VODでコンテンツホルダーが成功するカギ
公開日: 2017/12/01
2017年11月初頭に米国カリフォルニア州サンタモニカで開催されたAFM(American Film Market)のカンファレンスから、世界中でいつでもどこでも映画が配信される中どのように鑑賞者に映画を届けて収益を上げるべきなのか。また、未来はどうなっていくのかについて、第一線で活躍するマーケッターたちが語ったセッション(AFM Distribution Conference Future of Video on Demand)をレポートします。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2017年11月)時点の情報です
スピーカーやパネリストの詳細は、連載第一回「「どのVODが儲かっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか(前編)」をご覧ください。
◆ ◆ ◆ ◆
VODビジネスの課題:「無限の棚」からのコンテンツ発掘(Contents discovery)促進
ブルース・エイセン(モデレーター)
DVDが絶好調だった時代を振り返ると、家で映画を観ようと思ったらブロックバスター(アメリカのビデオ・DVDのレンタルチェーン店)などの店頭に足を運ぶのが普通でした。新作コーナーは店の中にありました。特設コーナーは店の奥にあったかもしれません。観たい映画がなくなっていても、そのまま帰ることはなく、違う映画を借りたものです。いわゆる「ジャケ借り」です。それがコンテンツホルダーにとっての収益源でした。
今、映画を探すとしたら、SVOD(定額制動画配信)やTVOD(レンタル型動画配信)ということになります。「奥の棚」は存在しません。棚は無限にあり、足りなくなることはないのです。さて、ではどうやってマーケティングするのでしょうか? 訪問者はどうやって作品を見つけるのでしょう? 誰もが知っているような大作なら簡単です。でも、申し訳ないのですが、アンディの扱うような作品の場合には、どうやって存在に気づけばいいのでしょう?
アンディ・ボーン(The Film Arcade)
今おっしゃったことは非常に重要です。VODのある種皮肉なところは、この「無限の棚」という概念なのです。iTunesやNetflix、コムキャストのユーザーインターフェースを考えた場合、コンテンツを見つけやすいよう整理することも可能でしょう。しかし、かつてブロックバスターの店内を歩き回っていた時代よりも、実際には棚が少なくなっているということです。
15年前にブロックバスターの店舗に行って10分もうろうろしていれば、様々なジャケットが目に飛びこんできたものです。
しかし今では、VODサービス内でそういうふうに新しい映画が自然に目に入る機会は少なく、たとえばiTunesやNetflix内では観たい映画がはっきりとわかっていて、その映画名を入力しなければ観ないで終わってしまう。リアルの店舗を訪れていた昔と比べると、存在を認識する機会のあるコンテンツはずっと少ないのです。
あなたのご質問にお答えするならば、弊社の扱い作品は小品です。ですから、iTunesと組んで行っている「独占オファー」を活用しています。弊社の作品は「マーベル」シリーズの大ヒット作『マイティ・ソー』でもないのに、リリース時には、iTunesのホームや個別ジャンルのページで、興行収入2億ドルをあげた作品のような場所をもらえるのです。
このように、我々のような小さな会社はクリエイティブな方法でパートナーを探さなければならず、様々なサービス上で独占配信を頻繁に行っているのです。大手製作会社の映画と、おおむね同等のサポートを受けられますからね。我々は、こうやって小作であることの“デメリット”を解消しています。
ハニー・パテル(AT&T)
弊社のVODサービス内では、収益の大きい作品ばかりではなく、面白いインディーズ映画があれば、顧客がそれに触れる機会を提供するということも多くあります。マーチャンダイジング力によって大きく状況は変わると思います。もし、何ページにもわたるコンテンツをひたすらスクロールしなければならないとしたら、新しい作品との出会いは非常に難しくなるでしょう。
UI(ユーザー・インターフェース)と言う点でも我々は進歩していて、その観点からももっといろいろやりたいと思っています。顧客がどんなものに関心を持っているのかはデータからわかっていますから、それに沿ったものがお勧め作品としてあがってくるように図っています。これは極めて重要なことなのです。
我々のようなネット上の動画配信サービスの提供者には、これを非常に巧みに実施し、時間や手間を削減している会社もあります。弊社もその方面ではステップアップしていますが、まずはユーザーを知らなければならず、適切なコンテンツをお勧めできるのはその後なのです。顧客にとっては、使い勝手は非常によくなっていると思います。
コンテンツの発掘(Contents discovery)の促進によるマイナス効果?「どうしてお金を払わなくてはいけないの?」
トーマス・ヒューズ(Lionsgate)
業界をよく知らない方にこの業界の抱える課題は何かと聞かれた時には、“近年、最も素晴らしい発達を遂げたものと最大の課題が同じであること”だと答えています。それは、「コンテンツの発掘」(Contents discovery) です。
どういうことかと言うと、テレビに接続されたセットトップボックス上には、Netflixもあるし、様々なチャンネルがあります。そしてこういったサービスの中には無料(実際は厳密には無料じゃないのですが)視聴する方法を提供するものがたくさんあります。私はLionsgateにおいて、様々なウィンドウでのコンテンツ展開を統括していますが、「コンテンツの発掘」が促進されることによって、TVOD(レンタル型動画配信)などのウィンドウでのコンテンツは、マイナスの影響を受けていると考えます。
ブルース・エイセン(モデレーター)
ポイントは、観たいものを何でも観られるから無料。加入料はカード決済で支払済み、払ったことすら気づいていない。Amazonプライムと同じです。これでコンテンツの価値が下がるため、実際におサイフ機能を利用して4ドル5ドル10ドルを支払うことに抵抗がある人が増えるのではないかと考えています。
私事ですが、うちには7歳の息子がいて、自宅で月に二度ほど映画三昧の夜を開催しています。通常は、NetflixかAmazonで追加料金のかからないものから選びます。いいものがなければTVOD(レンタル型動画配信)を考えますが、そちらに行きついたことはありません。いつも何かしら見つかります。これがアンディの指摘したTVODビジネスの鈍化につながるのではないかと思っています。このために、「どうしてお金を払わなくてはいけないの?」と言う人が増えているのかもしれません。
ではどうしたらよいか:顧客の理解と差別化、マーケティングの基本に戻る
ブルース・エイセン(モデレーター)
ホワイトレーベルを提供する企業として多種多様な企業と仕事をした経験があると思いますが、形式は何であれVODを検討している企業、もしくは個人に対して何かアドバイスをいただけますか?
タニア・ジョーンズ(Shift72)
『オーディエンスを知り、理解すること』の重要性を再度強調したいと思います。
まずオーディエンスを知り、どのようにアプローチするべきかを知ることが、顧客が成功するための重要要素となります。投資額、そして計画の長期性から言っても、マーケティングは非常に大きな範囲をカバーします。オーディエンスを常に念頭におくことで、彼らに対する理解を深め、きちんとリーチできる宣伝広告計画を立案できるのです。
そして、もちろんオーディエンスにはサイトにアクセスしてもらい、彼ら自身でエンゲージメントを高めてもらうよう仕向けることも忘れてはなりません。ただし、これはサイトへのアクセス数を上げる手段のひとつに過ぎません。ここから、訪問者をロイヤルカスタマー化する方法も必要となります。
そして、映画をリリースするなら「誰がターゲット」で「彼らの好みは何」などの情報は必須です。ともすれば、我々は「SF映画がある。ポスターを製作しよう。それは何色だ?青バックにネオンカラーです。」などとやりがちなのです。私が消費者でSF映画のページを見ていたとしたら、同じようなポスターをいくつも目にすることでしょう。その中で特定の会社の作品を選べと言われてもね。
特定のコンテンツを見つけろと言われても困ります。この点で我々が努力しているのは、いかに差別化するかです。どうやって目に留めてもらい、関心を惹くかです。その時点で消費者との対話を開始したいのです。弊社ではこれを非常に重視し測定しています。それから、調査で効果的だとされたシノプシスを読んでもらおうとするのです。
まずは読んでさえもらえば、顧客はレンタルか購入をしてくれます。重要なのは、“映画の内容をどう見せて、どうやって関心を惹きつけるか”を、事前によく検討しておくことに尽きます。もし、大きな予算がなければ、バナーでも何でも構いません。
<(4)モバイル視聴の可能性 に続く >
VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~
- (1)「どのVODがもうかっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか?(前編)
- (2)「どのVODがもうかっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか?(後編)
- (3)VODでコンテンツホルダーが成功するカギ
- (4)モバイル視聴の可能性
- (5)「劇場公開・VOD同時展開」モデルの現在
- (6)VODの未来を考える~第一線のマーケッターが感じる脅威とチャンス
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