第5章 Data is King.~コンテンツホルダーと配給会社のデータ利用
公開日: 2020/11/05
2019年11月、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された映画見本市アメリカン・フィルム・マーケット(AFM:American Film Market)より、“Breaking the Mold: The Innovators”をレポートします。
連載第5回は、SNS型の小説投稿・閲覧サービスWattpadと『パラサイト 半地下の家族』の米配給を手掛けたNEONによるデータの活用方法に着目しました。“データは王様”であると説く、NEONのクリスチャン・パークス最高マーケティング責任者。果たしてその心は。コンテンツホルダーと配給会社、それぞれの立場において利用されるデータの種類や利用方法にもご注目ください。
世界規模でファン感情を分析
モデレーター
これまでデータについて議論してきましたが、問題はデータが何を意味するのか、そしてどのように使うかということです。もちろん、どのように組み合わせるのかということも重要です。今回は、Wattpadを例に挙げてみましょう。Wattpadは徹底したデータプラットフォーム上に成り立っている興味深いサービスです。そこで、データをどのように利用しているのか、もう少し詳しく教えていただきましょう。
アロン・レヴィッツ(Wattpad)
我々は2つの視点からデータを捉えています。まず最初は、オーディエンス・データです。このデータには、閲覧数やシェア数、再読数、閲覧日時、閲覧国などが含まれており、どこから手を付けていいのかの示唆に富んでいます。例えば、ニュージランドに住むフィリピン人女性が英語で執筆した物語が、一時期インドのある地域で非常によく読まれていることに気が付きました。
まずは素晴らしい物語を見つけることが先ですが、次はマクロレベルでデータを見る必要があります。世界中のトレンドに目を向け、人々が本当に楽しんでいるものは何かを探すのです。実は現在、機械学習とAIを用いれば、過去13年間にWattpadにアップされた50万ものコンテンツを理解できます。実際には読んでいないものの、文章の質や文脈を把握できるほか、感情の揺れや浮き沈みも分析できるようになってきています。
例えばロマンスであれば、2人の白人の子どもがショッピングモールに行って恋に落ちるというような話が見つかります。何百万回も見たような話ですね。しかし、人々は新しいラブロマンスの形に興味を持ち始めています。それはムスリム文化のロマンスかもしれませんし、インドネシアやシンガポール発祥のロマンスかもしれません。ところが、そのジャンルに対して世界は関心を持っていません。しかしそのようなときでも、我々はそういった話を探し出し、率直に言ってかなり孤立したグループにはなりますが、彼らからの多様で素晴らしい声をすくい上げたいと考えています。なぜなら、彼らはニッチとはいえ、世界規模でみれば何百万人にも膨れ上がるからです。
私たちが最後にデータを利用する場所は、制作段階にあります。とはいえ、数値を軸に開発するわけではありません。「この段落は読者に愛されているから、映画に入れるべき」や「この段落は退屈だから映画には入れないようにしよう」「ここにはナレーションが必要だ」というものを判断する指標でもないのです。
重要なのは、読者が愛情を注ぐ何かがあることを理解することであり、ときにファンから、それらについて教えてもらうこともありました。データはどこに読者の愛情が含まれているのかを示してくれるのです。データは感情です。これらを念頭において、プロジェクトを構築していくのです。勝手気ままに決めているわけではありません。
世に出すものすべてをリアルタイムテスト
モデレーター
クリスチャン、あなた方がデータをどのように扱っているのか興味があります。例えば、何かプロジェクトを手掛ける際、最初にデータを利用するのでしょうか。もしくは最終段階でSNSのデータを収集したら、それらのデータがやるべきことを教えてくれるものなのでしょうか。
クリスチャン・パークス(NEON)
全体を通じて利用しています。初期段階である配給権獲得の際に映画作品を探しているときでさえもです。最適な例として、今年のサンダンス映画祭で観た映画があります。コロンビアのスリラー映画で素晴らしい作品です。
モデレーター
作品名は?
クリスチャン・パークス(NEON)
“Monos”です。本作は非常に重要な映画で、大好きな作品です。NEONを象徴するような作品になるでしょう。ブランドとして、そして配給会社としてのNEONを反映した作品です。例外もあるでしょうが、データは、私たちが行うすべてのことにおいて非常に重要です。ただし、その映画が好きでなければ、配給権を獲得することはありません。それが第一の原則です。
配給権獲得に至る次のステップは、観客数やComscoreのデータなど、用意できるデータすべてを基にして、どのようなファイナンシャルモデルがあるのかを考えることです。事前に、「コンテンツはまだ王様なのか」というような質問をいただきましたが、データこそが王様なんです。我々はすべてのデータを活用しています。
『パラサイト 半地下の家族』に関して言えば、30種類以上の予告編を作成しました。予告編やSNS投稿など、世に出したものはすべてリアルタイムでテストしています。オーディエンスが気に入らなければ、即座に廃棄されます。ほとんどの場合、私の気に入ったものが捨てられてしまいます。しかし、オーディエンスが「必要ない」と判断した場合、それが答えなのです。私たちは自身に仕えているのではありません。フィルムメイカーが製作した作品をできるだけ多くの観客に観てもらうことが目的なのです。
我々はあらゆる点でデータを頼りにしており、その領域はパートナーにも及び、現在、Fandango(編注:米オンライン映画チケット販売大手)と密に協業しています。彼らは最高の映画データアプリへのアクセスを提供してくれます。それらを活用しないという手はありません。我々は成功しなければならないのです。
- Introduction
- 第1章 事例から紐解くウィンドウ展開の論点
- 第2章 余暇時間の奪い合いのなか、『パラサイト』が狙った4つの層
- 第3章 ニッチ層に刺さる展開でスマッシュヒット
- 第4章 劇場ブランドで作品をレコメンド
- 第5章 Data is King.~コンテンツホルダーと配給会社のデータ利用
- 第6章 10年後に起こる最大の変化とは……NEW
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