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世界で突出する日本映画・興行成功への注目~シネアジア2025レポート
公開日: 2026/01/30

特集:世界映画興行における日本のプレゼンスの高まり/シネアジア2025レポート_第1回

アジアの映画興行・配給事業者向けコンベンション「シネアジア2025(CineAsia 2025)」が、2025年12月8日~11日にかけてタイ・バンコクで開催されました。本稿では、同イベントの基調講演やラウンドテーブルで語られた内容をもとに、世界興行の現状と、日本の立ち位置の変化についてレポートします。
※本記事で触れられている内容は2025年12月時点の情報です。

《目次》
 

世界興行収入の状況:グローバル全体は道半ばだが、日本は突出した成長を見せる

シネアジア初日に行われたオープニング・セレモニーでは、米国の消費者情報分析会社コムスコア(Comscore)社で映画部門を担当するフランク・ペリクレウス氏(Vice President, Movies)が登壇し、2025年の世界映画市場を総括しました。同社の推計に基づく国・地域別の興行収入推移を提示した上で、「2025年の世界興行収入は前年比約14%増(米ドルベース)となり、過去5年間で最高額に達すると予測されます。映画興行は『苦悩から復活へ』の段階にあります」と分析。

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なかでも、国別の前年伸長率では、中国が24%増で最も伸長し、日本が同16%増で続いている点に触れ、日中の2カ国が世界興行“復活”をリードしていると強調しました(国別興行収入1位の北米は6%増)。

    【興行収入伸長率ランキング(2024年-2025年)】出典:Comscore、Gower Street
  • 1位:中国(+24%)
  • 2位:日本(+16%)
  • 3位:ドイツ(+9%)
  • 4位:オーストラリア(+8%)
  • 5位:イギリス・アイルランド(+8%)
  • 6位:北米(+6%)
  • 7位:イタリア(+5%)
  • 8位:スペイン(+3%)
  • 9位:メキシコ(+2%)
  • 10位:フランス(-6%)
  • 11位:韓国(-12%)

また、地域別市場シェアにおいては、中国のシェア拡大(前年19.3%→21.1%)に伴い、アジア太平洋地域全体でも前年の35%から36.6%へと存在感を高めていると報告されました。

2026年1月28日の日本映画製作者連盟(映連)の発表によると、2025年の総興行収入は2744億円を記録。2019年の2611億円を上回り歴代最高記録を更新しました。シネアジアで発表された米ドルベースの推計では前年比16%ですが、円ベースでは前年比30%を超える伸びであり、他の主要国と比較しても日本は“復興”を超えて大きな成長を成し遂げていると言えます。

このプレゼンテーションでは言及されませんでしたが、インドの興行収入が 1,339億5,000万ルピー(約2,240億円)となり、過去最高記録を更新したと報じられています。(出典:The Hollywood Reporter India

 

アジア各国別ランキングの特色:ローカル作品の伸びと『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の存在感

アジア各国・地域別の興行収入TOP5の顔ぶれを見ると、ハリウッド大作のみならず、多くのローカルコンテンツが記録的な成功を収めています。

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上記に当てはまらないリージョナル映画(アジア地域の他国の映画)として『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が多くの国でランクインしており、アジア各国の興行における貢献がうかがえます。同作は “Comscore’s 2025 APAC Box Office Achievement Award”に選出され、クランチロールのネイサン・カーショウ氏(Director, Theatrical Distribution APAC)へ賞が授与されました。

 

ハリウッド、ローカル、そしてリージョナル映画とアニメの可能性

シネアジアでは産業統計数値以外にも、映画興行界の状況について語るセミナーやラウンドテーブルが開催されました。

12月9日に開催されたラウンドテーブル“Positioning For Success”では、「ハリウッド映画、ローカル映画、そしてリージョナル映画」の現状と未来をテーマに、興行会社・配給会社の幹部による議論が展開されました。背景として、各国の映画市場は、ハリウッド映画とローカル映画、そしてそれ以外の作品で構成されており、コロナ禍以降は特にローカル映画が映画興行の復興を支えてきたということがあります。近年では、そこに「リージョナル映画」という新たな可能性も加わっています。

ローカル映画の躍進と課題

ローカル映画の躍進の事例として、インドネシアの興行チェーンCinema XXIのスリョ・スヘルマン氏(President Director)が自国の現状を共有。「観客の嗜好を汲み取ったローカル映画が大成功し、シェアが65〜66%に達しました。市場の主役がハリウッド映画から自国作品へと劇的にシフトしています」と語りました。一方、同氏は興行収入の総額がコロナ前の水準に完全に戻ったわけではない点も指摘。ハリウッド映画も復興し、消費者の選択肢が「50:50」のバランスになるのが理想であると念を押しました。

ベトナムの映画興行会社Galaxy Studioのゴック・ブイ氏(Sr. Distribution Manager & Production Strategy)も、同国のローカル映画シェアが66%に達していると共有しました。「制作者が市場と観客を深く理解し、SNSや口コミを使ったマーケティングを熟知していること、また歴史や社会的なトピックを巧みに取り入れ、観客のエンゲージメントを高めていること」を成功要因として挙げました。

その一方、ローカル映画依存の不安定さについて言及する声も上がりました。タイの映画館チェーンSF Cinemaのスワニー・チンチウチャン氏(Chief Operating Officer)は、「一時期はハリウッド作品の供給不足により、ローカル映画のシェアが伸びましたが、現在はハリウッド映画のシェアが約80%に戻っています。タイ発のコンテンツ自体をもっと増やす必要があります」と明かし、国によって状況が異なる実態が浮き彫りになりました。

リージョナル映画(アジア域内作品)とアニメの可能性

スヘルマン氏(Cinema XXI、インドネシア)は、ハリウッド映画、ローカル映画に続く、第三の軸として注目を浴びる「リージョナル映画」について、「興行の当たり外れが大きく、計算に入れるのはリスクとなるので、ヒットすればボーナスと捉えています」と慎重な姿勢を見せつつも、「アニメに関しては比較的安定感があります。 『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』のようなアニメ作品が予想外のヒットを記録し、足を運ばなかった層を動員しています」と、そのポテンシャルを評価しました。

またチンチウチャン氏(SF Cinema、タイ)は、「ファンベースマーケティングに成功していれば、アニメに限らず、ディズニー作品であっても興行は上手くいきます」とし、ファンベースマーケティングの重要性を強調。すべてのアニメがヒットするわけではないとした上で、「『鬼滅の刃』には確固たるファンベースが存在し、適切なプロモーションを行ったからこそ成功しました。重要なのはファンを捉え、観客とのつながりを築くことです」との見解を示しました。

全米劇場主協会(National Association of Theatre Owners:NATO)元会長 /マーカス・シアターズ(Marcus Theatres)元会長のロランド・ロドリゲス氏も、世界市場で非ハリウッド映画を成功させる鍵として、米国の「A24」や「Angel Studios」のように、特定のニッチな観客層を深く耕す戦略の有効性を説いています。また、同氏は「かつて東宝の松岡宏泰氏に『アニメは北米で成功するだろう』と話したことがあります」というエピソードを披露し、「彼らはグローバルでの展開手法を確立し、実際に興行を成功させており素晴らしい」と称賛しました。

どのジャンルでもファンベースマーケティングが重要とされるなか、成功事例としてアニメが多く取り挙げられました。アジア各国の興行収入ランキングが示す通り、『鬼滅の刃』は日本のみならず、韓国やタイでも年間1位を獲得するなど、アジア全域で圧倒的な強さを見せました。ソニー・ピクチャーズもラインナッププレゼンテーションで、アニメ市場が350億ドル規模に成長していることに言及し、Crunchyrollとの連携強化を明言しました。アジアの観客にとって、日本のアニメはもはや「ニッチ」な存在ではなく、ハリウッド大作と並ぶ、あるいはそれを凌駕する「プレミアムな劇場体験」の対象となっていることがうかがえます。

特集:世界映画興行における日本のプレゼンスの高まり/シネアジア2025レポート
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