ジャンル映画を観に行く本能的な理由とは?
公開日: 2019/05/10
“消費者行動を理解する強力な秘密兵器”として行動科学とデータサイエンスの融合を説く本特集。最終回となる連載第3回はコメディやホラーといったジャンル映画に焦点を絞ります。そもそも消費者がジャンル映画を観に行く心理学的背景とは? そして我々がそこから汲み取れるものとは? 消費者の共感を得るために必要なポイントをメディア心理学者が紐解いていきます。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年12月)時点の情報です
コメディとホラー映画が好まれる潜在的な理由
ベッティーナ・シェリック(20世紀フォックス)
ジャンルの話に移りましょう。私たちは、人がなぜある種の作品を観にいくのかを頻繁に議論します。その際、議題として取り上げるのが面白いジャンルといえば、コメディとホラーではないでしょうか。この2つのジャンルが好まれるには、潜在的な理由があります。笑いたいとか、怖がりたいということだけが理由ではありません。
パメラ・ルートリッジ博士
ジャンルは消費者にとって期待値を設定する手がかりとなり、楽しめたか否かは基本的には期待が満たされたかどうかによります。消費者が何に共感するかについて調べる際、私はジャンルごとに異なる理論的枠組みを設定します。例えばコメディを観にいく心理学的理由はいくらでも存在します。ユーモアは社会的な活動であり、共有されるものです。また、笑いやほほえみといった行動は相互に影響を与えるものです。
そこでコメディの場合、その作品でどの程度社会的なつながりが描かれているかどうかを重要視します。奨励すべきことなのか、反社会的な作品と捉えた方がいいのか。何を題材とした笑いなのかといったユーモアの感覚ですね。私たちは常にオーディエンスのコアなニーズを刺激できるクリエイティブポイントを見極めようとしています。
生理学的にアドレナリンレベルが高まる点において、ホラー映画も同様の体験と言えます。ホラー映画では、チェーンソーを持った殺人鬼が退治されるとより強い達成感を得られます。そして物語の最後、ヒーローとともに生き残ったことで生還したような気分になり、実際に高揚感を感じるのです。安全圏に身を置いて虚構の中で恐怖に直面しているだけなのですが、脳はそれを認識できず生き残ったと感じるのです。
消費者が様々なタイプの映画を観にいくには、ベースとなる心理学的要素が存在します。ジャンルと作品そのものの特性を考慮し、見えてくるものから仮説を立て、クリエイティブチームに方向性を指示することになるのです。
人は映画を通じてヒーローの気分を味わいたい:主人公の重要性
ベッティーナ・シェリック(20世紀フォックス)
ジャンル映画に関連して学んだのが、ヒーローを定義する重要性です。ヒーローは、お客様が感情移入できる存在でなければなりませんよね。
パメラ・ルートリッジ博士
当然ながら、私たちが提供するのは物語です。しかし、主人公が不在のうえ、困難もなければ物語は存在しません。私たちが発見したのは、お客様にとってヒーローが分かりやすいことがいかに重要であるかです。ルーク・スカイウォーカー的ヒーローである必要はありません。しかし、誰が主人公であるかが明確に分からないと、感情移入する相手を失ってしまいます。それが欠落すると混乱が生じ、何も頭に入ってきません。そうなったら終わりです。
お客様が誰をヒーローだと思っているのかを突き止めるのに、私は時間をかけます。分かりやすく言えば、お客様が別の作品のヒーローの話を始めて、私たちの作品のヒーローについて全く触れなかった場合、彼らを感情的に取り込むのが宣伝の目的であることを考えれば「失敗した」と思うべきです。どんな物語であっても、主人公を通さずに感情的なエンゲージメントを醸成して物語に入り込んでもらうのは困難です。好きでも嫌いでも構いません。しかし、共に作品の世界を歩んでいってもらう必要があります。
基本的には、私の仕事の本質はデータの意味を解明することです。ある意味対極にあるものに人間的な物語を戻してやるのです。この両者が揃ってこそ高い効果を生みだせます 。お客様のニーズとゴールは何か。そして、私たちはそれを満たしているのかが問題なのです。
データは“あれば助かる”ものから“なくてはならない”ものに
ベッティーナ・シェリック(20世紀フォックス)
映画産業はクリエイティビティや直感、情熱があふれている象徴的なビジネスです。直感が情熱につながる、浮き沈みの激しいエキサイティングな業界です。しかしそれも今は昔。信念や直感もある程度システム化されてきました。我々の環境は全く違うものとなり、データは“あれば助かる”ものから“なくてはならない”ものになりました。テクノロジーが我々のビジネスを一新したのです。
データは大量に存在しますが、その背後にあるのは生身の人間であることを忘れてはなりません。行動科学とデータサイエンスがタッグを組めば非常に強力な武器となるのだと、我々は確信しています。
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