世界のファイナンスから学ぶコンテンツファンド再挑戦の成功要件:ANIAFFセミナー「コンテンツファンドは日本のアニメーションに多様性をもたらすか?」(前編)
公開日: 2026/01/15
あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)にて12月16日、セミナー「コンテンツファンドは日本のアニメーションに多様性をもたらすか?」が開催されました。モデレーターはプロデューサーの大西美枝氏。日本のアニメーション業界における資金調達の多様化と持続可能性を主要テーマに掲げ、金融とエンタメの最先端を走る3人のパネリスト——みずほ証券の富張周一郎氏、株式会社クエストリー代表取締役CEOの伊部智信氏、そしてコマ撮りアニメ『リラックマと遊園地』などを手掛けるdwarf studio共同創設者の松本紀子氏が、それぞれの立場から議論を深めていきました。前編では、過去のコンテンツファンドを振り返りつつ、現在、および海外のファンド状況について共有された内容をレポートします。
※本記事で触れられている内容は2025年12月時点の情報です。
左から
大西美枝氏、松本紀子氏、伊部智信氏、富張周一郎氏
なぜ過去のコンテンツファンドは失敗したのか
日本において、アニメや映画を対象としたファンドは決して新しい試みではありません。約20年前にも一度ブームが訪れましたが、その多くは定着することなく姿を消しました。
かつてアメリカの金融機関に身を置いていた伊部氏は、過去の失敗の根本的な原因を「最終的に投資家にリターンをちゃんと返せなかったから」と分析しました。当時の状況について、「エンタメと金融の距離が遠かった」と振り返り、20年前に失敗したという印象が業界に根強く残っていることを認めつつも、現在は「なぜリターンが返せなかったのか」を海外の事例などを参照しつつ、冷静に検証すべき時期に来ていると述べました。
また、金融制度の専門家である富張氏は、リーマンショック前後から金融商品の在り方が変化した点を指摘しました。過去のファンドは投資家に対する説明責任や適合性の判断が不十分な面もありましたが、現在は「投資家が金融商品を理解しているのか、リスクの大きさに対して投資家が適切な資産を持っているか」などを調査・確認するルールが整備されており、「こうしたものをやるには非常にいい時期」であると、市場環境の成熟を強調しました。
近年の映画ファンドの動向
こうした背景の中、近年では再びメガバンクや有力企業がエンタメ領域に大規模な資金を投じ始めています。伊部氏は最近の象徴的な事例として、三菱 UFJ 銀行・三菱 UFJ 信託銀行が講談社および実写映画『キングダム』シリーズの制作会社クレデウスと組んで立ち上げた60億円規模のファンドを紹介しました。これは、出版社や制作会社の高い信用力を背景に、海外市場を見据えた実写映画シリーズなどに巨額の制作費を提供する動きです。
さらに、元・東映のプロデューサーらが設立したK2ピクチャーズによる100億円規模のファンド構想も紹介し、従来の製作委員会の手数料構造などを根本から変えることを掲げてることを説明しました。これについて松本氏は、同社のラインナップに是枝裕和監督による『ルックバック』の実写化が含まれていることに触れ、「海外でも通用する巨匠をきちっと口説いて当てにきた“硬さ”がある。非常に面白い」と、投資家に対する説得力の高さを評価しました。
世界のファイナンススキームに学ぶ:米国・欧州・韓国の戦略
日本のアニメが世界で戦うためには、諸外国がどのような仕組みで製作費を調達しているかを知る必要があります。伊部氏と松本氏は、主要な三つのモデルを挙げました。
米国:銀行主導のプロジェクトファイナンス
ハリウッドでは100億〜200億円規模の予算が動きますが、これは事業会社が出資するだけでなく、銀行からの「融資」が大きな役割を果たしています。伊部氏は映画『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』を例に挙げ、「配給契約書を担保にした融資(プリセールス)」や「完成保証(コンプリーション・ボンド)」という銀行家・金融家が生み出した仕組みが、現在のハリウッドの基礎になっていると解説しました。また大西氏は、メジャースタジオが活用する「複数作品を束ねた資金調達(スレートファイナンス)」の存在についても触れました。
欧州:助成金と共同制作のハイブリッド
松本氏は自らの経験から、欧州ではインディーズ系の作品であれば予算の半分から6割を公的な助成金で賄える仕組みがあることを紹介しました。しかし、その多くは「現地の産業を守るための助成金」であり、欧州で一定の仕事を発注しなければならない等の制約があります。また、共同製作で助成金を活用する場合、欧州側との契約は基本的に日本側の1社が行うため、任意組合である製作委員会では欧州側にとって契約先が分かりづらいという内情を明かしました。
韓国:政府主導の徹底したグローバル化
1990年代のアジア通貨危機を機に、韓国は政府主導でエンタメを輸出産業として育成してきました。伊部氏は「基本的に国内ではなく、アメリカに売ることを考えていた」という韓国の切迫感に触れ、ベンチャーキャピタルが株投資だけでなく映画製作にも直接関与する仕組みもあり、今の韓国エンタメの隆盛を支えたと分析しました。一方で、現在は製作費の高騰によりファンドのリターンが悪化しているという新たな課題も抱えていることが共有されました。
前編では、過去の失敗から得た教訓と、現在進行形で動き出している新たな潮流について議論をレポートしました。アメリカの高度な金融システム、欧州の文化保護的な助成金、韓国の国策的なグローバル戦略。これら世界の多様なファイナンススキームと比較したとき、改めて浮き彫りになるのが日本の「製作委員会方式」の特異性と、それをアップデートする必要性です。アニメという無形資産を、いかにして「投資対象」として成立させるのか。後編で詳しく掘り下げていきます。
取材・文 河西隆之
- 第1回:「アニメ」はなぜ世界で愛されるのか~「日本アニメとは何か? いま世界で何が起きているのか」(前編)
- 第2回:「アニメ」の発展が続く未来のために~「日本アニメとは何か? いま世界で何が起きているのか」(後編)
- 第3回:世界のファイナンスから学ぶコンテンツファンド再挑戦の成功要件:「コンテンツファンドは日本のアニメーションに多様性をもたらすか?」(前編)
- 第4回:製作委員会の限界を突破するキーワード「直接海外」「データによる客観性」:「コンテンツファンドは日本のアニメーションに多様性をもたらすか?」(後編)
- 第5回:日米のアニメーション製作が抱える課題とデジタル・ファーストの可能性:「WIA代表マーガレット・M・ディーン×東映アニメーションプロデューサー関弘美対談」
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