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世界映画興行における日本モデル発信の重要性~シネアジア2025レポート
公開日: 2026/02/06

特集:世界映画興行における日本のプレゼンスの高まり/シネアジア2025レポート_第3回

タイのバンコクで開催された「シネアジア 2025」(開催期間:2025年 12月8日~11日)をレポートする本特集。第3回は、世界映画興行ビジネスにおける重要なキーワードである「プレミアム戦略」と、日本の取り組みがどのように紹介されたか、そしてシネアジアを通じて感じられた日本への期待についてまとめました。
※本記事で触れられている内容は2025年12月時点の情報です。

《目次》
 

プレミアム・ラージ・フォーマット(PLF)の重要性

ここ10年近く、世界の映画興行市場が様々な外部要因を乗り越えるうえで重要視しているのは「プレミアム体験」であり、特に高度な映像・音響設備に基づく「プレミアム・ラージ・フォーマット(PLF)」です。ICTA(International Cinema Technology Association)が主催するパネルディスカッション”The Premium Boost in Cinema—Trends, Growth Opportunities and Challenges”が12月10日に開催され、CJ 4DPLEX、RealD、IMAX corporationの幹部と並び、東宝の映画本部映画営業部長を務める吉田充孝執行役員が登壇しました。そこではPLF市場の課題と、それに対応する事例として日本での取り組みが紹介されました。

本パネルで紹介されたInforma TechTargetが提供する調査サービスOmdiaのデータによると、グローバルのPLFスクリーン数は右肩上がりで増加しています。特にIMAXは世界のスクリーン数のわずか0.7%に過ぎませんが、今や世界興行収入の約4.4%を稼ぎ出しています。IMAX、Dolby Cinema、ScreenX、4DXといったPLFは、映画ビジネスにとって最重要テーマの一つと言えるでしょう。

多くの場合、PLFでの鑑賞には追加料金が必要ですが、米国のデジタル3Dシステムの開発・販売企業RealDのエリザベス・フランクCEOは、PLFの経済的価値の核心は「消費者にとっての価値」にあると指摘しました。「観客は『このフォーマットで観られるのは今だけ』という限定感や緊急性に価値を感じ、追加料金を支払う意思を持っています」と語りました。

第2回で触れたとおり、この「観客にとっての価値」をAllied Global Marketingのアダム・カニンガム氏は、「儀式(Ritual)」と表現しました。『鬼滅の刃』のように、ファンにとってその作品を観ることは単なる消費ではなく、特別なイベントとなります。だからこそ、最高の環境、すなわちPLFで行われるその「儀式」に参加しようとし、結果として高単価な座席が完売する現象につながるのです。

 

日本が示す「アニメ×体験」の勝機と親和性

東宝執行役員が語る日本でのPLFの状況

世界中でPLFは「ハリウッドのアクション大作」のためにあると考えられがちです。しかし、東宝の吉田氏が明かした日本のPLFの現状は、「実写よりもアニメが稼いでいる」という世界の常識を覆すものでした。

同氏によると、日本の映画館では「実写映画よりもアニメ映画の方がPLFで良いパフォーマンスを示す」という明確な傾向があります。特に、ufotable(『鬼滅の刃』制作)やMAPPAといった卓越した作画力を持つスタジオの作品は、IMAXなどの大画面・高音質との相性が抜群です。「もしPLFで好成績を収めた作品ランキングを作れば、上位はほぼアニメで埋め尽くされるでしょう」と述べました。

東宝の積極的な投資

東宝はこの勝機を逃さず、日本市場で最も積極的にPLFへ投資しています。吉田氏は、2014年の『GODZILLA ゴジラ』での参入以来、パンデミック下でも「映画館で観る価値」を追求し、IMAXと多作品契約を締結したことを共有。これまでに50本以上のIMAXタイトルを送り出してきたことを披露しました。

一方、成長期ゆえの課題として、グローバル市場同様、期待作の公開が重なる時期におけるスクリーンの奪い合いや、IMAX、ScreenX、4DXなどフォーマットが乱立し、観客の動員が分散していることへの懸念も示されました。しかし、同氏は今後もPLFがもたらす価値に期待するとし、2026年以降に向けて、『名探偵コナン』『薬屋のひとりごと』『ちいかわ』『ゴジラ-0.0』『ハイキュー!!』といった強力なラインナップを発表。PLFへの積極的な投資を続け、世界市場を視野に入れていると語りました。

同氏によると、日本はアニメを中心とした強力なローカル映画が市場の70%以上を占めています。それが上質な劇場体験(PLF)に結びつくことで高い収益性を生み出すという、世界が羨むエコシステムを構築していると言えるのではないでしょうか。

 

グローバル化した日本映画ビジネスからの発信がもたらす新たな可能性

シネアジアのような国際会議において日本からの発信は限定的であり、市場の実態が見えにくいという指摘もありました。しかし近年の国内興行の躍進や、アニメを含む日本映画の世界的なヒットを受けて、国際興行界からの視線はさらに熱を帯びています。今回のシネアジアでは、記録的な日本興収や日本映画の海外展開に触れられる場面も多く、さらには東宝によるIMAX/PLF戦略や今後の作品の共有への反響や、「日本映画の新しい生態系をつくる」ことを掲げるK2 Picturesによるラインナップ発表の場が設けられるなど、日本映画ビジネスへの期待値の高さが改めて浮き彫りとなりました。

こうした場では依然としてハリウッドメジャーや大手興行チェーンが主役ではあるものの、グローバルフェーズに入った日本映画とその興行ビジネスは、「もう一つの軸」となる可能性を秘めています。日本の成功要因や独自戦略への注目や、今後のラインナップに対する関心は、かつてないほど高まっています。日本は世界に向けて戦略的な発信を継続・加速することで、日本映画・興行ビジネスの次なる可能性を広げていけるでしょう。

特集:世界映画興行における日本のプレゼンスの高まり/シネアジア2025レポート