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「どのVODが儲かっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか(前編)
公開日: 2017/11/17

VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~(1)

 

インデペンデント映画製作者にとっては、VODウィンドウからの収入が最大となるケースも増えているそうです。世界中でいつでもどこでも映画が配信される中どのように鑑賞者に映画を届けて収益を上げるべきなのでしょうか。また、未来はどうなっていくのでしょうか。

2017年11月初頭に米国カリフォルニア州サンタモニカで開催されたAFM(American Film Market)のカンファレンスより、第一線で活躍するマーケッターたちが語ったセッション(AFM Distribution Conference Future of Video on Demand)をレポートします。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2017年11月)時点の情報です

 

モデレーター:
ブルース・エイセン(Bruce Eisen) Digital AdvisorsのVP(ヴァイスプレジデント)
エンターテイメントビジネス専門弁護士として多くの製作者・クリエーター・事業者をクライアントに抱え、
VODビジネス領域の大きなビジネスディールにおける交渉を担当した経験を持つ。

パネリスト:
アンディ・ボーン(Andy Bohn) The Film Arcadeの共同創業者
The Film Arcadeは、映画製作・配給会社であり、
ユニバーサルとホームエンターテイメント領域で提携。
ボーン氏は劇場公開・ホームエンターテイメントウィンドウでの公開を統轄している。

トーマス・ヒューズ(Thomas Hughes) Lionsgateグローバルデジタル配信統括本部長(EVP)
製作・配給会社のLionsgateにおいて各プラットフォームへのデジタル配信事業を中心に、劇場公開以外のすべてのコンテンツ提供を統括。

ハニー・パテル(Hanny Patel) AT&T エンターテイメントグループの動画マーケティング部門VP(ヴァイスプレジデント)
通信会社AT&Tグループ内でDirecTVほかコンテンツ収入をもたらす事業においてマーケティングを担当。

タニア・ジョーンズ(Tania Jones) Shift72のマーケティング&カスタマーサクセス部門VP(ヴァイスプレジデント)
VOD技術関連のプラットーフォームサービスを提供するShift72において、マーケティングや取引先サポートを担当。
Shift72は、AFMやカンヌ映画祭が主催する「オンデマンドスクリーニング」のプラットフォームサービスを提供している会社。

SVOD(定額制動画配信)、TVOD(レンタル型動画配信)、EST(動画配信販売)とあるなかで、コンテンツホルダーにとって収益源は何か?

トーマス・ヒューズ(Lionsgate)

Lionsgateは、すべての販売形式を推進しています。エンターテイメント業界は長きにわたって「ウィンドウを守る」ということを重視してきました。今も、今後もそうしていくわけですが、それは“我々の立場としてはということです。物事はどんどん難しくなってきています。

昔は存在しなかった新たなビジネスモデルが登場しています。我々はStarz(アメリカ合衆国の衛星およびケーブルテレビ向けプレミアチャンネル)を買収したことでサブスクリプションベースの企業になりました。その流れで、我々は自社の小作品、ニッチ作品などを実験的にSVOD(定額制動画配信)で出しています。

もちろん、従来型のウィンドウでも引き続きリリースしていきます。しかし収益源はどこにでもあり、すべてのウィンドウを利用することで安定して高品質のコンテンツを製作するビジネスのモデルである、というのが正直な回答になります。
 

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

収益源はどこにでもありますが、掴みたければ頭を使う必要があります。

商品を考えられる限りのプラットフォームで展開するのです。この業界は、というよりも我々インディーズ映画はと言うべきか、SVOD(定額制動画配信)の数字に頼るところが大きいと言えます。弊社は、これまで非常に多くの作品を「Day-and-Date」(劇場公開とVODウィンドウを同時に展開)リリースしたり、従来型のウィンドウ展開もやってきましたが、ここ2年ほどのホームエンターテイメントカテゴリーの収益は、Netflixの売上に対する依存度が上がっているのが正直なところです。ありがたいことにNetflixは素晴らしいパートナーです。

特に小規模インディーズ映画にとって、現在のTVOD(レンタル型動画配信)は厳しい状況にあります。EST(動画配信販売)に若干増加の兆しが見られるのはよいのですが、我々のTVODの数字には以前ほどの成長が見られなくなっていました。

そこで、まったく新しいアプローチを試みました。昨年のマイク・バービグリア脚本・監督、キーガン=マイケル・キー主演の『Don’t Think Twice』という映画です。本作は、興行収入400万ドルとなかなかの成功で、素晴らしいレビューももらいました。パートナーのユニバーサルとホームエンターテイメントの収益を最大化する方法を検討していた折に、iTunesから独占先行配信の話があったのです。この映画をクリエイティブなウィンドウでリリースするには、iTunesはまたとないプラットフォームだと思いました。若干の収益にもなりますしね。最終的にはiTunesでのビジネスは非常にうまくいき、後からリリースした他のプラットフォームの売上にも大きな影響は見られませんでした。

iTunesはPR面でも、非常によくサポートしてくれました。我々はリリース方法を模索していたところで、SVODの数字は興行収入と相関していることが多く、もちろん興行収入ランキングの影響も小さくはありません。しかし、SVODの数字をできる限り上げる方策を見つけようと手を尽くしていた時に、独占公開やその他宣伝面でクリエイティブな方法を試せたのは、何よりも大きかったと思います。

 

TVOD(レンタル型動画配信)は下火? 結局収益性が高いのは?

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

誤解があるといけないのですが、TVOD(レンタル型動画配信)は、増えても減ってもいません。我々の映画に関しては、成長が鈍化しています。これまで大きく成長していたために、より新しい製品や新しいリリース方法に対して、プレミアム価格を設定するなど「Day-and-Date」の手法に、我々が馴れていないと言えます。最近数回この手法でリリースしたのですが、TVODが期待ほど伸びなかったため、昨年からは従来型のウィンドウ戦略に戻りました。

タニア・ジョーンズ(Shift72)
TVODは今でも大きいです。ニッチと言っていい企業がより安価にSVOD(定額制動画配信)でリリースしているのも承知しています。また、我々はOTT(動画・音声などのネットコンテンツ・サービス)にも対応しています。広告を伴うものですが、オーディエンスによっては非常に成功しています。
 

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

一点付け加えさせてください。恐らく驚かれることはないと思いますが、ここ3年ほどの間に最も大きく変わったのはDVDのマーケット全般だと思います。新作であっても、数字が大きく低下しています。業界はこぞってその大きく空いた穴をふさぐ方法を模索していて、我々もそこに目を向けています。

「ハイブリッドモデル」へのシフト

タニア・ジョーンズ(Shift72)
様々な手法が登場していますが、私はハイブリッド型がこれからのあり方だと考えていて、ハイブリッド型収益モデルへの移行が進んでいるのは間違いないと私は考えています。

成功するかどうか、そしてオーディエンスのベースを拡大できるか否かはサービス事業者次第です。これら収益モデルは融合していて、SVOD(定額制動画配信)にする可能性も他の方法に落ち着く可能性もあります。また、どのコンテンツであればプレミアム価格を設定できるのかを見極めようとしているようです。

基本的にはTVOD(レンタル型動画配信)型事業者も、「広告ベースのコンテンツ提供」で顧客を獲得し、その後プラットフォーム上で彼らが高い顧客エンゲージメントを維持し、そのうえでさらにより広範なカタログを見て都度購入してくれることを期待しているのです。見ごたえのある、しっかりして新しいタイトルが次々と加わっていくカタログを消費者に提示すれば、勢いを感じ、新しいコンテンツを増やしているプロバイダーであることを理解していただけます。同時に、これはSVODの売上を増やす策にも関連していると見ています。

プレミアムコンテンツの話が出ましたが、人はどのようなコンテンツになら月額料金以外に追加料金を払うのかという課題です。消費者のタイプによりコンテンツを変えるなどの工夫で当該サービスに対するエンゲージメントを維持すれば、消費者はリピートし購入金額も増加するのではないかと思います。

 

 

<(2)後編 に続く >
 

VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~