Anime Expoと比較したAnime NYCの個性とその未来に期待すること
公開日: 2025/10/23
北米東海岸最大級とうたうアニメコンベンション「Anime NYC 2025」(2025年8月21日~24日、於:米ニューヨーク市)を取り上げる本特集。第2回は、西海岸のロサンゼルス市で開催されるアニメの祭典「Anime Expo」との比較を通じて、米国におけるアニメイベントの在り方について考えます。
圧倒的な規模感を誇るAnime Expoと高い成長率を見せるAnime NYC

「Anime NYC」(以下、AX)と「Anime Expo」には、ともにアニメを中心とした日本カルチャーのイベントという共通のテーマがありますが、運営・参加者においてはそれぞれ異なる個性を持っています。
両イベントを比較すると、規模の大きさではAXが圧倒的に勝っています。ともに開催期間は4日間ですが、AXの来場者数が延べ41万人と発表があったのに対し、Anime NYCは第1回で述べたとおり、14.8万人にとどまっています。開催会場は、AXがロサンゼルス・コンベンションセンター、Anime NYCはジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンション・センターと、どちらも大きなコンベンション用のイベント会場を使用していますが、AXがコンベンションセンター一帯の周辺施設を動員して開催されるのと比べると、Anime NYCはコンパクトに感じます。プログラムも、AXは1300時間と打ち出しているのに対し、Anime NYCは150時間以上と桁違いであることが分かります。
ただし、両者の歴史の長さが異なるため、今後規模の差は埋まってくる可能性があります。AXは1992年にサンノゼ市で初めて開催されました。実に30年以上の歴史を誇り、その認知度とブランドが確立されていると言えるでしょう。一方、Anime NYCは2017年が初回で、まだ8年しか経っていません。とはいえ、その間に来場者が7倍になるという驚きの成長率を見せています。
営利団体が運営するAnime NYC
Anime NYCは、世界最大の民間イベント主催企業であるClarion Events傘下のLeftField Mediaによって運営されています。この“企業的アプローチ”は、洗練されたマーケティングチームと、Clarion Eventsの大規模イベントの運営ノウハウという大きな利点をもたらしています。また、「Anime NYC presented by Crunchyroll」という強力なパートナーシップを掲げており、業界の主要プレイヤーであるCrunchyrollのブランドとリソースを活用し、市場への迅速な浸透と信頼性の獲得を可能にしています。

この営利モデルは、イベントにおけるビジネス戦略にも深く反映されています。例えば、「図書館員・教育者向けプログラム」として、対象者に優先入場バッジを無料で配布。図書館・教育関係者を誘致し、出展している出版社と直接引き合わせるといったターゲットを絞ったB to B戦略を展開しています。教育機関や図書館へのマンガ導入を促進し、次世代のファンを育成することで、商業目標とコミュニティ貢献を両立させています。
一方、AXは、ファン主導のルーツを持つ非営利団体の「Society for the Promotion of Japanese Animation」(SPJA)が主催しています。その使命は「日本のアニメーションと文化を通じて世界にインスピレーションを与えること」であり、純粋な利益最大化よりも、文化の普及とコミュニティ構築を優先する構造となっています。SPJAは長い歴史のなかで、強固なボランティア基盤と日本のパートナー企業との深い信頼を築き、文化機関としての地位を確立しています。また、AXのプログラムや関連イベントにおいても直接的な収益は見込みにくいものの、教育的・文化的な目的での取り組みを進めており、イベントとしてのブランド力を強めています。AXは、非営利の構造によって「文化的資本」を蓄積する「文化機関型イベント」として、Anime NYCとは異なる価値を市場に提供しているのです。
このようにAnime NYCは商業戦略を駆使する「商業主導型イベント」として、AXは非営利の使命に基づく「文化機関型イベント」として、米国アニメ市場で独自の役割を担っていると言えます。
地域差を反映した来場者の顔ぶれ
両イベントの開催年数と開催地の特性を反映して、来場者の属性も異なります。AXには過去3年連続で訪問し、Anime NYCは今年が初参加でしたが、まず参加者の顔ぶれに違いを感じました。そこで、当社が実施した調査(※)から、それぞれのイベント参加者の年代や人種構成を見てみました。
※ 「US日本アニメ視聴者調査」
調査日:2024年10月。米国に住む15~69歳を対象に2000人以上にアンケート調査を実施し、米国の人口構成比で重みづけを行った。

30年以上の歴史を持つAXと、8年目のAnime NYCの違いを反映してか、まず参加者の年代層に違いがあることが分かります。AXと比較するとAnime NYCの参加者は15~19歳、20代と若い層が多くなっています。

さらに、両イベント参加者の人種構成を比べると、Anime NYCは黒人が多く、Anime Expoはヒスパニック系が多くなっています。ニューヨーク州、カリフォルニア州という開催地の特性を反映していると考えられます。
「もう一つの“極”になるか」

このように、両イベントに異なる個性がありますが、規模の観点では、Anime NYCは「東海岸最大」(Anime NYC is the largest anime convention on the East Coast)とうたいつつも、“Anime Expoと並ぶ”レベルにはまだ達していません。一方で、AXは現在の開催地では収容人数の限界を迎えているとも言われています。
米国アニメ市場のさらなる成長が期待されるなかで、AXだけが最大のアニメイベントであり続けるのではなく、アメリカのエンタメをけん引する両地域でのアニメイベントの規模が「両極」になるほうが自然でしょう。「西のAinime Expo」「東のAnime NYC」でのそれぞれの個性、地域性を反映させた盛り上がりが、アニメファン、アニメ産業のより明るい未来につながると考えます。
取材・文 梅津文
- 第1回:Anime NYC昨年比146%の14.8万人を動員~米国で確立した日本アニメのファンコミュニティ
- 第2回:Anime Expoと比較したAnime NYCの個性とその未来に期待すること
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