映画産業の発展を技術・AIが後押しする可能性~映画とAI活用の現在地
公開日: 2025/06/20
仏・カンヌにて「第78回カンヌ国際映画祭」が2025年5月13日から24日にかけて開催されました。本特集では、映画祭の全体の様子と併設マーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」(開催期間:5月13日~21日)で行われたセミナーをレポート。第3回では、マーケットのなかから、映画業界向けのイノベーションプログラム「Cannes Next」で行われたイベントの概要や、会場の雰囲気を俯瞰して紹介します。

「マルシェ・ドゥ・フィルム(以降、マルシェ)」では、世界中から集まる映画業界関係者に向けて、多数のセミナーやワークショップが開催されます。そのなかで技術イノベーションとエンタテイメントビジネスの未来をテーマとするプログラム「Cannes Next」では、先進技術がもたらすクリエイティブ活動での可能性について語ったセミナー、イベントが多く開催されました。テーマは、バーチャルプロダクションやVRなどに加えて、AIについて扱ったものも多く「AI for Talent Summit」など招待制のイベントも開催。カンヌの街で語られた映画とAI活用の現在地についてレポートします。
「カンヌ」とテクノロジーが寄り添い映画ビジネスの発展を後押し
今年のマルシェでは、映画創作活動におけるAIを含めた技術活用を後押しする動きが見られました。各国のパビリオン・ブースがあるエリアには、「Village Innovation」が設置され、スタートアップ企業のブース、セミナー会場、交流スペースは、テック系企業、技術者と、プロデューサー、映画製作者との交流のハブになっていました。
マルシェ二日目の5月14日には 、「CES(Consumer Electronics Show)」で毎年行われている優れたデザインとエンジニアリングを表彰する年次コンペ、「CES Innovation Awards® Program」に、“Filmmaking & Distribution”部門が新設されるという発表がありました。発表があった基調講演「The Tech That’s Changing the Film Industry, with a Special Announcement | Presented by CTA-CES」には、マルシェのエグゼクティブ・プロデューサーであるギヨーム・エスミオール氏(Guillaume Esmiol)と、CESのプロデューサーであり、主催団体である「CTA(Consumer Technology Association)」のCEO兼副会長を務めるゲイリー・シャピロ氏(Gary Shapiro)が登壇しました。
シャピロ氏は、CESについて「毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー・イベント」であり、「AI、モビリティ/移動技術、量子技術、エネルギー転換、デジタル医療、ロボット技術と並んで、コンテンツとエンタテイメントが注目領域として位置付けられています」と紹介。新設される賞はCESとCannes Nextが提携し「プロデューサー、販売代理店、配給会社から金融業者、コンテンツ製作者に至るまで、ストーリーテラーや業界関係者に力を与えるソリューションを称えるもの」であり、Cannes Nextの関係者が審査員を務めることとなっています。賞の目的は、映画製作、制作、配給の各分野において、クリエイティブな才能と業界の専門家をサポートする革新的なテクノロジーを開発する企業、スタートアップ、起業家、映画製作者を称えるもので、オーディオ・映像機器、プレ/ポスト・プロダクション・ソフトウェア、ストリーミング・サービス、クラウドベースの映像配信技術に加えて、脚本、映像、音声制作のための生成AI、バーチャル・プロダクション、ビジュアル・エフェクト(VFX)、次世代配信プラットフォームも対象になります。

賞の設立の背景として、エスミオール氏は「クリエイティビティにはテクノロジーが不可欠です」と語り、シャピロ氏は「テクノロジーにとってもコンテンツは重要で、さもなければ空の箱になってしまいます。ストーリーテリングは人、社会を良くするもので、テクノロジーはそのためのツールになるでしょう」と語りました。そして、クリエイティビティ、テクノロジーを代表するイベントの協働がもたらす価値を互いにアピールしました。カンヌ国際映画祭開催期間の序盤で、技術の進歩が映画産業に新たな可能性をもたらすことが強調され、またその流れを後押ししようとする姿勢が見られました。「CES Innovation Awards® Program」の候補者募集はすでに開始しています。
AI for Talent Summitはじめ多数のスタートアップ企業の代表、専門家が登壇
Cannes Nextの特別イベントとして、AIについての様々なセッションが終日行われる「AI for Talent Summit」が開催されました。本サミットでは、クラウドサービスを提供するAmazon Web Servicesや、ディズニーのスタートアップ投資事業である「Disney Accelerator」などがスポンサーに名を連ねました。また、会場は各種セッションが開催される場所とは別のエリアに設けられました。
本サミットでは、AIテック起業家、プロデューサー、投資家らが登壇し、映画業界におけるAI活用の現状とともに、テクノロジーの可能性、そして成功のための条件が語られました。テーマは多岐にわたりましたが、登壇者は共通して「AIはすでに業界にインパクトをもたらしている」とメッセージを発信するとともに、進化の速さ、映画産業におけるAIへの態度の変化についてもとりあげていました。本サミット内で、AIスタートアップ企業を紹介するセッションのモデレーターを務めた、Sprockitの ハリー・グレイザーCEO(Harry Glazer)は、「昨年登壇したセミナーでは“AI”は禁句でしたが、今年は“AI for Talent”と題されたイベントが開催されています」と、産業におけるAIの位置づけの変化に驚きを見せました。セッション内では、過去批判の声が上がったと報道されたAI活用事例も、サービスの適用例として紹介されており、本セッションが最前線で価値創造に取り組むプロフェッショナルたちのための情報交換の場であることが感じられました。
次回以降、Cannes Nextで紹介された具体的な技術・サービスについてまとめていきます。
- 第1回:クランチロール幹部が見据える10億人のアニメファンを「配信から劇場」へ導く戦略
- 第2回:『8番出口』『国宝』はじめ、カンヌ国際映画祭上映作品の話題度・浸透度
- 第3回:映画産業の発展を技術・AIが後押しする可能性~映画とAI活用の現在地
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