もが実感した瞬間でした。
※参照:「Netflix CEO says movie theaters are dead: ‘What is the consumer trying to tell you?’」(Semafor)
- 第1回:今年を「よい年」にするために
- 第2回:映画ビジネス機会創出と生き残りのために体験価値への投資が必要
- 第3回:映画産業発展のためにスタジオと映画興行会社が互いに求めること
- 第4回:ウィンドウ(劇場独占公開期間)の議論の行方
- 第5回:映画館AI先駆者たちが語る取り組み~AI導入で「拡張する」映画館の可能性(前編)
- 第6回:映画館ビジネスでのAIと人間の協業の在り方~AI導入で「拡張する」映画館の可能性(後編)
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