AIは映画制作者の才能を開放する:先端テクノロジーがコンテンツ産業にもたらす効率化と民主化の波~釜山国際映画祭2025レポート
公開日: 2025/10/10
「第30回釜山国際映画祭」が2025年9月17日~26日にかけて韓国・釜山にて開催されました。本特集では、同映画祭の併設マーケット「Asian Contents & Film Market(ACFM、期間:9月20日~23日)」で開催されたプログラムのなかから、コンテンツ産業を支えるテクノロジーにスポットを当てた「InnoAsia」についてレポート。特集第1回では、生成AI、ブロックチェーンなど最先端技術をテーマとした各セッションでの議論や発表内容を基に、テクノロジーがコンテンツ産業に与える影響について考えます。
※本記事で触れられている内容は2025年9月時点の情報です。

- 初開催の「InnoAsia」:AIがコンテンツ産業の未来を照らす
- 生成AIで制作費は10分の1に抑えられる:コスト削減と効率化
- 「誰もがクリエイター」の時代へ:AIによる創造の民主化
- 残された「著作権」問題を解決するには
初開催の「InnoAsia」:AIがコンテンツ産業の未来を照らす

「ACFM」は、釜山国際映画祭の併設コンテンツマーケットで、映画や映像だけでなく、書籍、ウェブトゥーン、Web小説など幅広いコンテンツを取引対象とする総合的なプラットフォームとなっています。アジアを中心に世界中からバイヤー、プロデューサー、プラットフォーマー、投資家が集まり、今年は250社以上が出展しました。

本マーケットのプラグラムの一つとして「InnoAsia」が今年初めて開催されました。最先端技術とストーリーテリングの融合を促進することを目的とし、映画・音楽などのコンテンツ制作を支えるアジアのAI開発企業、AIクリエイティブスタジオ、そのほか先端テクノロジーを開発するスタートアップなど多数の企業が一堂に会し、ブースを出展しました。また、ステージやイベントルームでは、各社の事例を紹介するカンファレンスや、実際に生成AIを活用した映画の上映が行われました。カンファレンスの登壇者らは、一貫してAIを「人間を代替するものではなく、創造をサポートするパートナー」と定義。そして生成AIが及ぼすポジティブな影響として、「効率化」と「民主化」という二つの方向性を示しました。
生成AIで制作費は10分の1に抑えられる:コスト削減と効率化
カンファレンス全体を通じて強調されたのは、AIがコンテンツクリエイターを時間や予算といった物理的な制約から解放し、より創造性の追求を可能にするという点です。
中国発の動画生成AIツール兼プラットフォームサービス「PixVerse」の共同創設者ジェイデン・シェ氏が登壇したセッション「PIXVERSE AI: Can AI Really Film Your Story?」では、AIが制作ツールとしてどのように活用されているかを具体的に提示。シェ氏は、同サービスのユーザー数が1億人を突破しており、米国、ドイツ、ブラジル、スペイン、ロシアなどのアプリストアランキングで上位を獲得していることを明かしました。機能として、テキストからの映像生成、既存の映像の拡張生成、編集、映像に合わせた音声の生成などが可能で、難しいプロンプトがなくともスピーディーにコンテンツを生成できると紹介。コスト・時間の削減から、制作プロセスそのものを再定義する事例が多数共有されました。
カンファレンス「InnoAsia Conference Ⅳ: IP Value Chain」では、韓国の映画製作会社「Soojak Film」を通じて商業映画の製作に長年携わってきたパク・ジェス氏が、AIコンテンツスタジオ「MCA」の代表として登壇し、AI活用で制作費を従来の10分の1以下に抑えられる可能性に言及。これにより、「これまで商業的な理由で制作が難しかった、より独創的なテーマの映画にも挑戦できるようになりました」と述べ、AIがコンテンツの多様性を促進する存在になり得ると期待を寄せました。
「誰もがクリエイター」の時代へ:AIによる創造の民主化
AIがもたらすもう一つの大きな変革は、コンテンツ制作のハードルを下げ、「民主化」された表現手段へと変える力です。
「PixVerse」のシェ氏は、同サービスを利用しているユーザーが、専門知識や制作経験がなくとも数秒で質の高い映像コンテンツを生み出している現状を紹介。「AIはクリエイティビティを拡張する強力なアシスタント」と定義し、誰もがクリエイターになれる時代が到来したと述べました。
また、インドのスタートアップ「Mugafi」の創設者であるヴィプル・アグラワルCEOは、「InnoAsia Conference Ⅳ: IP Value Chain」にて、脚本やキャラクター、コミックを簡単に生成できるサービス「VED」を紹介。同氏は「次世代のMARVEL、ポケットモンスターを発掘する」ことを目的としていると述べたうえで、生成された脚本がどの市場で受け入れられるか、劇場もしくは配信向けか、アニメーション向けかという観点で審査された後、コミックやライトノベルといったコンテンツに変換され、プラットフォーム上に公開されるという一連の流れを説明しました。さらに、プラットフォーム上で直接ファンから資金提供も受けることができることを明かし、誰しもがプロのコンテンツクリエイターになれることを強調しました。
この潮流は、ニューヨークを拠点とするAIアニメーションスタジオ「Mini Studio」のファブリス・ナジャリ共同創設者が「InnoAsia Conference Ⅳ: IP Value Chain」で語った「AIがクリエイターの裾野を広げ、新たな才能が生まれる機会を創出する」という言葉にも集約されています。ほかのカンファレンスの登壇者も共通して、AIが個々人の表現活動を促進することで、コンテンツ業界全体の活性化に繋がるという展望を示していました。
残された「著作権」問題を解決するには
技術の進展に伴い、法整備や倫理といった課題についても議論が行われました。特に大きな論点となったのが「著作権」の問題です。
AIの学習データに含まれる既存の著作物の権利や、AIが生成したコンテンツの所有権は誰に帰属するのか、という問いに対して各社は見解を示しつつも、業界全体としてまだ確立していない現状を認めました。例えば「PixVerse」はカンファレンスでの質疑応答において、「AI学習に使用する画像のデータは著作権をクリアしており、実際にテンプレートを使用して生成されたクリエイティブの所有権はユーザーにあります」としながらも、現時点で100%安全とは言い切ることは難しく、問題の複雑さを指摘しました。
各カンファレンスで著作権について議論されるなかで、「InnoAsia Conference Ⅳ: IP Value Chain」のモデレーターを務めた「STUDIO REALIVE」のJay KIM CCOは、既存の枠組みに捕らわれない新たな発想の重要性を訴えました。同氏は、かつてクリエイターと消費者が明確に分かれていた時代から、現在その境界線が曖昧になりつつあると指摘。こうした変化のなかで、個人の創作だけでなく、共通のテーマや物語を共有するコミュニティによる「共同創作」が増えてくると予測しました。著作権の問題についても「個人間だけでなく、コミュニティ単位に拡張するというコンセプトが必要かもしれません」と見解を述べました。
「InnoAsia」 では、AIがコンテンツ産業の各領域に与える具体的な影響が示されました。多くのカンファレンスで共通して、AIはコンテンツビジネスにおいて脅威ではなく、「クリエイターの可能性を広げるもの」「市場を促進するもの」と位置付けられました。著作権などの法整備が今後の重要な課題となる一方で、AIを新たな創造のツールとして活用しようとする業界の動向が確認されたプログラムとなりました。
取材・文 李錦香
- 第1回:AIは映画制作者の才能を開放する:先端テクノロジーがコンテンツ産業にもたらす効率化と民主化の波
- 第2回:coming soon
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