Anime Expo、熱狂の先に見たビジネスの未来 と“Anime Expo for Business”の可能性
公開日: 2025/07/25
米ロサンゼルスで今年7月に日本のアニメやマンガなどのポップ・カルチャーに特化した北米最大級のコンベンション「Anime Expo」のレポート第3回では、年々規模を拡大していくAnime Expoのビジネスプラットフォームとしての役割について考えます。
※本記事で触れられている内容は2025年7月時点の情報です。
- 現地報道から見える注目度の高まり
- 産業内ビジネスパーソンの交流の場としてAnime Expoは業界トップが集まる「非公式サマーキャンプ」?
- ビジネスプラットフォームとしての“Anime Expo for Business”の可能性
- グローバルエンタメビジネスの活性化を視野に入れて
今年で3度目の参加となったAnime Expoでは、イベント規模の拡大だけでなく、アニメのグローバルでの定着、メインストリーム化、注目度の高まりを感じられました。イベント全体がアニメ産業発展のためのプラットフォームとして自然と機能しており、その役割をさらに促進するための取り組みが展開されていく可能性を実感しました。
現地報道から見える注目度の高まり
今年は現地メディア・業界誌による報道が、これまでにない水準で展開されていました。FOXの朝のニュース番組では、「Anime Expo2025開催中」という見出しとともに、会場に詰めかけたファンへのインタビュー映像が放映されました。過去、ローカル局が独立記念日の祝日期間中に日本からの大谷翔平選手のファン集結を報じることはあっても、主要ネットワークがAnime Expoを取り上げることはほとんどありませんでした。
また、Variety、The Hollywood Reporterなどのハリウッド・映像業界誌においても、現地取材に基づくニュース・分析記事が多数掲載されていました。Varietyでは、Crunchyroll主催のパネルから『葬送のフリーレン』第2期の情報解禁や制作チームを紹介。また、Netflixのパネルをレポートし、特に『SAKAMOTO DAYS』を筆頭にアニメ配信の拡大と視聴者数の大幅増加に注目しました。さらに、Crunchyrollのグローバル・コマース シニアバイス・プレジデントであるミッチェル・バーガー氏がインタビューで、Anime Expoを「スーパーボウル」と表現し、アニメファンの集いの場であるだけでなく、ライセンサーやビジネスパートナーとの関係を構築する上でも不可欠な機会と位置づけたことを強調。アニメが単なるジャンルではなく、グローバルなメディア、そしてライフスタイルとして確立しているという内容を取り上げました。
The Hollywood Reporterは、Netflixがパネル内で人気作・新作の紹介をしたことに加えて、同サービスの全世界ユーザー3億人の半数以上がアニメを視聴しているという発表を取り上げたほか、アニメがグローバルなファンベースを築いていると報じました。また、Crunchyrollのラフル・プリニ社長へのインタビューを通じて、同社が単にストリーミングサービスを提供する企業ではなく、ファン体験、ゲーム、マンガ、音楽を含む総合メディア企業を目指していると紹介しました。Variety、The Hollywood Reporterともに複数の記者が現地に派遣されていたことが伺え、昨年には見られなかった現地取材記事の充実ぶりが印象的でした。
この背景には、CrunchyrollやNetflixなどの動画配信事業者による現地でのPR活動の強化と、それに伴う日本アニメの全世界への浸透に対して、現地メディアの間でも関心が高まっていることが挙げられます。その結果、メディアでの露出も拡大し、さらにアニメの注目度が上がるという好循環につながることが予想されます。
産業内ビジネスパーソンの交流の場としてAnime Expoは業界トップが集まる「非公式サマーキャンプ」?
Anime Expoへの一般参加者の増加に伴い、日本のアニメやエンタメビジネスの海外展開促進が期待されるなか、日本からの出張者についても人数・業種ともに幅の広がりを感じました。昨年も「初めてAnime Expoに来た」と語る方に出会いましたが、今年は製作・宣伝・商品化・流通・プラットフォーム関係者に加え、メディア、他業界の事業会社、投資家、技術企業など多様な分野からの参加が目立ちました。
Anime Expoが開催される数日前、日本経済新聞が「時価総額、エンタメが自動車抜く」と報じましたが、それを体現するかのように、開催前後の東京―ロサンゼルス間のフライトには、アニメ・実写、マンガ・出版、ゲーム業界の企業のトップ・幹部が多数搭乗しており、エンタメ企業の幹部が一堂に会したかのような様相でした。現地では、JETROによる交流会やスタートアップピッチイベントに加えて、多くの非公式イベントも開催されました。また、産業関係者・出展者の多くが宿泊するJWマリオットの喫茶店や、近隣のウェスティンなどのロビーやレストランでは、連日商談や会食が行われていました。Anime Expoは、イベントに登壇するクリエーターや声優だけでなく、こうした企業幹部にとっても、実際にファンの姿を目にし、熱量を肌で感じられる貴重な場でもあります。

ビジネスプラットフォームとしての“Anime Expo for Business”の可能性
こうした産業関係者によるネットワーキングや取引の促進は、現状では小規模・非公式・自然発生的に行われています。Anime Expo内の数え切れないほどの展示ブースは、あくまでファンに向けたもの、セミナーもアカデミックな内容を含みつつファン交流が主目的です。つまり、カンヌ国際映画祭に併設される作品のPRや権利の取引が行われるフィルムマーケット(Marché du Film)や、スタジオが興行に向けて今後のラインナップを発表し、業界団体が方針を打ち出すCinemaConのような、商談・取引を促進する取り組みや、産業の現在地を確認し未来を考える機会となる公式な場がAnime Expoには存在しません。これは大きな機会損失だと感じました。
Anime Expoの一週間後には、Appleのティム・クックCEOやDisneyのボブ・アイガーCEO、Open AIのサム・アルトマンCEOなど、メディア、エンタメ、そしてテックビジネスのトップらが集う「億万長者のサマーキャンプ」こと米投資銀行のアレン&カンパニー主催のカンファレンスがアイダホ州サン・バレーで開催されましたが、Anime Expoはさながら非公式な「日本エンタメ業界トップのサマーキャンプ」とも言える存在です。このエネルギーを意図的に活用し、業界活性化のプラットフォームとして進化させる、あるいは並行して新たに作り出すことに大きな可能性があるのではないでしょうか。
グローバルエンタメビジネスの活性化を視野に入れて
配信サービスやSNSによる海外アニメファン層の盛り上がりを一時的なブームで終わらせず、産業として安定的に発展させていくには、新たな挑戦が不可欠です。例えば、日本独自の「推し活」文化を海外市場へ展開する新たなビジネスモデルや、国境を越えてファンがコンテンツと出会い、エンゲージメントを深めるエコシステムの構築などが求められます。こうした取り組みは、日本のコンテンツにとどまらず、世界中のファンが自国以外の「海外コンテンツ」を発見し、それに関与を深めていくことを促進させ、さらにはグローバルなエンタテイメントビジネス全体の進化へとつながっていきます。そして、その進化こそが、日本のエンタテイメントビジネスのさらなる発展の礎となるはずです。
こうしたビジョンのもと課題を解決し未来を創造することに、産業のキーパーソンや次代を担う起業家たちが集い、知と情熱を交換するプラットフォームは重要な役割を果たせるはずです。ファンだけでなく、今や世界のビジネスパーソンをも惹きつける磁場となったAnime Expo。この場所が、その熱狂をビジネスの力に変え、グローバルエンタテイメントの未来を切り拓くハブとなることに、大きな期待が寄せられます。

取材・文:梅津 文
- 第1回:世界最大級のアニメイベント「Anime Expo 2025」ロサンゼルスで開催——過去最多41万人が熱狂した4日間
- 第2回:ファン交流・新作発表パネルから見える日本アニメの北米浸透状況
- 第3回:Anime Expo、熱狂の先に見たビジネスの未来 と“Anime Expo for Business”の可能性
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