「ハリウッド」と「アメリカ映画興行界」、そして「グローバル映画業界」
公開日: 2025/05/23
CinemaCon2025では、スタジオのラインナップ発表に加えて、映画業界のキーパーソンらが産業の課題や発展に向けた取り組みを語りました。本記事では、CinemaConでどのようにアメリカ(Domestic) とアメリカ以外(International)の状況が語られたかに着目し、グローバル映画業界の発展について考えます。
※本記事で触れられている内容は2025年4月時点の情報です。
アメリカ「Domestic」 とアメリカ以外「International」
CinemaConは世界中の映画興行会社とハリウッドスタジオの対話が大きな比重を持ちます。その中で、アメリカを意味する「Domestic(米国内)」と、アメリカ以外を意味する「International(米国外)」では、共通の課題を抱えていると言うよりかは、それぞれ別々の状態にあるようでした。
CinemaConでは通例、初日月曜の朝から午後過ぎにかけて“International Day Programming”というセクションがあり、International市場を前提に、配給、興行からの基調講演や、現在の市場を取り巻く環境や施策について語るセッションが開催されます。その中の“Globally Speaking”では今年、アメリカ以外の国の映画興行において、“ローカルコンテンツ”が興行収入に大きく貢献していることが共有されました。また、スタジオ側のトップもローカルコンテンツ製作に力を入れていることを明かしました。International市場がコロナ禍前と同レベルに戻っているわけではないものの、市場成長におけるローカルコンテンツの貢献への期待が表明されていました。
アメリカが見つめる問題
一方で、月曜日の夕方からCinemaCon本体が正式にキックオフされますが、そこからは基本的にアメリカのDomesticな映画興行イベントの趣が強まりました。印象的だったのは、業界の状況と課題を業界団体のトップが語るセッション“State of the Industry”のなかで、映像製作者側の利益を守る業界団体MPA(Motion Picture Association)の代表、チャールズ・リブキン氏が語った内容です。同氏は例年、世界での海賊版対策を中心にMPAの取り組みを発表しますが、今年はアメリカ国内各州での製作誘致のための税制優遇を含めた各種措置とその経済効果を取り上げました。

Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2025
リブキン氏は、製作インセンティブの重要性を訴え、映画製作は地域経済に直接的な利益をもたらす「投資」であり、雇用と活性化に貢献するものだと強調。例として、大作映画1本の撮影で1日平均130万ドルが地元経済に落とされるほか、約1,600人の地元雇用を生み出し、1,700万ドル以上が支払われることを明かしました。すでに、米国内40州以上が映画製作誘致のためのインセンティブ政策を導入していることを紹介し、ジョージア州では1ドルの投資で6ドル以上の経済効果、ニューヨーク州では1ドルで約9ドルのリターン、カリフォルニア州では税制優遇で51本の映画に5.8億ドルの経済波及効果など、地域産業との共存と波及効果の例を挙げました。さらには、映画製作は映画関係者だけでなく、地元の業者・飲食・警備など多様な業種を支える側面にも触れました。こうしたことを踏まえ、リブキン氏は米国映画産業の国際的競争力強化への提言として、製作拠点の分散と誘致の強化により、全米で映画製作を活性化する必要があると訴え、MPAは連邦レベルでの税制支援拡充や政策提言に注力する予定であることを明かしました。その後、5月に入ってトランプ大統領がアメリカ国内での映画製作を促すためにアメリカ国外で製作された映画に関税をかける考えをソーシャルメディア上で明らかにしましたが、CinemaConの段階で業界団体はアメリカ国内での製作を後押しすべきとの考えを表明していたのです。
そのほか、「NATO(全米劇場所有者協会)」から「Cinema United」と名称を変更したアメリカの興行組合トップのマイケル・オリアリー氏が主張した「45日」のウィンドウ問題は、基本的にはアメリカの問題です。CinemaCon内の特設セクション“International Day Programming”は“グローバル”コンベンションでしたが、以降の話題はこれまでよりもアメリカ国内にシフトしていました。

Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2025
総興行収入ベースで見ると、アメリカはアメリカ以外と比べてもコロナ前のレベルに戻っていないわけではありません。しかし、アメリカで特に問題視されているウィンドウの件や、コロナ後のストライキもあったなか、主たる作品供給元であるハリウッドスタジオ各社の経営母体や財務状況などの変化が激しく、先行きの不透明さが増しているのでしょう。
アメリカ国内産業の立て直しを進めるトランプ大統領が全世界に向けて関税措置を発表したのはまさにCinemaCon開催中でしたが、MPAもCinema Unitedもすでに取り組みを進めていたアメリカ映画産業の改革施策をCinemaCon中に発表していました。ハリウッドスタジオにとってもInternational市場が大事なのは間違いないですが、こうした状況のなか、変化の激しいアメリカ国内における復興・取り組みの重要性は増しているでしょう。
グローバル市場を考える場
一方でアメリカ以外は、ハリウッドの供給が止まった穴をローカルコンテンツやハリウッド以外の外国映画が埋める「新しい市場の広がり」があり、「ハリウッドが戻ればさらに心強い」という状況でリスクが分散されており、状況が異なります。
また、「アメリカで起こっていることと、グローバルで起こっていることは同じではない」ことを認識すべきとの指摘もありました。“Globally Speaking”でCinépolisのアレハンドロ・ラミレス・マガーニャCEOは、「アメリカ中心の視座は、ゆがんだ視座になります。『ライオン・キング:ムファサ』はアメリカでは厳しかったかもしれませんが、インターナショナルでは成功しています。『ウィキッド ふたりの魔女』はアメリカでは成功しているかもしれませんが、インターナショナルは厳しい。つまり、アメリカとインターナショナルの結果が逆の構図となっているケースもあるのです」と語りました。アメリカを見ているだけではグローバル市場は理解できない、ということです。
世界の映画市場の1/4を占める北米(“Domestic”)と、残りの“International”。そしてアメリカ・ハリウッド映画。世界市場において今後も北米市場、ハリウッド映画の重要性は変わりません。しかし、世界の映画市場におけるもう一つの軸、“ハリウッド以外の映画”のグローバル市場における重要度に対して、今年のCinemaConでは語られる機会がなかったように思います。かつては中国、インド市場にスポットライトを当てる基調講演やプレゼンテーションがあったり、昨年もラインナッププレゼンテーションの場でCrunchyRoll初のラインナッププレゼンテーションや、東宝の松岡宏泰代表取締役社長のスピーチなどがありましたが、今年のCinemaConではそういった内容へのスポットライトは弱まっていました。しかしながら、アメリカ以外の市場にとっても、アメリカの市場にとっても、ハリウッド以外のコンテンツは未来への可能性として重要なはずです。
※参照:「特集:CinemaCon2024」
アメリカが産業構造の立て直しに悩み、各国が復興のために市場構造を変えてきたなか、CinemaConのような「グローバル映画興行コンベンション」で語られるべきことや、場の設定は変化してきています。世界各国の興行会社に向けてプレゼンテーションされるべき作品はハリウッド作品だけではありません。CineEurope、CineAsia、そしてアメリカ・グローバルのCinemaConですが、グローバルコンベンションとして市場状況に変化していくために、各地域において、“CineGlobal”とも言うべき機能がこのような国をまたぐ産業コンベンションにおいて求められているのではないでしょうか。
- 第1回:今年を「よい年」にするために
- 第2回:映画ビジネス機会創出と生き残りのために体験価値への投資が必要
- 第3回:映画産業発展のためにスタジオと映画興行会社が互いに求めること
- 第4回:ウィンドウ(劇場独占公開期間)の議論の行方
- 第5回:映画館AI先駆者たちが語る取り組み~AI導入で「拡張する」映画館の可能性(前編)
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