激変するメディア環境におけるヒットの要件とアニメの成功~シネアジア2025レポート
公開日: 2026/02/06
タイのバンコクで開催された「シネアジア 2025」(開催期間:2025年12月8日~11日)をレポートする本特集。第1回は、世界興行収入やアジア映画市場の現状が共有されるなか、日本の興行がどのように語られたかをお伝えしました。続く第2回は、アニメに焦点を絞り、急速に変化するメディア環境において、消費者の心を打ち続ける「成功モデル」を紐解きます。
※本記事で触れられている内容は2025年12月時点の情報です。
映画興行を成功に導くモデルとアニメ
前回取り上げたラウンドテーブル“Positioning For Success”では、日本映画市場の成長や、ファンベースマーケティングに成功した日本のアニメ映画への言及がありました。12月10日に開催されたマーケティングの専門家アダム・カニンガム氏(Chief Strategy Officer, Allied Global Marketing)による特別プレゼンテーションでも、現在の映画マーケティングの成功要因を解説するなかで、日本アニメがその好例として挙げられました。
同氏は、無限に流れるSNSの「フィード」によって、あらゆるコンテンツがフラット化し、すぐに忘れ去られていく過酷な「アテンション・エコノミー(関心経済)」について言及。この環境を勝ち抜くために必要なアプローチは、「広告量(Reach)」ではなく、ファンが熱狂し文化の一部となる「着火(Ignition)」であると語りました。「従来のように広告費を投じて『文化に割り込む(Interrupt)』手法はもはや通用しません。これからは、作品自体が文化の一部となり、自律的な勢い(momentum)を生み出す『着火』の戦略が必要です」。そして、公式素材をファンが自由にリミックスして遊ぶことを許容し、ファンに「所有権」を委ねる重要性を指摘。ファンによる拡散で、爆発的な熱量が生まれると分析しました。
『鬼滅の刃』に見る理想的なファンベースマーケティング
ファンが主導する「着火」のメカニズムを示す事例として、カニンガム氏は『鬼滅の刃』の世界的な成功に触れました。「この成功は、スタジオによるトップダウン型の宣伝によって作られたものではありません。公式のマーケティングが始まるずっと前から、『ファンによって編集された動画(Fan edits)』『コスプレ』『マンガの読み返し』といった活動が熱気を作り出していました。これこそが、ファンベースマーケティングであり、理想的な『着火』の事例です」と高く評価しました。
さらには、映画を劇場で鑑賞する特別な体験、すなわち「金曜日の夜」を勝ち取るための「イベント」や、記憶に残る「儀式(Ritual)」にする必要があると説きました。映画館の競合はNetflixではなく、「自宅のソファ」や「友人からの誘い」だと語る同氏は、「わざわざ外出する労力に見合うだけの『確信度の高い報酬(Higher Conviction Rewards)』を提供しなければなりません。そのためにIMAXや4DXといったプレミアム・ラージ・フォーマット(PLF)への投資が不可欠なのです」と強調しました。
この文脈においても、ファンが作品を観ることを特別な「儀式」と捉え、高単価なPLFの座席が完売する現象を生んでいるアニメの事例が紹介されました。「日本市場ではアニメが興行のけん引役となっており、ファンは『大好きな作品を最高の環境で体験したい』という強い動機を持っています。これは、価格に敏感な市場であっても、価値がある体験にはお金を払うという現代の消費者の傾向とも合致するものです」。
現代社会において消費者の心を打つためには、ファンの熱量に「着火」し、劇場でしか味わえない「儀式」を提供すること。カニンガム氏のプレゼンテーションは、その成功モデルを体現している存在として、日本のアニメを印象付けるものとなりました。
- 第1回:世界で突出する日本映画・興行の成功への注目
- 第2回:激変するメディア環境におけるヒットの要件とアニメの成功
- 第3回:世界映画興行における日本モデル発信の重要性
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