TBS・日テレほか放送局のグローバルビジネス最前線(前編)— コンテンツ輸出戦略と海外向け新規IP開発事例
公開日: 2025/11/28
「第38回東京国際映画祭」が10月27日から11月5日にかけて開催されました。本特集では、併設マーケット「TIFFCOM(会期:10月29日~31日)」で行われた、コンテンツビジネスの最新動向を伝えるセミナーをレポート。第4回は、TBS、日本テレビ、テレビ宮崎など様々な放送局のグローバル戦略と、グローバル市場に向けたコンテンツ開発事例を紹介します。
※本記事で触れられている内容は2025年10月時点の情報です。
- TBS・日本テレビの長期グローバル計画:国内メディアからグローバルコンテンツグループへ
- TBS:グローバル展開が進む『SASUKE』とオリジナルドラマの製作
- 日本テレビ:海外に特化したオリジナルバラエティの開発
- テレビ宮崎:ローカル局に眠る放送コンテンツを集約して新たな価値を創出する
TBS・日本テレビの長期グローバル計画:国内メディアからグローバルコンテンツグループへ
TIFFCOMでは今年、放送局のグローバル戦略に関する複数のセミナーが開催されました。セミナーでは、TBS、日本テレビ、テレビ宮崎ら放送局の代表が登壇し、長期的な経営ビジョンに基づき、グローバルビジネスを企業、グループ成長の核として位置づけました。
TBSテレビの龍宝正峰代表取締役社長
株式会社TBSテレビの龍宝正峰代表取締役社長は、セミナー「Inspiring Global Love for Japan ~TBSグローバルビジネスの挑戦と未来~」において、同社の長期経営ビジョンである「ビジョン2030」のもと、デジタル、グローバル、そしてリアル事業の3つを注力領域と定めました。特にグローバルにおいては、「国内の放送を中心としたメディアグループから世界に向けたコンテンツグループへと生まれ変わる」ことを目指しており、この1年間で、北米や韓国に開設した戦略拠点での活動も含め、海外のパートナーとのアライアンス発表や共同IPの開発、新たなエンタテイメントビジネスへの挑戦など、様々な取り組みを進めてきたと述べました。
日本テレビ放送網株式会社は、「コンテンツの力で、“世界”を変える。」という経営ビジョンのもと、「日テレ、開国! Gear up, go global」をスローガンに掲げています。同社のグローバル戦略について、澤桂一取締役専務執行役員は、セミナー「『日テレ、開国!Gear Up, Go Global』日本テレビ グローバルビジネス戦略発表」に登壇し、「これからは国内の視聴率だけではなく、海外での数字も意識したコンテンツ製作、グループ内の人材開発に注力していきます」と述べ、全社の意識改革を促していることを示しました。定量目標としては、2024年度のグループ海外売上が約200億円超であるところ、2033年には5倍増の1000億円を目指していると明かしました。
また、6月にはカナダのスタジオ兼ライツビジネスを展開する「Blue Ant Studios」と戦略的パートナーシップを締結したとし、北米市場における共同開発および制作を強化していく方針を示しました。
TBS:グローバル展開が進む『SASUKE』とオリジナルドラマの製作
グローバル市場で収益を拡大するため、各放送局は既存コンテンツの輸出及び、海外向けの新規フォーマット開発強化に向けて体制を構築しています。
TBSの龍宝氏からは、『SASUKE Ninja Warrior』のグローバル展開について報告がありました。同番組は既に165以上の国と地域で放送・配信されており、25カ国で現地版が制作されていることを共有。また、世界最大級の制作会社グループである「Banijay Entertainment」とパートナーシップを締結し、同番組のフォーマットをアジア、アメリカ、ドイツ、フランス、ポーランドを除く全世界において、幅広いネットワークを通じて販売していくことを明らかにしました。
THE SEVENの瀬戸口克陽代表取締役社長
さらに、2022年にTBSグループ内に設立した海外向けコンテンツスタジオ「株式会社THE SEVEN」を通して、新規コンテンツを世界に発信していると共有。同スタジオの瀬戸口克陽代表取締役社長は「Inspiring Global Love for Japan」に登壇し、制作協力したNetflixシリーズ『今際の国のアリス』のシーズン3が、グローバルトップ10の非英語シリーズ部門で世界第1位を獲得したことをアピールしました。そして、初の自社企画・制作・配給映画『愚か者の身分』が釜山国際映画祭のコンペティション部門に正式選出され、主要キャスト3名(北村匠海、林裕太、綾野剛)がそろって最優秀俳優賞を受賞したとし、世界から評価される高品質なドラマを開発していることを強調しました。
日本テレビ:海外に特化したオリジナルバラエティの開発
一方、日本テレビは自社の強みをバラエティコンテンツとし、グローバル市場向けのバラエティ企画開発に特化したスタジオ「GYOKURO STUDIO」を発足したことを共有しました。セミナー「日本テレビ グローバルビジネス戦略発表」に登壇した同スタジオの秋山健一郎代表は、地上波と連動した海外フォーマットの開発、グローバルプラットフォーム向けオリジナル企画制作、グローバル企業向けブランデッドコンテンツ開発の3つを柱としていると述べました。
具体的な例として、身体能力を活かして一攫千金を目指すゲームバラエティー『メガキャッチ ~掴むだけで一攫千金~』と、子どもが親の職場に潜入するリアリティ番組『Secret Little Assistant』という2つの新フォーマットを紹介。また、グローバルプラットフォーム向けのコンテンツとして、ディズニープラスで配信中の『旅するSnow Man』や、フランスのジュエリーブランド「ブシュロン」のブランデッドコンテンツ開発の事例を紹介しました。秋山氏は、コンテンツ制作の評価基準について、「重視する指標は、国内の視聴率だけではありません」と明言し、グローバルの売上をいかに伸ばすかに重点を置いていると力強く語りました。
テレビ宮崎:ローカル局に眠る放送コンテンツを集約して新たな価値を創出する
株式会社テレビ宮崎のコンテンツビジネス局 エグゼクティブアドバイザー大山真一氏は、スペシャルセッション「放送コンテンツの海外展開最前線 ~国際共同製作からローカルコンテンツの可能性まで注目の最新事例を一挙紹介~」に登壇。同局を含め全国63のローカル局(2025年度時点)が参加するプロジェクト・「LCB(Local Contents Bank)」について紹介しました。
ローカル局が製作した大量のコンテンツがマネタイズできていないという共通課題を解決するために発足した本プロジェクトは、各局のコンテンツを一つの事業者向けプラットフォームに集積・整理することで新たな価値を創出するという取り組みです。「AIを活用してグルメ、観光といったタグやキーワード、概要文などのメタ情報を付与することで検索性を高め、関連動画をプレイリスト化する機能が特徴です。現在はTVerで『全国ラーメン図鑑』などのプレイリストが配信されています」と説明しました。海外でのシステム導入も見据えており、「ローカルテレビ局に眠っている映像をもとに、地域の魅力を世界に伝えたいです」と今後の展望を語りました。
次回は、TBS、日本テレビのほか、朝日放送テレビ、WOWOWなど各局で行われている海外パートナー企業との共同製作について具体的な事例を紹介します。
取材・文 李錦香
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