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Anime Expoをアニメファンの心の拠り所として守り未来につなぐ
公開日: 2024/08/23

特集:Anime Expo 第4回

米ロサンゼルスで日本のアニメやマンガなどのポップ・カルチャーに特化した北米最大級のコンベンション「Anime Expo」が7月4日から7日にかけて開催されました。3回にわたり多くのイベントやセミナーをレポートしてきましたが、最終回の本記事ではIPやキャラクターをメインテーマに据えていないもののAnime Expoでしか体験できない、そんなユニークなイベントについてレポートします。

※本記事で触れられている内容は2024年7月時点の情報です。

《目次》

 

 

アカデミックな内容から社会・文化的な文脈におけるアニメを考察するものまで多様なセミナーラインアップ

Anime Expoにおいては人気声優が登壇する大規模なイベントやグッズの即売会、ファンとの交流が行われる展示などIPをメインテーマに据えるものが目玉ではありますが、そのほかにも様々なパネルやセミナーが行われます。前回紹介した世界中のアニメファンに対するマーケティングリサーチ結果のプレゼンテーションのように、学術的なもの、社会・文化的な側面からアニメ/マンガを捉えるものなど非常に多岐にわたっています。

例えば、「アニメ研究 アニメ/マンガ学入門」("Keynote: Researching Anime – An Introduction to Anime and Manga Studies")などアニメを対象としたアカデミックな活動に関するセミナーや、黒人文化へのアニメの影響を考えるセミナー("Anime and Black Culture")などIP横断で社会文化的なテーマを扱うもの、「アニメのミーム化」をテーマとしたSNSにおけるアニメの影響力を扱うもののほか、「アニメ・ジャーナリズム」と題したアニメジャーナリストを目指す人に向けてAnime News NetworkやCrunchyrollのジャーナリスト・ライターがアドバイスを提供するセミナーなどその内容は様々で、北米における「アニメ/マンガ文化」のすそ野の広がりが感じられます。

「アニメ・ジャーナリズム」のセッションから Anime News Networkの発行人であるChristopher MacDonald氏(写真中央) 「アメリカでアニメジャーナリストになるのは難しい。もし日本語ができるならば、日本に移住して職を探すのもおすすめだ」と明かした。  

JETRO主催のイベントで事業者同士の交流も

これまでAnime Expoに来場するアニメファン向けのイベントを多くレポートしてきましたが、本記事ではJETRO(日本貿易振興機構)主催の” JAPAN ANIME Social ~ Networking Mixer For Anime Industry at AX ~”と題された、セミナーや展示を主催する側の事業者同士の交流を目的としたイベントをピックアップして紹介します。立食パーティーで関係者が交流した後、各社が自社サービスなどをプレゼンする場が設けられ、多くの関係者が集まり情報交換を行いました。またJETROが作成した米国におけるアニメIPビジネスのトレンドや市場動向についての調査報告書「アニメ関連サービス・商品に関する米国市場レポート」が紹介され、イベント終了後に参加者に配布されました。

同レポートについて、アニメ/マンガの需要急増とファン層の拡大・多様化、eコマースの増加と購買動向の変化、体験価値ニーズの上昇と劇場上映・対面イベントに関する消費者動向などのトレンドを踏まえた日米市場・産業構造の違いと、米国参入に向けた戦略の在り方について詳細な分析が行われていることが紹介されました。エンタテインメントビジネス関係者にとって非常に有益なものとなっており、レポートの詳細はこちらからご覧いただけます。

昨年はこうした業界を横断した大規模な交流会の開催はありませんでしたが、年々日本からの出張者や現地の関係法人から参加者が増えており、Anime Expoが産業活性化のプラットフォームとしての役割が大きくなりつつあることが伺えます。

 

参加者の声を直接聞く「フィードバックパネル」

数あるイベントの中でもAnime Expoらしいと感じたセミナーの一つに、例年開催されている"Anime Expo 2024 Feedback Panel"があります。同セミナーはAnime Expoを運営するNPO法人であるSPJA(日本アニメーション振興会)の幹部らがパネルとして登壇し、今後の運営のために来場者からの声に耳を傾ける事を目的としているもので、最終日の7月7日午後1時45分から2時30分まで開催されました。意見がある参加者がマイクの前に並び、順々にSPJA幹部に直接語り掛けていました。

参加者の意見には、「会場の入口が増えたり、エリアが広がったりしたのは非常に良かった」「今年は例年よりも混雑が解消されていた」といった改良施策に向けたポジティブなものから、改善への要望含めて多岐にわたりました。「屋台で販売されている食事に揚げ物が多いので、ヘルシーなメニューを増やしてほしい」といった食事面の意見、「イベント参加のために外で並ぶ際に非常に暑いので日陰を増やしてほしい」など設備に関する意見、「日本の声優とのサイン会で写真を撮らせてくれないのは何とかならないのか」「コミコンでは一般人がセレブに直接質問ができるのに、Anime Expoで日本の声優に質問ができないのを何とかしてほしい」などイベントの運営に関するものまで様々な意見が寄せられていました。中には「自分は死ぬまで毎年Anime Expoに来てこの事を言い続けるつもりだ」として「Anime Expoはアニメ文化におけるキュレーターとしての大きな役割を果たしている。だからこそ以前は行っていた、レーザーディスクのコンテンツを上映する、レーザーディスクナイトを復活させてほしい。ロサンゼルスのシネフィルカルチャーと融合していた非常に重要なイベントだった」という意見を表明した参加者もいました。

イベントの最後には、運営者から「Anime Expoはアニメファンのためのイベントです。色々と失敗もあるけれど、皆さんのために改善するようにまた頑張ります。来年もよろしくお願いいたします」との言葉で締めくくられました。こうした参加者の意見を吸い上げるイベント以外にも、来場者に向けたアンケートが実施されていますが、実際に昨年と今年を比べても様々な変化を感じられ、SPJAの真摯な取り組みの姿勢が感じられます。

参加者の声に耳を傾けるSPJA幹部たち。右から二人目はSPJAの事業開発部部長を務める松田あずさ氏。  

拡大する北米アニメ市場における大切な礎としてのAnime Expo

Anime Expoはまだまだ大きな規模になり得る潜在力があると思います。先述のとおり、Anime Expo2024の来場者は、のべ40.7万人との発表がありました。これは既に巨大な市場となっているアメリカのアニメファンにおいてはごく一部です。例えば、Interpret社が実施した海外アニメファン調査レポート 「Animeasure」によれば、アメリカの13歳から65歳の内「3カ月以内にアニメを視聴した」と答えるアニメ視聴者は2020年10%から年々高まり、23年には19%となっています。アニメ視聴者の規模がどの程度か単純計算で推計すると、アメリカの人口3.3億人(2022年)×19%=6270万人となり、いかに大きな市場となっているかが伺えます。(なお、同調査に基づくと日本のアニメ視聴者は51%。同様の単純計算を行うと、日本人口1.25億人×51%=6375万人となり、ほぼ同数となります)。

Anime Expo開催のPRは、ほぼ過去の来場者へのメールやSNSでの告知のみ。また、現場ではこれだけ大規模で盛り上がっていても、「Variety」などの業界紙や現地のメディアでもほとんど取り上げられないことにギャップを感じました。しかし、Anime Expo運営側にとってより大きな規模を目指す必要はないのでしょう。北米には、ほかにもこうしたファンが集まるライブイベントやコンベンションが多数行われますが、Anime Expoはアニメ市場を草の根活動として育む「ファンによる、ファンのための、ファンのイベント」が場としてのアイデンティティであり、その担い手たちによる手作り感をファンも求めているし、運営側も重視しているようです。

本特集でご覧いただいたとおり、Anime Expoで開催された人気アニメのファンイベントは参加者の心をより掴むものへと進化し、多様なセミナーにはアニメ/マンガ文化のすそ野の広がりが感じられました。そして、集まる業界関係者にとってビジネスのプラットフォームとなりつつあるAnime Expoは、ファンの声に耳を傾け、改善を重ねてきました。アニメ/マンガ市場が拡大する中で、ファンの心の拠り所、パワースポットとしてのAnime Expoの重要性はますます高まっていくと言えます。来年の日程は既に発表済み(2025年7月3日~6日)。また世界中からやってくるアニメファンたちが楽しむ姿、アニメビジネス関係者が集まる場としての進化を見るのが楽しみです。

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特集:Anime Expo 2024