KCON LAとAnime Expoから北米におけるアジア系カルチャーの持続的成長を考察する
公開日: 2025/09/02
米ロサンゼルスで韓国の音楽、ビューティー、食、ドラマなどをテーマにした北米最大級のKカルチャーフェスティバル「KCON LA」が8月1日から3日にかけて開催されました。本特集では、K-POPを中心としたKカルチャーのグローバル展開と、 日本のPOPカルチャーに特化したコンベンション「Anime Expo」との比較から、イベントの更なる発展の可能性について考えます。
第2回は、ハリウッドと融合するKカルチャーの現在地と、北米のアジア系POPカルチャーの祭典としてKCON LA、Anime Expoそれぞれの成長戦略についてフォーカスします。
※本記事で触れられている内容は2025年8月時点の情報です。
前夜祭「K-Culture Night」がハリウッドとのコネクション構築に

「KCON LA」の開幕に先立ち、7月31日にアカデミー映画博物館のデビッド・ゲフィン・シアターで、前夜祭イベント「K-Culture Night at Academy Museum with KCON」が開催されました。このイベントは、KCON13周年とCJ ENMの30周年を記念し、CJ ENMとアカデミー映画博物館の3年間に及ぶパートナーシップの一環として企画されました(*記事)。
韓国系米国人タレントの『エリック・ナム ※パラマウントによる全編韓国撮影のK-POPをテーマとした映画“タイトル未定”の主演にキャスティング(参照記事: DEADLINE)』が司会を務め、「K-ダンスのアイコン」と呼ばれるダンサー・振付師の『チェ・ホジョン』、K-ラップのスター『イ・ヨンジ』と、ボーイズグループの『P1Harmony』、日本のガールズグループ『IS:SUE』、そしてNetflixの『イカゲーム』で注目を浴びた俳優『イム・シワン』が出演しました。

KCON /Courtesy of CJ ENM
チケットは即日完売し、通常は映画上映やプレミアイベントが行われる約1000人収容のデビッド・ゲフィン・シアターがKコンテンツで染まるイベントとなりました。現在、アカデミー映画博物館では世界初開催となる「ポン・ジュノ展」が開催中です。第92回アカデミー賞で作品賞ほか3部門を受賞した『パラサイト 半地下の家族』や、最新作『ミッキー17』で使われた小道具や絵コンテ、ポン・ジュノ監督が所蔵する映画関連書籍などが展示されています。後日、イム・シワンが博物館を散策する動画も公開されました。
ダンサーのチェ・ホジョンは『パラサイト 半地下の家族』の楽曲でダンスを披露し、イム・シワンは『イカゲーム』や彼の代表作の一つであるドラマ『ミセン-未生-』についてのトークを英語で行い、会場にいたイ・ビョンホンや映画芸術科学アカデミーのビル・クレイマーCEOとの即興トークも楽しんでいました。このイベントでは、K-POPは単なる音楽ジャンルではなく、映画や舞台芸術ともリンクするKカルチャーの中核であることを証明していました。

左からエリック・ナム、イム・シワン、イ・ヘソン(アカデミー映画博物館映画プログラムアソシエイトディレクター)
『パラサイト』でオスカー受賞、ミキー・リーがKCON LAの推進力
2020年、第92回アカデミー賞において作品賞、監督賞(ポン・ジュノ)、脚本賞(ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン)、国際長編映画賞の4冠を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のプロデューサーでもあるCJ ENM総括副会長ミキー・リー氏が、KCON LAの推進力です。アカデミー映画博物館での前夜祭も、同氏のアメリカ映画芸術科学アカデミー(AMPAS)への多大な貢献なくては実現不可能だったでしょう。
また、Apple TV+では8月29日から「KPOPPED」の配信が開始されました。「江南スタイル」で一世を風靡した『PSY』とグラミー賞受賞ラッパーの『ミーガン・ジー・スタリオン』がMCを務めるこの音楽リアリティーショーは、西洋の著名ミュージシャンとK-POP、J-POPアーティストがチームを組み、彼らのヒット曲を"K-POP調"に再構築してライブパフォーマンスを披露する、画期的なシリーズです。

Courtesy of Apple TV+
このシリーズのプロデュースもCJ ENMが行い、ミキー・リー氏がエグゼクティブプロデューサーを務めています。欧米からの出演者には『スパイス・ガールズ』からメラニー・Bとエマ・バントン、『ボーイ・ジョージ』『TLC』『カイリー・ミノーグ』『Boyz II Men』などが名を連ね、『ATEEZ』『Billlie』『ITZY』『Kep1er』『JO1』『STAYC』『Kiss of Life』『BLACKSWAN』らが往年のヒット曲を"K-Popped(K-POP化)"し共演しています。

Courtesy of Apple TV+

Courtesy of Apple TV+
また、今年の第78回トニー賞で6部門を受賞したミュージカル『Maybe Happy Ending』も、もとは韓国・ソウルの小劇場で上演されていたCJ ENM製作のミュージカル。米韓のクリエイターが作った作品を、韓国での初演からブロードウェイに進出するにあたり、セリフを英訳するだけでなく、海外用に翻案しなおしたといいます(参照記事:ニューズウィーク日本版)。時流を読みモメンタムを作り、KCON LAとK-POPを盛り上げたCJ ENMとミキー・リー氏のプロデュース力は確かなものです。
AXとKCON LAは互いに学び合えるのでは?
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の世界的成功と『KPOPPED』の革新的な東西文化融合、『Maybe Happy Ending』のローカライゼーションは、KCON LAとKカルチャーが築いた基盤の上に新たなポップカルチャーが生まれる可能性を示しています。
同様のコンベンションとして、日本直送の純度の高いアニメ文化をロサンゼルスに運び込み世界65カ国以上から延べ41万人以上を集客する「Anime Expo(AX)」があります。KCON LAは大企業による商業的イベント、AXは非営利団体のSPJA(The Society for the Promotion of Japanese Animation)によるプロモーションイベントと立ち位置は違いますが、アメリカにおけるアジア系カルチャー推進イベントとして双方からヒントが得られると考えています。
昨今の急伸なK-POPブームは、K-POPが積極的にソーシャルメディア戦略を統合し高度化したことが、文化融合として花開き始めたとも言えます。例えばK-POPアーティストたちは、YouTubeをメインプラットフォームに、Weverse(ファン専用コミュニケーション)、Instagram(パーソナルコンテンツ)、TikTok(バイラルコンテンツ)などを階層的に活用し、グローバルリーチを広げました。KCON LAがAmazon Musicと組みグローバルライブ配信されたのも、ソーシャルメディア統合の一角と言えるでしょう。

今年で開催33年目を迎えたAXは、会場のロサンゼルスコンベンションセンターの収容限度に達しているようです。K-POP/KカルチャーがSNSやOTTサービスを味方に世界中に拡散していったように、アニメのソーシャルメディア戦略として、AXが挑戦できる余地もあるような気がします。AXにも食品やファッションのブースもありますが、Jカルチャーとして複合的に日本文化を見せる試みはあっても良いと思います。
アジアからロサンゼルスに移り住み、エンタテイメントに関わる仕事をしている者として、ロサンゼルス、そして北米やグローバルにおけるアジア系カルチャーのさらなる繁栄に大きな期待を寄せています。

取材・文/平井伊都子
- 第1回:KCON LA 2025レポート:『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の大ヒットに見るKカルチャーのグローバル展開
- 第2回:KCON LAとAnime Expoから北米におけるアジア系カルチャーの持続的成長を考察する
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