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なぜ今、動画配信は「ライブ」へ向かうのか~ワーナーミュージック×U-NEXTが予測するOTTの未来
公開日: 2026/03/03

特集:ライブ・エンターテイメントEXPO2026_第1回

「第13回ライブ・エンターテイメントEXPO」にてセッション「OTTビジネスで変わるライブ・エンタメ業界の未来」が開催されました。ワーナーミュージック・グループのエグゼクティブ・ストラテジスト北谷賢司氏と、株式会社U-NEXT取締役COOの本多利彦氏が登壇し、主要OTT事業者の戦略と今後の展望について語りました。
※本記事で触れられている内容は2026年1月時点の情報です。

《目次》
 

急拡大するライブ・ストリーミング市場、熱量の醸成と契約維持に貢献

ワーナーミュージック・グループのエグゼクティブ・ストラテジスト北谷賢司氏

冒頭、ワーナーミュージック・グループ 米国本社役員室兼エグゼクティブ・ストラテジスト/金沢工業大学虎ノ門大学院 教授Ph.D.の北谷賢司氏は、グローバルにおけるライブ・ストリーミング市場の成長性についてデータを提示しました。定額制、PPV(ペイ・パー・ビュー)、広告付きフリーミアムを合計したライブ・ストリーミングの市場規模は、2030年までに3,450億ドルになると予測され、ライブコンサートのストリーミング市場に限定すると、30年には約418億ドルの規模に達する見込みであると述べました。

そして、OTT事業者がライブコンテンツに注力する理由について、「視聴者の熱量を高く没入させられる(Viewer Engagement)」と「契約維持(Subscriber Retention)」の2点を挙げ、「ファンがのめり込めるライブ配信を継続的に編成することで、プラットフォームに留めることができます」との考えを示しました。

 

U-NEXT、YouTube、Netflixなど主要OTT事業者の最新戦略

続いて議論は、YouTube、Netflix、Prime Video、Apple TVといった主要OTT事業者の動向と、それに対するU-NEXTの差別化戦略へと移りました。

北谷氏の解説によれば、YouTubeはすでに視聴者の平均30%がライブ番組を視聴しており、Netflixは「Netflix 3.0」と銘打ってライブ配信によるバズの創出やMLB(メジャーリーグベースボール)の中継、ビデオポッドキャスト市場の開拓を進めています。また、Apple TVは「MLS(メジャーリーグサッカー)」と「MLB」、Prime Videoは「NFL(ナショナルフットボールリーグ)」などの大型スポーツ放映権を獲得し、特定層の囲い込みや総合メディア化を推し進めています。

株式会社U-NEXT本多利彦取締役COO

こうした競合の攻勢に対し、株式会社U-NEXTの本多利彦氏は「有料サービスならではの体験価値」と「コアファン視点」で対抗する姿勢を明らかにしました。無料で観られるYouTubeや、マス向けの地上波放送とは異なり、U-NEXTでは「マルチチャンネル」技術を駆使し、ゴルフのホール別カメラやテニスのコート別配信など、視聴者が観たいアングルを自由に選べる機能を提供し、視聴体験の拡張を図っているとしました。

またサッカーにおいては、初心者向けの一般的な実況・解説は地上波に任せ、同サービスではデータ分析に基づいた専門的な実況や、コアなファンに支持される解説者を起用するなど、徹底して「ファンの目線」に立った配信を行っていると述べました。

さらに、本多氏は「配信プラットフォーム」から、イベントを「創る側」へと進化を遂げていることをアピール。2025年の大阪・関西万博で開催された「U-NEXT MUSIC FES in EXPO 2025 大阪・関西万博」では、6日間で約5.4万人を動員した上、ライブ配信によるアーティストやレコード会社への収益還元モデルを構築したことを強調しました。

 

ワーナー・ブラザースの買収は、OTTビジネスにどんな影響を及ぼすのか

セッション中盤には、業界内で囁かれる「Netflix等によるワーナー・ブラザース・ディスカバリーの買収・統合の可能性」の話題に触れました。

北谷氏は、もしU-NEXT内で人気のHBO作品の権利が、ワーナーから他社に移った場合、ラインナップに影響が出るのではないかと懸念を示しました。

この指摘に対し、本多氏はハリウッドにおける買収や統合は常にあることだと前置きした上で、プラットフォーム事業者としてのリスク管理について語りました。「U-NEXTでは、特定のスタジオや作品だけに依存しないよう、NBCユニバーサルやパラマウントなど、全方位的なパートナーシップを築いています。さらに、映画・ドラマだけでなく、ライブ、出版、音楽など多角的に事業を展開することで、一社の戦略変更が全体に致命的な影響を与えないよう、目玉となる作品を分散させています」と説明しました。

 

「コードカッティング」現象と世代別アプローチ

最後に議論されたのは、ケーブルテレビ等の契約を解除しネット配信へ移行する「コードカッティング」です。北谷氏は、米国で起こっているこの現象について、ケーブルテレビの契約者が比較的年齢層が高いのに対し、OTTは50代以下が中心であるという「デモグラフィーの棲み分け」が日本でも起きていると指摘しました。

これに対し本多氏は、日本で世代による視聴環境が偏っていることを認めつつ、既存メディアを「カット(遮断)」するのではなく、「共存」する道を選んでいると述べました。「J SPORTS バレーボールパック」や「囲碁・将棋チャンネル」といった専門チャンネルのコンテンツをプラットフォーム内に取り込みつつ、テレビを観ない若い世代に接点を提供することで、新しいファンダムを育成していく役割を担いたいとしています。「無限に番組を編成できるというプラットフォームの利点を活かし、国内外のエンタメを様々な世代に向けて提供していきたいです」と展望を語りました。

本セッションでは、「ライブ」に焦点を当てた主要OTT各社の戦略と、業界の動向について議論されました。今後の市場で勝ち残るためには、一つのメガヒット作品のみに依存するのではなく、スポーツ、音楽、舞台など多様なジャンルを「面」で取り込み、リスクを分散しながらあらゆる視聴者層をカバーするアプローチが求められます。そして何より、既存のコンテンツをただ配信するだけのプラットフォームではなく、自らがイベントや流行を創出できるかが、これからのOTTビジネスにおける重要な生存戦略と言えるでしょう。

※本展は業界関係者のための商談展です。一般の方はご入場できません。

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