番外「ハリウッドマーケティングリーダーが語る」シリーズ追記
公開日: 2017/07/14
<連載>ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」 番外
“Studio Roundtable: The Art and Science of Opening a Film”
Author:梅津 文
先日まで連載した”ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」”シリーズは、2017年春にロサンゼルスで開催された米バラエティ誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"MASSIVE The Entertainment Marketing Summit"において、ハリウッドメジャーのマーケティングキーパーソンたちが登壇した、その日のハイライトの一つともいえたセッションでした。
連載は5回にわたりお届けしましたが、今回は日本の映像業界にとっての意味合いの補足や、ヒントになると考えたことを追記します。
デジタルメディアによる革新の進化:単なる「ターゲティング」「データ」から「クリエイティブ」&「タイミングターゲティング」へ
毎年春に開催されるこのカンファレンスに参加するのも今年で3回目でした。その中で、デジタルマーケティングとデータの役割は毎回大きなテーマの一つでしたが、年を経るごとに少しずつ話題がシフトし、デジタルメディアの隆盛と活用によってマーケティング活動が変化・進化している様子がうかがえます。
2015年は、デジタルマーケティングという新しい手法がもたらす、これまでできなかった「ターゲティング」の可能性がメインの話題となっていました。
2016年は、さらなるデータ分析の活用の可能性として、作品浸透度・話題度のトラッキングが変わること、従来のトラッキングでは見えにくいことがわかるようになったこと、また、これまでにないきめ細かさでターゲティングができる革新が話題になっていました。
そして2017年は、”さらにどううまくやるか?”という話になっていて、クリエイティブにどう生かすか?という視点と、「属性」ターゲティングからさらに「タイミング」ターゲティングへ、とフォーカスがシフトしていました。
映画の認知度や意欲度を計測していていつも感じることは、結局、意欲を持った人の全員が劇場に行っているわけではないことです。「潜在顧客が映画館でチケットを買う瞬間」までの道のりの中で、どこにいるのか=「ライフサイクル」という考え方が重要であるとセッションの中で繰り返されていましたが、それを踏まえた施策展開が技術的に可能になっています。この人は普段何に興味があるのか、予告編を何回観ているのか、映画の上映時間を調べるところまで意欲が高まっているのか、それらによってきめ細かい施策を変えることが可能となっていて、実際に行われているのです。こうした進化によって「意欲から実際の鑑賞の歩留まり」を少なくすることが可能となっていることにワクワクしました。
⇒ 第2回 データの役割と価値:「リアルタイム」と「クリエイティブ」
⇒ 第3回 テレビは見なくなっている?デジタルVSテレビの議論に意味はあるか
⇒ 第4回 ヒットを生み出す宣伝コンテンツ:つながりある世界観と「タイミング」
邦画のビジネススキーム「製作委員会方式」にハリウッドが追随?
セッションの中で、「最近の動きで最も重要なことは?」というモデレーターの投げかけに対し、まず挙げられたのが「メディアグループ内の各メディア各社が協力して公開をイベント化する」という取り組みでした。例としてユニバーサルが「怪盗グルー」で親会社のコムキャストとグループ内の放送やデジタルメディアの企業と協力する”SYMPHONY"等が挙げられていました。生活者が接するメディアが多様化する中で、その作品をヒットさせるためには映画会社だけでなく、たくさんのメディアが「広告費の出稿先」という位置づけを超えて“同じ船に乗って取り組む必要がある”という背景が見えました。
ここで考えたのは、これはまさに、日本にはもう何十年も前からある「製作委員会方式」の宣伝の仕方そのものではないか、ということです。
日本の場合、必ずしもグループ企業というわけではなく、日頃の資本関係を超えたプロジェクトチームを組むわけで、「自分が属するグループ企業全体の方針」という強制力は弱いこともあります。そんな中、多彩な企業が束ねられていくために必要なのは、CAAのミーガン・クロフォード氏が言う「伝えたいストーリーの明確化」はもちろん、作品の浸透度など宣伝展開を関係者が共通して理解できる客観的なファクトに基づく戦略と状況把握、つまり“プロジェクト内の共通理解・コミュニケーション”ではないかと考えました。
⇒ 第1回 大ヒットを生み出す「イベント化」と「ライフサイクルマーケティング」
「いまこそ映画」というポジティブな空気
2016年は、北米興行市場も世界興行市場も過去最高の興行収入となり、先日レポートした「Cinemacon」でも映画興行に関して楽観的なムードが高まっていたことが印象的でした。このセッションでも、「いまこそ映画」というポジティブな言い方がなされていました(そもそもこういう場でネガティブな言い方をするのは少ないかもしれませんが)。
「テレビで、スマホで、家で、移動中も」無数のコンテンツが存在し、しかもオンデマンドでレコメンデーションされるという中でそれぞれ見ているものが異なるいまだからこそ、「いま、やってる」「多くの人が口にしている話題」を共有できる映画は余計に価値が増しているのだ、という考え方は興味深いものでした。「無数の選択肢がありコンテンツ同士の時間の奪い合いの中で、若者を2時間も映画館に閉じ込めることは難しい」とも言われている中、日本でも若い人の映画参加率は上がっています。『君の名は。』も目覚ましいヒットを成し遂げました。
さらには、多くの消費財・サービスにおいて、「ほしい」「みたい」を購入につなげるための技術インフラが整備されつつある中、例えば「いま『千と千尋の神隠し』が公開されていたなら、興行収入500億円に届くのではないか?」そんな思考実験こそが面白いと感じ、新しい映画・映像マーケティングの可能性に胸が躍りました。
⇒第5回 人はなぜ「今」映画館で映画を観るのか
ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」シリーズ
- (1)大ヒットを生み出す「イベント化」と「ライフサイクルマーケティング」
- (2)データの役割と価値:「リアルタイム」と「クリエイティブ」
- (3)テレビは見なくなってる?デジタルVSテレビの議論に意味はあるか
- (4)ヒットを生み出す宣伝コンテンツ:つながりある世界観と「タイミング」
- (5)人はなぜ「今」映画館で映画を観るのか
- (番外)番外「ハリウッドマーケティングリーダーが語る」シリーズ追記
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