海外で求められる「物語」とは~世界14カ国17,000サンプルのファンダム調査から
公開日: 2025/12/05
2025年は日本のエンタテイメント産業が、その成長力と輸出産業としての可能性から、多くの期待が寄せられた年になりました。では、具体的にはどんなコンテンツが海外市場で躍進する可能性があるのでしょうか。
「日本国内で成功」すれば「海外で成功」するとは限らない
世界中がインターネットにより強く結びついている現在、日本と海外で人気を博すアニメが共通しているケースは多くあります。しかし、果たして日本での人気は、どの程度海外市場と相関するのでしょうか。下記は、日本アニメIPの国内と米国における助成想起率をマッピングした図です。
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米国を拠点に活躍し日本ポップカルチャーを強みとするマーケティングリサーチャー集団「FanserveUs」のジョン・マッカラムCEOは、GEM Partnersが世界14カ国17,000サンプルを対象に実施した「グローバルエンタメファンダム調査」の結果を分析し、「日本国内で成功」すれば「海外で成功」するとは限らないと説きます。「(上の図のように)日本国内で成功を収めたアニメでも、それだけで海外市場における人気を完全に説明・予測することはできません。日本と海外市場における嗜好には、定量的に把握可能な差異が存在します」。
同氏は、コンテンツ海外進出の事前調査や分析の重要性を強調し、それを踏まえないことで起こる機会損失を、彼の出身地であるルイジアナ州のビジネス格言になぞらえ、「鶏肉を骨に残したままにする(Chicken on the bone)※」ようなものだと例えました。
※「稼げる余地がある」という意味の比喩
若い世代の存在がアニメの未来
マッカラム氏は、「日本アニメのファンダムが、米国のアニメーションファンダムを追い抜く勢い」とし、その根拠として、各国におけるファンベース規模ランキングで、日本のアニメが米国のアニメーションより大きくなってきていることを挙げます。
対象国14カ国中、11カ国で「米国のアニメーション」よりも「日本アニメ」のファンベース規模が上位にランクインした。
日本アニメの未来を占う上では世代間の比較も有効です。同氏は、「米国において日本アニメは成長軌道にあり、米国アニメーションのファンダムと互角な戦いを挑むレベルに到達しつつあります」としました。そして、その根拠が米国における、年代別の日本アニメファンダムと米国アニメーションファンダムの比較から見えてくると言います。
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上記から分かるように、13~19歳と20代においては、日本アニメと米国アニメーションファンの割合はほぼ互角です。 グラフの色が最も濃い部分は“Rank1”すなわち「日本アニメ、もしくは米国アニメーションが一番好き」と回答した人の割合を指しており、13~19歳では日本アニメが6%と、米国アニメーションの1%を大きく上回っています。この意味合いとして、マッカラム氏は「若年層ファンは、米国アニメーションよりも日本アニメを支持する傾向を成人後もそのまま維持する可能性があり、特にファミリー視聴に適した作品であれば、自らの子世代に共有することも考えられます。ファンダムが個々人のライフサイクルにおいて持続するか、もしくはノスタルジーとして再び評価される場合、家庭内で視聴される可能性は一層高まります」と分析しています。
地域ごとに物語のファンを形成するために
未来の成功を確実にするためには、各国での浸透・人気につながる、そもそもの市場の違いに着目する必要があります。例えば、「好きなアニメジャンル」を各国で比較すると、ファンダムが少しずつ異なることが分かります。世界各国の特色を分析することが、どんな作品がどこで人気を得やすいのか、理解する一助となるでしょう。
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国別に見るとTOP2以内に「冒険」あるいは「アクション/対戦」が入る国ほとんどです。一方で、日本は1位が「ファンタジー」、2位が「コメディ」で、「冒険」「アクション/対戦」は4位以下と、他の国とは異なる傾向になっています。
また、欧米の1位も「ファンタジー」ですが、比較的上位に「アクション/対戦」や「冒険」が入っており、動的でアドベンチャー要素が濃い物語が好まれています。また、日本以外のアジアには多様性が見て取れます。中国は「ミステリー」「SF」が上位で、インドやベトナムは「コメディ」が1位です。ブラジルやサウジアラビアでは「冒険」「アクション/対戦」が強く支持されています。
総じて、グローバルは「冒険」「アクション/対戦」を求め、日本と欧州の一部は「ファンタジー」を、中国が「ミステリー」を好むという住み分けが見られます。
グローバルで日本アニメがさらに成長していくためには、一つのメディア、ジャンルを超えて、マスに訴求できるものになる必要があります。そのためには、各国で好まれている物語の形、ジャンルについて理解することが助けになるでしょう。
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各国の「好きなエンタメジャンル」のランキングを見ると、米国、ヨーロッパ、そしてブラジル、サウジアラビア、ナイジェリアで、「実話」が1位を獲得おり、リアルな物語への関心が高い国が多いことが分かります。
欧米の2位を見ると、米国では「フード/料理」、ヨーロッパでは「SF」が入っており、ライフスタイルに関するジャンル、知的好奇心を刺激されるジャンルで好みが別れています。アジアでは国によってトップが異なり、多様性があります。中国は「SF」、韓国は「ラブコメ」、タイは「スーパーヒーロー」、ベトナムは「フード/料理」が1位となりました。 このように、アジアでは「実話」一辺倒ではなく、多様なジャンルがそれぞれの国で支持されているのが特徴です。
各国でのエンタテイメントを取り巻く現状を知り、ヒットを狙う上では、きめ細かく深い分析、文化的なコンテキストの理解、そして各国の人々との対話など幅広い取り組みが必要になります。このように、世界各国の嗜好が異なることを把握し、個別IPや作品の浸透度をおさえ、各国での好みの「なぜ」を掘り下げていくことが有効と考えます。
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アメリカ、インド、フランス、韓国など世界14カ国を対象に、アニメ、マンガ、映画、ドラマ、J-POP、ゲーム、クリエイター、アーティストなどといった多様な日本のポップカルチャーの価値・ポジションを調査。
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