第6章 10年後に起こる最大の変化とは……
公開日: 2020/11/12
2019年11月、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された映画見本市アメリカン・フィルム・マーケット(AFM:American Film Market)より、“Breaking the Mold: The Innovators”をレポートします。
特集最後となる連載第6回は、エンタテイメントビジネス業界の10年後の変化に着目。“ダイナミック・プライシング(変動料金制)”や“day-and-date(劇場公開日の即日に動画配信/パッケージ販売を行う)”、“定額制動画配信サービス”などのキーワードを中心に、製作会社、劇場チェーン、配給会社、コンテンツホルダーという異なる見地から展望を述べました。
映画館をマーケティング装置として活用
モデレーター
これまで、エンタテイメントビジネス業界の変化に関して、業界の異なる立場にいる皆さんそれぞれの見地から意見をいただき、議論を重ねてきました。そこで次に、業界全体を見渡したとき、10年後に起こる最大の変化とは何なのかお聞かせください。もしくは誰も予想できないことが起こるのでしょうか。
ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
時代遅れのように感じますが、劇場ビジネスにおいて急激な変化が起こるとは思いません。なぜなら私自身、それを求めていないからです。『ゼロ・グラビティ』のように本物の体験を享受できる例外を除いて、3D上映は好みではありません。酷い体験は淘汰され、生き残ることはできないでしょう。私が映画業界に入ったのは、映画を愛しているからです。映画館に行くことが好きですし、今でも人々はそう感じているのだと思います。
毎日、そういった観客の気持ちを感じているからこそ、幻想を持ちたくはありません。“ダイナミック・プライシング(変動料金制)”の要素があっても構わないと思います。しかし同様に、映画館に行くという価値提案に関して、我々は共通認識を持っています。もし、『アベンジャーズ』や『スター・ウォーズ』の公開週末のチケット代金が35ドルであったら、人々は落胆し、映画館から足が遠ざかってしまうでしょう。金額に関する不満を胸に抱いている人のなかには、『同じ遺伝子の3人の他人(原題:Three Identical Strangers)』などといった規模の小さい作品を観たい人もいます。しかし、彼らは映画館の鑑賞料金は高額であるという印象を持ってしまうことになるのです。
私は常に2つの側面を重視しています。一つは、映画作品としての価値があるかどうかを確認すること。ソファから立ち上がってもらい、映画館で鑑賞してもらう価値があるかということです。もう一つは、劇場運営者として、コンテンツ・クリエイターとの関係を築くことです。
我々は、映画館にどうやって人を呼び込むかだけではなく、顧客の映画愛にまで踏み込んだ関係を築きたいと考えています。映画館はマーケティング装置として捉えるべきではないでしょうか。映画への愛について人々と交流する場として、映画館は十分に活用されていないと感じます。彼らは映画にどっぷりと浸かりたいと願っていいます。ですから、我々は総合的なパートナーとして、彼らが支払った鑑賞料金に見合ったものが受け取れるように心がけています。
モデレーター
ここで質問させてください。あなたは顧客のための施策を行っています。その施策により、彼らは友人とともに様々な劇場体験を得ることができており、私はそれらが実行されるのを見てきました。そこで、今後映画館で会話やテキストメールはできるようになるのでしょうか、それともやはり難しいのでしょうか・
ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
極端ですが興味深い例がありますよね。プライベートな環境で鑑賞できるのであれば、問題ないでしょう。しかし、もし外出先において、この行為をインタラクティブな体験であると定義するのではれば、ある意味では良いことだと思いますが、少々の危険性をはらんでいます。映画館では周囲への配慮が必要なのです。基本的には観賞の邪魔をされず、物語に没頭するために映画館を訪れるのです。もし、映画体験としてそれに多数の賛同者が得られるのであれば、そのときに始めればいいのではないでしょうか。
サブスクリプションサービスのバンドル販売
エリック・フェイグ(PICTURESTART)
“ダイナミック・プライシング(変動料金制)”と“day-and-date(編注:劇場公開日の即日に動画配信/パッケージ販売を行う)”が最大の 変化でしょうか。劇場という贅沢な環境で大勢の人と一緒に公開初日を迎えたいと思う場合と、家で2人で観るのが嬉しいものがあると思いますし、どちらも重要だと考えます。
クリスチャン・パークス(NEON)
今後、企業間の合従連衡の話し合いは続いていくでしょうし、経営層やCEOは公開本数の縮小を求めてくるでしょう。もし、あなたがその戦略に逆らいたいと考えると、プロジェクトに携わる機会は減りますし、インディペンデントの立場で抵抗をしていくことになります。独立系の映画館や製作者、配給会社として、コアな観客層に向けた作品を手掛けることになるでしょう。でも、人は『アベンジャーズ』シリーズの67作目を観るためにわざわざ出かけたりしないのだとも思っています。
アロン・レヴィッツ(Wattpad)
10年後には、自分のためではなく、オーディエンスのためにどうやって映画を作り上げればいいのかを、深く理解できるようになっていると思います。我々は常に自分自身が好きな何かを作りたいと思うもの。しかし、成功は、彼らの好むものを作り上げたときにこそ訪れるのです。ファンコミュニティを創出し、育てる理論を真に理解すること、それがクリエイターとして今現在取り組んでいることであり、今後10年でますます面白くなっていく分野になるでしょう。
1つ言わせてください。私はサブスクリプションサービスについて深く考えています。同サービスは増えているため、10年後にはバンドルサービスとして展開されるのではないでしょうか。消費者が個々のサービスに対して支払うことは意味がありません。つまり、ケーブルテレビのバンドル販売に似た方式に戻ると考えられます。
クリスチャン・パークス(NEON)
これはなんと呼べばいいのでしょうか。私たちはまたしても……、競争のなかの革命ともいえる時代にいるのです。
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