EST(動画配信販売)の可能性
公開日: 2017/03/10
2016年のAFM(American Film Market)において開催されたカンファレンスでは、”Future of Video On Demand”というテーマのもと、映像コンテンツのプロデューサーや配給会社、配信プラットフォームのキープレイヤーたちが、どこで利益が出ているのか、どのように稼いでいるのか。それぞれの立場と現状をもとに議論したものまとめた第五回目。
モデレーター:
ブルース・アイゼン( Digital Advisors 代表 )
パネリスト:
スティーブ・ニッカーソン( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 )
エリック・オペカ( Cinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP )
へニー・パテル( AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP )
メイヤー・シュワルシュタイン( Brainstorm Media代表 )
EST(動画配信販売)の可能性について
ブルース( モデレーター ):
メイヤーさん、EST(動画配信販売)については、どう考えていますか? 人々はコンテンツを所有したいと思っているのでしょうか?
メイヤー( Brainstorm Media 代表 ):
明らかに、コンテンツを所有したがっている人々は存在します。4000回でも見たいという作品なら、なおさらです。Kickstarterでの先行購入商品である場合もありますよね。“何か”や“誰か”をサポートしようと決めた人は、ダウンロード可能な商品を買うはずです。
人間は、様々なモチベーションによって“何か”を所有したいと思うもので、それは変わらないと思います。ESTはあくまでも、4つのコンテンツ消費パターンのうちの1つであり、人それぞれが違う場所、違う方法で視聴すればいいのです。SVOD(定額制動画配信)のこともあるでしょうし、無料視聴の場合は、月額制のAdVOD(広告運営動画配信)であることも多いでしょう。
コンテンツ消費パターンとしてTVOD(レンタル型動画配信)、AdVOD、SVOD、ESTというチョイスがある状況は、今後もずっと続くと思います。問題は、値段がいくらで、どこで、どれだけ視聴するのかということです。
ブルース(モデレーター):
その4パターンについては私も同感で、長く続くと思います。各パターンから得られる相対収益は、時代とともに変わるかもしれません。その相対収益について、見解を教えていただけますか? どのパターンが最も強く続くのか。また、ESTはそのどこに位置するのですか?
メイヤー:
これまでのところ、他のパターンに比べてESTの収益が多いとは言えません。一般的な消費者は、所有欲や所有の必要性をあまり感じていないように思います。最終的には、そこが問題なのです。私がコンテンツ購入の際に考えることは、見たい作品を何らかの形で見ることができるのであれば、そのためにプレミアム額を払う必要があるのか?という問いです。
ESTは「所有」なのか「高額レンタル」なのか、あるいは「見たいものを早くみられるもの」なのか
へニー( AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP ):
私たちはVODの収入源を分析しているのですが、ホーム・エンタテインメント業界全体を見ると、ESTの分野は伸びています。私たちは会社として、その分野に賭け、来年の第一四半期にESTを開始する予定です。昨今の流れや、ホーム・エンタテインメント業界全体を見ると、ESTが伸びており、ビジネスを動かしていることがわかります。
人々の所有欲を煽る映画は存在するのです。子どもが4000回も見たがるような映画の場合はなおさらです。うちにも7歳の子どもがいるので実感しています。我が家の『アナと雪の女王』のレンタル数を考えたら、家が1軒買えるほどですよ。
ブルース(モデレーター):
私にとってのESTは、いつでも好きなときに見ることができる“高額レンタル”のようなものです。とはいっても、再度見ることはほとんどないのですが。データを見たわけではないので、私の感覚的なものなのですが、OTT業界やデジタル市場には、“スーパー・ユーザー”や“スーパー消費者”と言われる人が存在していると思うのです。デジタル・コンテンツに、米国の平均的な消費者の6~8倍の出費をしているような人々です。
作品を1度しか見ないだろうけれど、とにかく今すぐ見たいという人は多いのではないかと思うのです。今すぐ、20ドルで『スター・ウォーズ』が見られるなら便利だし、5.99ドルに下がるまで待っていられないという人です。作品を所有して何度でも見るためにESTを利用するというよりは、今すぐ見られる利便性に20ドルを払うというパターンも多いのではと思うのです。そういうデータがあるかどうかはわからないのですが。
DVD小売りチェーンが消え、借りる方法・場所は増えたが
“所有”する形で入手できる場所は減っている
スティーブ( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 ):
今の市場の動き、それに対する消費者の反応は、興味深いものです。私たちは、ゆっくりと小売りから電子取引へと移行しています。そうしたなか、消費者は、「大変だ。Hollywood Video* が消えて、Blockbuster* までなくなった」と思うでしょうが、過去5~10年で、映画をレンタルできるプラットフォームは増え、VODやAVOD市場も急激に成長しています。一方で、リアルな商品であろうとデジタル・フォーマットであろうと、作品を購入できる場所は少なくなっているのです。
* アメリカのレンタルチェーン店
そこで、コンテンツを所有したい消費者は「コンテンツを一番便利で安く手に入れられる場所はどこか?」と考えるようになってきています。Blockbusterがなくなった代わりに、Redbox(自動レンタル機)が全米1万カ所に登場し、Hollywood Videoが消えたら、突然iTunesが映画レンタルを強化し始めたというように、様々なシフトが起きているのです。
いまや、あらゆるデバイスで映画をレンタルすることが可能です。5~7年前にはできなかったことです。過去にVHSやWindowsの登場で消費者動向がシフトしたように、消費者は今後、さらにレンタルの方向に移っていくでしょう。同社が最近リリースした映画においても購入とレンタルが可能なのですが、とてもいい作品なので通常より40%増の取引が行われているものの、DVD、Blu-ray、ウルトラVOD、ESTという様々なリリース・パターンを合わせても、所有率は予想を10%下回っています。
ブルース(モデレーター):
私自身、映画を「所有したい」とは思いません。ただ、所有する必要が出てくるのは、ESTのチョイスしかないときです。
<(6)AdVOD(広告運営動画配信)の可能性 に続く>
VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~ レポート
- (1) どのVOD提供形態が儲かるのか?
- (2) 「独占配信」戦略の効果
- (3) VODビジネスで勝つ方法 - 「衝動買い」を促す「発見」
- (4) VODビジネスにおける著作権侵害・海賊版の問題点は
- (5) EST(動画配信販売)の可能性
- (6) AdVOD(広告運営動画配信)の可能性
- (7) 動画配信ビジネスによってコンテンツの価値は下がっているのか?
- (8) 新たなウィンドウ戦略と劇場公開戦略
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