セミナー②「デジタル時代の映画マーケティング」 【第1回】テレビvsデジタル、マーケティング施策の今
公開日: 2023/06/23
米ラスベガスにて開催された世界中の興行会社と配給会社が集まるコンベンション「CinemaCon(シネマコン)2023」(開催期間:4月24日~27日)にて、デジタル時代の映画マーケティングに関するセミナー「Movie Marketing: Welcome to the Digital Age」が開催。
興行側からは、英国拠点のヴュー・インターナショナルでデジタル部門ディレクターを務めるダン・グリーン氏と、オーストラリア拠点のホイツでマーケティング&コンテンツ販売部門ディレクターを務めるステファニー・ミルズ氏が、配給側からは、ワーナー・ブラザース・ピクチャーズの海外マーケティング部門のダニエル・ベガス氏と、ユニバーサル・ピクチャーズのデジタル・マーケティング部門のアレックス・サンガー氏が登壇しました。バラエティに富んだデジタル・マーケティングの成功事例からTikTokの活用事例、AIとの付き合い方まで、多岐に渡った議論の模様を5回に分けてレポートします。
※本記事で触れられている内容は2023年4月時点の情報です
アンソニー・ダレッサンドロ(Anthony D'Alessandro)
デッドライン(Deadline):編集ディレクター&ボックスオフィス担当エディター
パネリスト
■興行会社
ダン・グリーン(Dan Green)
ヴュー・インターナショナル(Vue International):デジタル部門 グループディレクター
ステファニー・ミルズ(Stephanie Mills)
ホイツ(Hoyts):販売・マーケティング・コンテンツ部門 ディレクター
■配給会社
ダニエル・ベカス(Danielle Bekas)
ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ(Warner Bros. Pictures):海外マーケティング部門 共同エグゼクティブ・バイスプレジデント
アレックス・サンガー(Alex Sanger)
ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures):デジタル・マーケティング部門 エグゼクティブ・バイスプレジデント
第1回は、デジタル施策のみで劇場映画を成功に導けるのかという題目に沿って、興行、配給それぞれの立場から、最新のマーケティング施策が明かされました。さらには興行会社に向けて、「配給からのマーケティング支援は十分か」とのセンシティブな質問も飛び交うなど、映画マーケティングの今を紐解く内容に注目です。
- ニッチな作品ではデジタル施策のみで公開可能
大作ではテレビ広告がもつ大規模公開の“シグナル”が効果的 - テレビの効果にも変化? 観客を理解し、テレビ・デジタルの特性を生かしてターゲットにリーチすることが重要
- 興行から見て配給による支援不足の作品もある
- スタジオは全作品に全力を尽くし、必要なマーケティングリソースを投下
- 『死霊のはらわた ライジング』の成功事例
- 劇場予告編枠の確保が困難なことも
ニッチな作品ではデジタル施策のみで公開可能
大作ではテレビ広告がもつ大規模公開の“シグナル”が効果的
まず、モデレーターのダレッサンドロ氏より、配給・興行双方のスピーカーに向けて、「今の時代、劇場映画において、従来のテレビへの出稿をやめ、ソーシャルメディアのみの施策でマーケティングを成功させることは可能か?」という質問が投じられました。
口火を切ったのは、配給側。ユニバーサルのサンガー氏は、「ソーシャルメディアのみのマーケティングも可能で、実行している会社もあります。しかし、私たちはまだ、テレビの力を信じています」と発言。「テレビには今も、スポーツの決勝戦中継など、膨大な数の視聴者に訴求できる機会があります。こうした機会にテレビ広告が流れた後のネット動向データをリアルタイムで見ると、オンライン上の検索数も会話数も、ウィキペディアの訪問数もぐんと上がるのです」。さらに、数字には表れない重要な効果として、「テレビ広告は、視聴者に映画が“大型劇場公開”されることを伝えるシグナルでもある」と語りました。
ワーナーのベカス氏も、「ある特定の明確な層に向けたニッチな作品の場合、オンラインのみのキャンペーンが効果的かつ効率的に成功するケースもある」としたうえで、「大衆的な作品のパブリシティでは、オンライン・キャンペーンと、従来のテレビや屋外広告のコンビネーションで挑む方が、より幅広い観客層にアピールでき、劇場公開を盛り上げられるはず」と話しました。
テレビの効果にも変化? 観客を理解し、テレビ・デジタルの特性を生かしてターゲットにリーチすることが重要
興行側からは、ヴュー・インターナショナルのグリーン氏が、劇場映画のマーケティングにおけるテレビの位置づけの変化を指摘。「以前は、テレビ番組での映画紹介や、ハリウッドの有名タレントが作品について話す日曜の夕方に、作品の認知度がぐんと上がる傾向にありました。ウェブサイトのアクセス数が増えるなど、目に見える効果があったのです。最近は、人々がテレビを各々に異なるスケジュールで見るようになったため、以前の傾向はなくなりました」。
その上で、「それぞれの作品の観客が利用するメディアや動向を理解することが重要だ」と語るグリーン氏。「大衆向けの作品なら、テレビでのマーケティングを勧めます。作品によっては、ソーシャルメディアのみで宣伝を行うことも可能ですが、従来のテレビの後押しもあれば、それこそ完璧でしょう」。
ホイツのミルズ氏も同じく、「作品ごとに観客を見極めることが重要だ」と強調。「どのような映画のキャンペーンでも、費用をかけずに公開しようとして、観客にリーチできなければ失敗します。キャンペーンが成功するかどうかは、テレビ露出の有無ではなく、ターゲットとなる観客にリーチできるかどうかに尽きるのです」。
興行から見て配給による支援不足の作品もある
費用の話が出たところで、ダレッサンドロ氏が興行側に、「配給側から十分なマーケティング支援を受けていると感じるか?」と、米スタジオが配信に重きを置く現状を踏まえたセンシティブな質問をしました。
ホイツのミルズ氏は、……(以下、会員限定記事にて掲載)
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