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「アニメ」はなぜ世界で愛されるのか:ANIAFFセミナー「日本アニメとは何か? いま世界で何が起きているのか」(前編)
公開日: 2026/01/09

特集:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル セミナーレポート 第1回

あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)にて12月15日、セミナー「日本アニメとは何か? いま世界で何が起きているのか」が開催されました。モデレーターは本映画祭のアーティスティック・ディレクターを務めるジャーナリストの数土直志氏。ゲストにスタジオ地図の代表取締役であり映画プロデューサーの齋藤優一郎氏と、欧米の日本アニメビジネスに関する造詣が深い講談社のシニア・ビジネス・ストラテジストであるジェシカ・ポース氏を迎えました。前編は、日本アニメの世界的躍進の背景とこのブームが一過性であるかという問いについて交わされた議論をレポートします。
※本記事で触れられている内容は2025年12月時点の情報です。

《目次》
 

日本のアニメはなぜ世界的潮流になったのか

冒頭、モデレーターの数土氏は本企画が生まれた背景に触れました。きっかけは『鬼滅の刃』が世界的なヒットを遂げているものの、当の日本人が正しく状況を理解できていないのではないかという問題意識でした。そこで今回、日本国内の視点から語れる齋藤氏と、国外から語れるジェシカ氏を招き、国内外の日本アニメの状況を議論する流れになったといいます。

世界共通の「記号体系」がアニメ普及を後押し

ジェシカ氏は、日本アニメがなぜ文化や言語の壁を越えて世界に浸透したのかについて、解釈の一つとして「記号論(セミオティクス)」という独自の分析を提示しました。同氏は、アニメを単なる映像作品ではなく、高度に発達した「記号体系」であると定義します。

「アニメが世界に広がっているのは、単に作品を輸出しているからではなく、『記号体系』を輸出しているからです。ローカルな記号でありながら、意味を失うことなくローカライズできる。これが、アニメがグローバルに通用する理由の一つだと思います」と、その普及の核心を語りました。彼女の分析によれば、アニメは視聴者に「日本を理解すること」を求めるのではなく、独自のコードを学ぶことを求めます。ジェシカ氏は「一度コードを理解すれば、それはどの作品にも応用できます」と述べ、少年マンガの努力・友情・勝利や魔法少女ものの変身、責任といったことが繰り返し描かれることで、「物語の読み方」を観客に教え、現代の神話として機能していることを指摘しました。

さらに、映像構図や身振り、そして「間」によって感情を伝える手法により、アニメは意味を言語から切り離すことに成功しています。ジェシカ氏は「字幕によって言語は変わっても、記号は変わりません。視聴者はすべての言葉を理解しなくても、意味を失うことはないのです」と、アニメが持つ情報密度の高さと伝達力を強調しました。

四半世紀に及ぶ「共同作業」の成果

この爆発的な盛り上がりは、テクノロジーの進化と、四半世紀に及ぶ地道な努力の結晶でもあります。ジェシカ氏は、自身が26年前から業界に携わってきた経験を振り返り、「1980年代、そして1990年代には欧州で日本のアニメが広く放送されていました。しかし、人々はそれが日本のアニメだと認識していませんでした」と回想しました。当時は認知度が低く、配給の現場でも模索が続いていました。しかし、ジェシカ氏は「この成功は20年以上にわたる日本と国際市場の共同作業の成果であり、限界を超えて努力する意志を持った人々がいたからこそ実現したのだと考えています」と、多くの企業や個人の積み重ねを評価しました。また、そこにインターネットという「アクセシビリティ」を一気に高めるテクノロジーが加わったことが、論理的な飛躍をもたらしたと分析しています。

齋藤氏も自身の経験に基づき、日本アニメの変容を語りました。米国留学中の1995年当時を振り返り、「当時はまだブランディングという考えなしに、編集権を含めて安く売っていたものがたくさんあった」と、かつての市場状況を説明しました。しかし、そうした「薄利多売」の時代があったからこそ、観る人の幅が広がり、現在は作り手の思いやスタジオのブランディングも含めた「コンテンツの輸出化」という成熟期を超えた段階にあるのだと述べました。

 

世代の厚みと挑戦の継続が次の跳躍の鍵

数土氏は、過去の歴史を引き合いに、現在の盛り上がりが再び縮小する可能性について問いかけました。これに対しジェシカ氏は「(日本のアニメブームが衰退するとは)思いません」と断言し、現在は3~4世代にわたってアニメに親しむ層が厚く重なり合い、習慣が継承されている現状を指摘しました。

一方で齋藤氏は、ブームの縮小という可能性はあると冷静な見解を示しました。アニメに限らずどの産業も同様であるとした上で「やはり新しいコンテンツを生み出すことであったり、マーケットを開拓するっていうことを続けていかないといけない」と強調しました。同氏は、この業界には10年に一度ほど海外ブームの機運が訪れるとし、現在はハリウッドも含めて日本のコンテンツが強く求められている状況にあると分析しています。そして今の状況を、「日本は今頂点でなく、まだまだ段階を踏んでいる」と捉え、クリエイティビティへの投資や教育を継続することが「次の跳躍につながるタイミング」であるとの認識を示しました。

<後編を読む>

取材・文 河西隆之

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