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AIと映画製作者が共存していくには~釜山国際映画祭2025
公開日: 2025/10/17

特集:釜山国際映画祭2025 第2回

「第30回釜山国際映画祭」が2025年9月17日~26日にかけて韓国・釜山にて開催されました。本特集では、同映画祭の併設マーケット「Asian Contents & Film Market(ACFM、期間:9月20日~23日)」で開催されたプログラムのなかから、コンテンツ産業を支えるテクノロジーにスポットを当てた「InnoAsia」について紹介。特集第2回は、セッション「Dreamina AI - AI Film International Summit」をレポートします。
※本記事で触れられている内容は2025年9月時点の情報です。


《目次》

 

本セッションは、TikTokを運営する中国の大手企業ByteDanceが提供する二つのツール「Dreamina AI」と「Volcano Engine」、そして中国の国営映画会社Shanghai Film Co., Ltdの共催で行われました。『レヴェナント: 蘇えりし者』のプロデューサーから新進気鋭の映画監督、社会学者まで、多様な専門家が登壇し、映画製作における生成AIの現在と未来を提示するとともに、実際にDreamina AIで制作された短編映画5本が紹介されました。

 

『レヴェナント: 蘇えりし者』のプロデューサーが示す製作パートナーとしてのAI

映画『レヴェナント: 蘇えりし者』のプロデューサー、フィリップ・リー氏

セッションの冒頭では、『レヴェナント: 蘇えりし者』や『BETTER MAN/ベター・マン』などを手掛けたプロデューサー、フィリップ・リー氏が登壇。AIの進化に対し、業界内の不安に触れつつも、InnoAsiaのほかのセッション登壇者と同様に、AIを「クリエイターの才能を解放するパートナー」と位置づけ、その協業の可能性を力強く語りました。

そして、映画製作の歴史を振り返り、かつてCGやモーションキャプチャーといった技術が映画表現を大きく変革したように、AIもまた新たな可能性を切り拓くツールであると主張しました。また、AIの貢献を具体的にプリプロダクション、プロダクション、配給と製作段階ごとに挙げました。「ワンクリックでシーンの様々なバージョン、ムードをテストで生成することができます。撮影現場では、AIが音響、エフェクトといった作業を処理してくれるため、チームはより創造的な側面に集中できます。配給においては、ターゲットとなる観客に映画を届けるための最適な方法を見つけ出す手助けをしてくれます」。

同氏は、AIが制作の効率化を助けるとともに、長期的には観客参加型のストーリーやマルチエンディングの映画など、新しい表現方法を可能にする「創造的パートナー」になり得ると結論づけました。「ツールは目まぐるしく変わりますが、ストーリーを語りたいという人間の衝動は時代を超えて普遍なのです」と、あくまで人間手動のもとでストーリーやコンテンツが作られるという考えを強調しました。

 

最新モデル紹介:AI生成キャラクターがストーリーを理解して演じる

Dreamina AIのプロダクトマネージャー、リン・ジェ氏

次に、Dreamina AIのプロダクトマネージャーを務めるリン・ジェ氏が、同ツールの最新モデル「OmniHuman 1.5」を紹介。革新的な点として、従来の単なるキャラクター生成である“デジタルヒューマン”ではなく、脚本を自ら理解しキャラクターを演じる“デジタルアクター”を生成できるようになったことを挙げました。「ただセリフを読むだけでなく、ストーリーラインを理解し、キャラクターが話す一言一句に深い意味を持たせて関連したアクションを生成することができます。キャラクターの感情を解釈し、ベテラン俳優のような演技に変換することができるのです」と述べました。

 

クレイアニメから時代劇までAI映画作品にみる表現の多様性


セッションでは、Dreamina AIが公募したAI映画作品のなかから選ばれた5つの作品が紹介されました。

審査員の一人で韓国映画『レイトオータム』のキム・テヨン監督は、ビデオメッセージを通じて、「これまでのAI映画は、AIに何ができるかという技術的なデモンストレーションの側面が強い印象でした。しかし、今回の応募作品を観て、クリエイターが自身の意思や感情を表現するためにAI技術を本格的に活用する時代になったと感じました」と応募作品のクオリティを高く評価しました。

実際に予告編が上映された5作品には、AIを活用した多様な表現手法が見られました。クレイアニメや、壮大なSF、時代劇、愛らしい少女とロボットのアニメーションなど、ジャンルやスタイルは多岐にわたりました。

受賞した5作品のクリエイター

予告編の上映後には、受賞したクリエイターらがステージに登壇し、審査員との質疑応答が行われました。制作の背景やAI活用の具体的な手法について語られるなかで、受賞者のカン・シンギュ氏が「メッセージを伝えたいという哲学的な部分は、AIを活用しても従来通りの制作方法でも変わりませんが、予算的に困難な表現がAIによって実現可能になりました」とコメント。授賞式では、AIがどのようにクリエイターの創造力をサポートし、新たな表現を可能にしたか明らかにされました。

監督作品についてコメントするカン・シンギュ氏  

キャラクターに魂を吹き込むのは人間の役割

AIがもたらす恩恵と同時に、進化による課題についても議論は深まりました。特に社会学者のリー・インホ氏は、会場に向けて倫理的な問いを投げかけました。

社会学者リー・インホ氏

同氏は、AIが文化活動の中枢を担い、人間の感情や思考を深く理解するようになった未来を想定し、「人間の感情と価値の独自性をどのように守るべきか」と問題提起。そして、その答えを「対抗ではなく共生」に見出し、AIを人間の敵とみなすのではなく、その能力を理解し、協業することで新たな価値を創造していくべきだと主張しました。さらに、「キャラクターに魂を吹き込むのは、人間の想像力と感情である」と述べ、技術が進歩しても人間が創造の核であり続けることの重要性を説きました。

また、AIがもたらすもう一つの変化として、コンテンツと観客の関係を挙げました。同氏は、未来のAIキャラクターが自己成長・進化できる“流動的なIP”になるかもしれないとし、「観客の感情に反応し、様々な感情表現を見せるキャラクターはもはやスクリーン上の投影ではなく、私たち一人ひとりに新しい “物語との繋がり”を与えるでしょう」と予測。AIによって、コンテンツと観客の関係が「観る」から「対話し、共に創る」という新たな体験へと進化するとの見方を示し、AIと創る未来に対して大きな期待を寄せました。

取材・文 李錦香

特集:釜山国際映画祭2025