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日本IPグローバル展開の先駆者・フィロソフィア藤村氏がこれまでの軌跡と未来を語る~TIFFCOM2025 キーノート
公開日: 2025/10/31

特集:東京国際映画祭2025レポート_第1回

「第38回東京国際映画祭」が10月27日から開催されています。本特集では、併設マーケット「TIFFCOM(会期:10月29日~31日)」で行われた、コンテンツビジネスの最新動向を伝えるセミナーをレポート。第1回は、実写版『ONE PIECE』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めた藤村哲也氏が登壇したキーノートセミナー「グローバル映像化で注目される日本IPの未来」を紹介します。エンタメ産業従事者に向けて、日本のIPが世界的な大ヒットへと成長していくための道筋と、それを支える原作市場の現状、そして今後の展望について、データに基づき報告されました。
※本記事で触れられている内容は2025年10月時点の情報です。

《目次》

 

 

米トッププロデューサーとの出会いをきっかけに切り開いたビジネスモデル

株式会社フィロソフィアの藤村哲也代表取締役
実写ドラマ『ONE PIECE』の関係者にだけ配布されたパーカーを着て登壇

キーノートセミナーに登壇したのは、実写版『ONE PIECE』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めた株式会社フィロソフィアの藤村哲也代表取締役。同氏はまず、2006年に同社を立ち上げた経緯の説明からはじめました。将来的に世界規模でマンガ、アニメ、ゲームなどの日本のコンテンツの認知度が高まり、その結果として原作の価値が生まれることを見越し、日本の権利元とハリウッドのプロデューサーを結びつけるブリッジ役というビジネスモデルに着目したといいます。また、新会社設立に際して自身が創業したギャガ株式会社を退任する際、引き継いだ依田巽氏から事業への助言や出資といった多大な支援を受けたことにも言及し、「共同で創業したような気持ち」であると感謝の意を述べました。

このようにして始まった事業ですが、現在ほど日本のコンテンツが海外で認知されていないなか、ハリウッドで日本のIPを基にした企画を通すためには、誰でも知っているハリウッドのトッププロデューサーと組む必要がありました。そこで同氏は、マーベル・スタジオの創業者であり、『スパイダーマン』シリーズなどを手掛けたプロデューサー、アヴィ・アラッド氏や、ハリウッドの代表的なエージェンシー出身で、『プリズン・ブレイク』などをヒットさせたテレビプロデューサー、マーティ・アデルスタイン氏といったハリウッドの一流プロデューサーたちとの関係を構築。アラッド氏とは、最初期の共同事業として、『攻殻機動隊』の実写映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年公開)を製作。現在は、2027年に公開を予定している、ゲームシリーズ『ゼルダの伝説』の実写映画などの大型プロジェクトを共同で進行しています。また、アデルスタイン氏とは、『カウボーイビバップ』の実写ドラマ化(2021年)などのプロデュースを経て、国民的マンガ『ONE PIECE』の実写ドラマ化を実現させました。 PIECE』の実写ドラマ化を実現させました。

 

なぜ日本のIPは強いのか

藤村氏は、直近の全世界興行収入ランキングを引用し、「2024年の興行収入TOP10に、『ゴジラ』『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』と日本のIPを原作とした作品が2本もランクインしました。さらに、2025年の現時点でのランキングでは、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が5位にランクインする快挙を達成しました」と、日本のIP強さを示しました。

さらに、米国の金融会社TITLEMAXによる全世界のIP売上ランキングTOP25によると、『ポケットモンスター』『ハローキティ』などの日本のIPが10個ランクインしていることを共有し、日本が「世界的なIP大国」であることを強調しました。

日本のIPの強さの要因は、豊富なマンガ雑誌とそのアニメ化構造、アニメの配信による世界での知名度向上、そして世界有数のゲーム大国にあると述べる藤村氏。「戦後、マンガ雑誌のビジネスモデルが広まり、テレビの普及によりヒットマンガをアニメ化する構造が確立することで、多くの優秀なクリエイターが育ちました。そして、現在Prime Video、Netflix、Crunchyrollをはじめとした配信プラットフォームによるアニメの全世界配信によって、日本アニメの知名度と人気が確立しました。また、ソニー・インタラクティブエンタテインメントや任天堂といった人気ゲームを保有している企業を中心に、映像化に適した優れたゲームIPが多数製作されています」。

続けて、藤村氏はマンガ・アニメ・ゲーム市場が、今後さらに伸びていくと予想しました。「マンガは、海賊版対策の進展などにより、2024年から2030年にかけて2.7倍の規模に成長すると予測されています。アニメ市場は緩やかではありますが長期的な成長が確実視されており、ゲーム市場は2030年には90兆円規模(2024年比で倍増)に達すると見込まれています」とIP市場の成長に期待を寄せました。

 

地域で異なる日本のIPの映像化傾向:アジアは恋愛ジャンルとドラマ化、欧米はSF・アクションと映画化が主流

藤村氏は、日本IPのグローバル映像化の現状と地域別の傾向について、自社調査で得られた結果を報告しました。「日本のIPをもとに映像化された作品は、1990年代では23本でしたが、2010年代には85本にまで増えています。2020年代は現状69本ですが、多数の待機作品があることから160本以上になることが予想されます」と今後映像化がさらに加速することを示唆しました。

さらに、地域別の特徴として、アジアでは、日本のテレビドラマのリメイクを含むテレビシリーズ化が多く、特に『花より男子』が韓国、台湾、中国など複数の国でリメイクされるなど「恋愛」が人気ジャンルとなっている一方、欧米では、「アクション」「SF」ジャンルの原作が人気で、大型フランチャイズ映画化が主流となっていることを共有しました。

また、主な日本IPの映像化のヒット事例として、映画『百円の恋』を紹介。「中国版リメイク『YOLO 百元の恋』は、世界興行収入約730億円を記録しており、2024年の中国興行収入ランキングで1位を獲得しました」。

 

ハリウッドで企画進行中の日本IP原作コンテンツ

最後に、藤村氏はハリウッドでの映像化発表があった日本のIPを紹介しました。

映画化が予定されているIP(一部抜粋)

    マンガ原作
  • 『ワンパンマン』
  • 『NARUTO -ナルト-』
  • 『進撃の巨人』
  • 『鉄腕アトム』
  • 『GANTZ』

    ゲーム原作
  • 『サイレントヒル(実写版シリーズ3作目)』
  • 『スーパーマリオブラザーズ(アニメ映画2作目)』
  • 『ゼルダの伝説』
  • 『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』

    そのほか
  • 『ベイブレード』(玩具)
  • 『All You Need Is Kill』(ライトノベル)
  • 『ハローキティ』(キャラクター)

テレビシリーズ化が予定されているIP(一部抜粋)

    マンガ原作
  • 『ONE PIECE(実写版シーズン2、3)』
  • 『約束のネバーランド』
  • 『CLAYMORE』
  • 『DEATH NOTE』
  • 『賭ケグルイ』

    ゲーム原作
  • 『ポケットモンスター』
  • 『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』
  • 『The Last of Us(実写ドラマシーズン3)』

    そのほか
  • 『コーヒーが冷めないうちに』(小説)
  • 『羅生門』(小説)
  • 『マッハGoGoGo』(アニメ)
  • 『ゴジラ』(映画)

講演の結びとして、藤村氏は「メジャーなIPの権利契約はほとんど決まっている一方で、インディゲームや小説、ライトノベルといった従来とは異なるジャンル、まだ有名ではないIPにハリウッドの目が向けられ始めています」と、すべてのエンタメ産業従事者にチャンスが広がっていることを力強く語りました。

取材・文 李錦香

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