デジタルマーケティングの影?:炎上対策 オスカー受賞『グリーンブック』と『ファースト・マン』の事例
公開日: 2019/04/19

連載第5回は、ネットにおける宣伝展開で避けては通れない“荒らし”に注目しました。オスカー受賞作品である『グリーンブック』『ファースト・マン』が直面した事例を引き合いに、ユニバーサル・ピクチャーズのマイケル・モーゼス氏が当時の状況を解説。炎上に対してどのように対処すべきかをスタジオのトップマーケッターが議論しました。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2019年3月)時点の情報です
避けては通れない“荒らし”への対処
モデレーター
皆さんはネット上の“荒らし(インターネットトロール)”とは無縁ではないと思います。マーケティングの観点から、“荒らし”に対してどのように対処されていますか? 対抗するのか、それとも無視するのか。特定企業に留まらず、誰にでも起こりうる問題だと思いますので、お聞かせください。
マイケル・モーゼス(ユニバーサル・ピクチャーズ)
私からお話しましょう。最近、両極端な場面に遭遇しました。ひとつは『グリーンブック』で、ツイッターでは一貫して否定的なツイートが多く見られました。そうなると、リアルなデータではあっても、こう自問せざるを得ないのです。「これは声の非常に大きい少数派がいるのか、作品に対する本物の赤信号なのか? 大勢に共通する意見なのか、少数派が大声で叫んでいるだけなのか?」と。
この時は、宣伝活動を継続することにしました。観客の評価が高いことが分かっていたため、否定的なツイートに惑わされることなく宣伝を続けたのです。“荒らし”呼ばわりするつもりはありませんが、声が非常に大きい反対派がいたのは確かです。
もうひとつは、『ファースト・マン』です。この場合は、ひとつのツイートが映画の運命を変えてしまいました。それは、ヴェネツィア国際映画祭後に投稿された「作品の中には月面に星条旗を立てるシーンがない」というものです。
これは政治的見解と見なされ、今日のことですからすぐに広まり、どんなに我々が否定しても独り歩きを始めました。そして、ちょっとした気がかりに留まらず、多くの方が作品を観ようと思わなくなる結果になったのです。
繰り返しになりますが、唯一無二の答えはありません。あまりにも多くの要素が関係しているのです。

“荒らし”よりも戦略的に勝っていなければならない
ケリー・ベネット(ネットフリックス)
私はインターネットにおいても2:8の法則があると思っています。80%の人は何かを好むよりも嫌う可能性が高く、基本的には“荒らし”と戦うのは危険を覚悟する必要があります。企業として我々がなすべきことは、企業としての立場やメッセージを明らかにし、それに責任を持つこと、そして自信を持って取り組み、発信し、目指すべき場所にたどり着けるという強固な自信を示すことです。
ブレア・リッチ(ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース・ホーム・エンターテインメント)
少し俯瞰してお話すると、市場は絶えず、そして急激に変化しています。私が昨年学んだことをひとつ挙げるとすると、「自分がコントロールできないことに自分をコントロールさせてはならない」ということです。そうなれば、失敗が待っているのみです。映画批評サイトの「ロッテン・トマト」や“荒らし”などの不安要素に備えておきたいのならば、それらより戦略的に勝っていなければなりません。
初期段階から対策を練り、実際に対応しなければならない時が来たとき、と言うかそういう場面はどんな場合でも必ず来ますが、どんな荒波でもくぐり抜けきることができる強固な戦略を用意しておく必要があるのです。これまでとは異なる視点で戦略を練り、計画をチームと進めていかなくてはならないのです。
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