動画配信ビジネスによってコンテンツの価値は下がっているのか?
公開日: 2017/03/24
2016年のAFM(American Film Market)において開催されたカンファレンスでは、”Future of Video On Demand”というテーマのもと、映像コンテンツのプロデューサーや配給会社、配信プラットフォームのキープレイヤーたちが、どこで利益が出ているのか、どのように稼いでいるのか。それぞれの立場と現状をもとに議論したものまとめた第七回目。
モデレーター:
ブルース・アイゼン( Digital Advisors 代表 )
パネリスト:
スティーブ・ニッカーソン( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 )
エリック・オペカ( Cinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP )
へニー・パテル( AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP )
メイヤー・シュワルシュタイン( Brainstorm Media代表 )
AdVOD(広告運営動画配信)の成長:無料で見られるようになるとコンテンツの価値は下がる?
ブルース( モデレーター ):
コンテンツの価値と言う話が出ましたが、最近、映画を含む、あらゆるタイプの知的財産の価値が低下していると言われていて、いまや「違法で無料」なのではなく、「合法で無料」と言うコンテンツが増えています。AdVOD(広告運営動画配信)のことを「無料」というべきではないという意見もありますが、AdVODがもたらすインパクトや影響について、どう思われますか? 希少価値や需要に関係なく価格がゼロに近づくことに問題はないのでしょうか?
無料提供はマーケティング手法の一つ、
情報があふれている中で人々の注意を惹くことが難しいことのほうが収入の低下につながる?
へニー( AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP ):
無料提供は、あくまでもマーケティング手法のひとつです。今、私たちが生きているのは、過去に製作されたほぼすべての作品が、何らかの形で視聴可能となるような「作品に溢れている」世界です。新作は、同時期に公開されるほかの新作だけではなく、映画史上のすべての作品と競うことになります。
さらに、30種類もの「OTTサービス(動画・音声などのネットコンテンツ・サービス)」によるマーケティング、Facebookストリーム、短編ビデオなど、情報が溢れているなかで、消費者の関心を得なくてはならない。こうした市場においては、必然的に、1本の映画作品が稼ぐことのできる全体収入が下がっていくのではないかと思います。
それでも、人々の想像力や関心を集め続ける特別な作品や異常値というものもあるとは思います。ただ、テクノロジーが消費者へのリーチを容易にしているにもかかわらず、情報が多すぎるために、彼らの関心を集め、実際に作品を見るように導くことが難しくなっているのです。私の個人的な考察なのですが。
あるいは、供給が増えると価格が下がるのは「巨大な市場」をターゲットにした消費財
―個別作品では「ニッチ市場」商品である映画には当てはまらない?
スティーブ( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 ):
それには、少し異議ありです。すべてのコンテンツが1つの市場に向けて発信されているような産業の場合は、情報やコンテンツの供給過多が全体収入を下げるという仮説が成り立つでしょう。ただ、私たちが配信している商品のすべてがマス市場向けとは限らず、消費者製品の定義から言えば、ニッチな商品なのです。ニッチな商品だからこそ、ニッチな消費者に届けようとしているのです。
映画はアートなのです。アートの本質は主観的なものであり、すべての人にアピールするものではありません。ニッチ市場の商品なのです。
マス市場、たとえば米国の3億3000万人、またはその他の対象となる市場自体は、大きな市場です。でも、私たちが取り扱っているのは、ニッチ市場に向けたニッチ商品。その市場と商品をつなぐことこそが、配給・配信側の仕事なのです。どれほど人気のある作品だとしても、それを査定する価値観は人それぞれ。大きな価値があると思えば見たい、少し価値があると思えば見てもいいかもしれない、全く価値がないと思えば、どんなインセンティブがあっても見ない、と感じるものなのです。無料だったら見るというわけではないのです。
私の周りにも、「『スター・ウォーズ』シリーズは見たことがないし、見たいと思ったこともない」という人がいます。そんな人は2人しか知らないのですが、数千万人が同シリーズの新作を心待ちにしていたとしても、この先、彼らが興味を持つことはないでしょう。逆に、外国語作品が好きな人は、それに大きな価値を見出しているため、そうした作品を生み出すフィルムメイカーや、便利で容易に見られるプラットフォームに、正規の価格を支払いたいと思うものです。
コンテンツを無料あるいは有料で今一回だけ見たい(借りたい)のか、所有したいのか、鑑賞者ごと、コンテンツごとに異なります。無料にすれば、あるいはリリースモデル・ウィンドウ戦略を変えれば、などひとつの方法で多くの消費者を獲得しより多くお金を使ってもらえると思ったら、大きな間違いです。ジュースや歯磨き粉ならまだしも、アートを扱っているのですから。
<(8)新たなウィンドウ戦略と劇場公開戦略 に続く>
VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~ レポート
- (1) どのVOD提供形態が儲かるのか?
- (2) 「独占配信」戦略の効果
- (3) VODビジネスで勝つ方法 - 「衝動買い」を促す「発見」
- (4) VODビジネスにおける著作権侵害・海賊版の問題点は
- (5) EST(動画配信販売)の可能性
- (6) AdVOD(広告運営動画配信)の可能性
- (7) 動画配信ビジネスによってコンテンツの価値は下がっているのか?
- (8) 新たなウィンドウ戦略と劇場公開戦略
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