ゴジラ70周年・歴史と展望、東宝松岡社長によるオープニングスピーチと業界団体トップからのメッセージ~特集:CinemaCon2024
公開日: 2024/04/12
米ラスベガスで行われたアメリカを中心に世界中の映画興行・配給関係者が集まるコンベンション「CinemaCon2024」で「“THE STATE OF THE INDUSTRY” AND A SPECIAL PRESENTATION FROM CRUNCHYROLL」が開催されました。同プレゼンテーションでは、業界団体が市場状況と取り組みについて共有し、日本以外の国で展開されるアニメ専門配信サービスCrunchyrollによる劇場公開映画のラインナップ発表がなされました。また、冒頭には特別スピーチとして東宝株式会社の松岡宏泰代表取締役社長よりメッセージが発表されました。本記事では松岡社長のスピーチとともに、業界団体のトップによるプレゼンの内容をレポートします。
※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です
- 松岡社長、『ゴジラ』70年の歴史、アカデミー賞受賞快挙の2024年から始まりの1954年までを振り返りつつ、グローバルに存在するファンの熱とグローバル産業のサポートに感謝
- 就任1周年のNATO代表マイケル・オレアリー氏から無限の可能性を持つ映画興行発展の条件を提示
- MPA代表チャールズ・リブキン氏より海賊版対策としてサイトブロッキングの制度を米国議会に提出する旨発表
松岡社長、『ゴジラ』70年の歴史、アカデミー賞受賞快挙の2024年から始まりの1954年までを振り返りつつ、グローバルに存在するファンの熱とグローバル産業のサポートに感謝
まずは「心をはっとさせるような物語。これまで見せられたどの物語よりも素晴らしく、恐ろしい。想像を絶する恐怖の物語。怪獣王ゴジラ、海の深みから恐怖の大波を巻き起こして現れ、人類に復讐を果たすのを見よ」とのナレーションから始まる、東宝製作の『ゴジラ-1.0』と過去のゴジラシリーズの迫力ある映像が上映されました。拍手の中、松岡社長が登壇し、象徴的なフランチャイズの大ヒットであり、予期せぬ新作のヒット作でもある『ゴジラ-1.0』は、北米で東宝が自社配給した初めての映画であり、アカデミー賞を受賞した初のゴジラ作品という意義を語りました。そして、フランチャイズ30作目であった『ゴジラ-1.0』はいまも上映中であり、このプレゼンテーションの観衆である映画興行会社の支援に感謝の意を表しました。
ここでゴジラの始まりに目が向けられ、「すべての始まりとなったのが、1954年の『ゴジラ』で、これはある意味で予期せぬ形で生まれました。1954年、インドネシアとの共同映画プロジェクトが頓挫し、東宝の田中友幸プロデューサーは窮地に立たされました。急ぎで代替案を考えなければならなかった中で、彼は同年3月にビキニ環礁で行われた水爆実験で放射線にさらされた日本の漁船『第五福竜丸』を思い浮かべました。その瞬間、田中プロデューサーは、もし水爆実験が海に潜んでいた怪獣を目覚めさせたらどうなるかと考えました」と着想の秘話を披露。さらには、その名前の由来が、ゴリラとクジラをつなげた東宝社員のあだ名から来ているエピソードを明かし、会場を沸かしました。
東宝株式会社 松岡宏泰代表取締役社長Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
グローバルに存在するファンの熱とグローバル産業のサポートに感謝
また、ゴジラシリーズの特徴として、水爆実験やバイオテクノロジーの危機、東日本大震災など、その時代時代の課題を反映して製作され、私たちの歴史と密接であることとともに、長い歴史の中で既存のファンと新しいファンを迎え入れるコミュニティを形成していることを挙げました。
続いて、そのファン層はグローバルに存在しており、今回の『ゴジラ-1.0』がほとんどの地域で日本語音声と各国の字幕で上映され、日本国外では知られていないキャストが登場する日本特有の物語であったにもかかわらず、これだけのヒットにつながったことを指摘。そしてその背景には、ファンがこの作品のすばらしさを認識し、自分たちで映画館に足を運び、コミュニティ内外に口コミで広げ、映画館でこの作品を見ることがイベント化した経緯があることを明かしました。
映画興行の成功に加えてアカデミー視覚効果賞を受賞する快挙を成し遂げたことについて松岡社長は、「フランチャイズがこのような高みに達するのを助けた多くのファンが共有した言葉を借りるなら、ゴジラが世界中の人々に受け入れられるのを見るのは非常に感動的でした」と表現。さらにはその道のりにおいて協力を惜しまなかった興行会社はじめパートナーに感謝の意を表しました。
続いて、世界興行全体では2023年、コロナからの復活がさらに顕著となり、様々なジャンルから多くの素晴らしい映画のヒット、新旧フランチャイズ・IPの成功、テイラー・スウィフトのコンサート映画や『オッペンハイマー』『バービー』の驚異的なヒットというたくさんの偉業が成し遂げられたことに触れ、この業界の一員であることに誇りに思っていると締めくくりました。
就任1周年のNATO代表マイケル・オレアリー氏から無限の可能性を持つ映画興行発展の条件を提示
これまでのジョン・フィシアン(John Fithian)氏に代わり昨年のCinemaConにおいて代表就任と紹介されたNATO(National Association of Theater Owners:全米劇場所有者協会)代表マイケル・オレアリー(Michael O’Leary)氏より、NATOの取り組み状況とともに、オレアリー氏がこの1年間様々な人と語って考えた、「無限の可能性」がある映画興行が発展を続けるための3つの大事な要素が示されました。
- 映画館の体験を進化させ続けること
- 製作者・配給と協力して、様々な作品が劇場公開されるようにすること
- 映画が文化的なコンテキストにおいて関連性をもち、一般の人々の意識における私たちのユニークな地位を確固たるものにすること
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
この中でまずオレアリー氏は、「タブレットでも映画は見られるが、映画館では映画を体験できる」とし、その価値を維持するために、人やシステムに投資を続けることの重要性を訴えました。また、スタジオからの作品が減っても、外国映画やコンサート映画、テレビシリーズの公開などの工夫を歓迎する一方、劇場公開ウィンドウを守る方が、劇場公開後の収入も増え、ビジネスとしてもより儲かり、関係するすべての主体にとってプラスであると強調しました。また、ブロックバスターだけでなく、『パスト ライブス/再会』『ゴジラ −1.0』や『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のような中小規模の作品も大事であり、今来場している観客だけでなく新たな観客を獲得する努力を続けるべきと強調しました。作品の供給においては、決まった書入れ時だけではなく、年間を通じて作品の供給を行うことの必要性を訴え、分断する社会の中で皆が集まり、ともに物語を体験するという価値がある映画産業が今後も発展し続けられるよう、一丸となって取り組んでいくことを呼び掛けてプレゼンテーションを締めくくりました。
MPA代表チャールズ・リブキン氏より海賊版対策としてサイトブロッキングの制度を米国議会に提出する旨発表
ディズニー、Netflix、パラマウント、ソニー・ピクチャーズ、ユニバーサル、ワーナーブラザースが加盟しており、映像製作者側の利益を守る業界団体MPA(Motion Picture Association)の代表、チャールズ・リブキン氏は、たくさんの雇用を生み出す映像製作産業の重要性とその脅威である海賊版問題の対処のためにサイトブロッキング制度の施行を議会に働きかけていることを明らかにしました。曰く、「海賊版問題は被害者のない犯罪ではない。多くの人が被害をこうむっている。試算では10億ドルの被害がある」とし、これを防止するうえで非常に有効なサイトブロッキング制度はアメリカでは未導入(日本も未導入)であることを指摘。しかし、世界60カ国で導入済みであるとし、組織犯罪・マフィアによって運営されている海賊版サービスと戦うために非常に有効な施策として取り入れるべきであると訴えました。
MPA代表チャールズ・リブキン氏Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
最後に第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を獲得した『マリウポリの20日間』のミスティスラフ・チェルノフ監督が受賞スピーチで"Cinema forms Memories and memories forms history"と語ったことを引用し、人々の記憶を作ること、これこそが映画の究極の目的だとし、MPAは今後も人々が大画面で物語を共有し、啓蒙され、夢中になり、動機付けられ、インスパイアされることの価値を守るために活動を続けると表明しました。
*
世界中の映画興行・配給会社、そしてサービス・技術提供企業が集まるこのコンベンションで、NATOやMPAのトップによる産業へのメッセージとともに、日本企業のトップが開会のあいさつ、そして日本IPの成功とその歴史について語った意義は非常に大きく、プレゼンテーションの聴衆の反応からも、ゴジラ、日本映画、日本ビジネス事業者へのますますの期待が感じられる場となりました。
右から東宝株式会社 松岡宏泰代表取締役社長、MPA代表チャールズ・リブキン氏、NATO代表マイケル・オレアリー氏、Classic Cinemasクリス・ジョンソンCEO、同カイル・ジョンソン氏
Photo by Alberto E. Rodriguez/Getty Images for CinemaCon 2024
- 第1回:ゴジラ70周年・歴史と展望、東宝松岡社長によるオープニングスピーチと業界団体トップからのメッセージ
- 第2回:アニメの存在感をグローバル映画市場において再発見する:Crunchyroll特別プレゼンテーション(前編)
- 第3回:「アニメはすでにグローバルカルチャーシーンの最前線にある」今後の展望と期待の劇場公開作品:Crunchyroll特別プレゼンテーション(後編)
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