市場拡大する中国フィルムメイカーとの映画製作 - Producing in China
公開日: 2016/06/15
今回は、米国ロサンゼルスで開催された前回のAFM(American Film Market)におけるカンファレンスの中で、13億の人口を誇り、いまだ開拓の余地の多い中国市場の映画製作事情について、プロデューサー、ポストプロダクション・アーティスト、ファイナンス会社の代表らが見解を語った“Producing in China”のセッションをレポートする。
本セッションのモデレーターとパネリストの顔ぶれは、以下の通り。
モデレーター:ピーター・シアオ(Orb Media 創始者&CEO)
パネリスト:
- ワン・チャンユン(映画プロデューサー)
- クリス・ブレンブル(ベース・メディア 創始者&CEO)
- リック・ネイサンソン(『レッドクリフ』、『グリーン・デスティニー』後編 ライン・プロデューサー)
- エイプリル・イェ(フィルム・ファイナンス・チャイナ CEO)
共同製作へのニーズの高まり
中国では毎年、約60本の海外映画が輸入されるが、そのうち約40本が米国映画といわれている。海外作品の年間輸入本数や上映時期・場所には様々な制限があるため、中国市場で好成績をあげるためには、共同製作という形をとり、中国にて公開上映する許可書をもらう戦略をとることが有益だ。
共同製作にあたっては、脚本選びから討議し、文化の違いや観客の趣向を考慮して進めることになる。中国と米国の共同製作の場合、どのような企画が適しているのだろうか?
企画においては、文化と価値観の違いに留意
映画プロデューサーのワン・チャンユン氏は、成功する要素を持つ米中合作企画として、2つの例をあげた。
1つは、上海を舞台とし、中国人と典型的なユダヤ人の男女が主役である物語。「脚本家、映画監督、映画プロデューサーはいずれもアメリカ人ですが、舞台が上海ということで、米中合作に適しています。ハリウッドからの製作陣は、同作を(各国特有の視点ではなく)人類の視点から描いたため、中国人にも確実に受け入れられる物語になるはずです」。
2つ目は、第二次世界大戦中に起きた重慶爆撃を題材にした『大爆撃 THE BOMBING』。「この爆撃では、傷つけられた中国の民衆を、米国人が助けました。最後に、米国パイロットが中国パイロットを率いて、上空で日本の零式艦上戦闘機と戦い、両方の血肉で民衆を守り、ファシズムを反撃した物語を作り上げたのです」。
一方で、米国の脚本家や映画プロデューサーが中国に企画を持ち込むとき、伝統文化と価値観の違いが問題となることもある。
「両国の価値観が顕著に出た例として、『唐山大地震』(2010)や『金陵十三釵』(2011)があります。『唐山大地震』では、第二次唐山大地震で軍隊が孤児を捜索するとき、のしかかった石版により、片面では息子、他面では娘が埋められ、どちらを救うべきか選ぶシーンがあります。中国では受け入れられますが、米国人から見ると、同じ人間なのに、救うべき人と見捨ててもいい人を区別することが理解できないと非難されたのです。男女平等という点において、米中では意識が違います。どちらかの国の問題というわけではないのですが、このような不一致が生じる映画も多くあります。そのため、脚本選びの段階で、慎重に審査や議論を重ねることが大切なのです」とチャンユン氏は語る。
中国での映画製作においては、脚本審査、映画完成後の最終試写など、様々な検閲プロセスが存在するが、「脚本が審査された後は、その脚本に忠実に製作するべき。最終的に仕上げた映画が脚本よりよくなるケースもあるが、脚本に従わず大きな変更をした場合は、採用されないリスクが存在する」とも忠告した。
チャンユン氏によれば、現在の中国で人気の映画ジャンルはコメディとドラマだが、アニメ映画や軍隊を題材とした重いテーマの作品のサプライズ・ヒットも相次いでいるという。これまで、中国産のアニメ映画は1500万ドル稼げば成功と言われていたが、2015年にワン氏が製作に携わった中国産アニメ映画は1億5000万ドルの興行収入を稼いだという。今後、子どもだけでなく、大人も楽しめるアニメ映画がさらに登場しそうだ。
また、2014年には、通常、市場から避けられがちな軍人の訓練生活を描いた映画が、約1億ドルを稼ぐサプライズ・ヒットに。いまだ、開拓の余地と可能性を秘めた中国市場を物語るエピソードだ。もちろん、ハリウッドが製作しているような1億ドル規模の高予算の娯楽大作へのニーズもあるが、中国市場だけで財政をまとめることができないため、ここでも共同製作のメリットがある。
撮影・編集・宣伝における費用の高騰化
実際に海外のフィルムメイカーが中国で撮影を行う際の留意点として、ライン・プロデューサーのリック・ネイサンソン氏は、「何人のキャストとクルーを自国から連れてくるか、現地調達するかということ、中国内でかかる費用を把握すること(極端な例で言えば、iPhone撮影なら2ドル、視覚効果満載なら2億ドル)、撮影にかかるスケジュールを把握すること(他国での撮影より時間がかかることが多い)」を挙げる。
最近では英語を話す中国人クルーも多いが、1部署に1~2人は翻訳者(わかりやすく要約する“通訳者”ではなく、会話をそのまま訳す“翻訳者”であることがポイント)をつけることも必要だという。
撮影後のポストプロダクションについて、視覚効果を手がけるベース・メディアの創始者であるクリス・ブレンブル氏は、「いまは、多くの中国映画がこの段階で失敗する。人的リソースで解決するという発想が持たれやすいが、実際大事なのは、労働力というより『才能』」という。
しかし中国の映画産業が急速な成長段階にあり、ブレンブル氏は、「中国におけるポストプロダクション費用は、過去5年で、20万ドルから1000万ドル規模と劇的に増加した。ハリウッドのモデルを猛追しており、素晴らしい物語を持った野心的な大作が続々と生まれるだろう」と話した。
同時に映画製作における主導権が監督中心から投資家・興行主にシフトする中で、宣伝費用も高額化しており、最低額は3000万ドル程度。異なる作品、地域、上映期間によって、様々な宣伝手法がとられ、映画の主要キャストやスタッフたちが国内約20都市を宣伝行脚することも多いため、作品によっては、映画全体の費用の30~50%が、中国内での宣伝費用にあてられることもあるという。こうした費用捻出のため、中国側にとっても、大きな資本を持つ米国との共同製作は有益といえる。
投資家と製作会社を結ぶ完成保証制度のこれから
「映画産業が変化し、共同製作が増えるにつれ、これまで映画製作に無関係であった人々が、次々と映画業界に足を踏み入れている」と話すのは、映画の完成保証を担うフィルム・ファイナンス・チャイナのエイプリル・イェCEO。中国と各国、投資家と製作会社を結び、企画をスムーズに進行させる役割を担っている。
「10年ほど前まで、中国では、監督が映画製作のすべてを仕切り、製作期間や費用にかかわらず、弟子や生徒が監督をサポートしていました。10年前から、個人投資家が現れ、決まったスケジュールと予算内で映画を完成させる必要性が出てきたのです。
米国のフィルムメイカーにとっては当たり前のシステムかもしれませんが、中国の監督がこうしたシステムを受け入れるのには、まだ時間がかかります。どんな監督も、自分の作品製作を誰かにコントロールされることは避けたいものですから。それでも、私たちが製作を引き継ぐわけではなく、映画を時間内に完成させるお手伝いをするものだということ、また、マーケティング会社などの存在も大切であることなどを、少しずつ浸透させている段階です。最近は、海外から多くのプロデューサーや投資家が中国とで映画ビジネスをしたいと訪ねてきます。とても喜ばしく、面白い時代にあると思います」。
◆ ◆ ◆
中国政府の規制緩和、国際交流の増加により、米中合作を取り巻く環境は改善されている。
チャンユン氏は、「最近は両国の首脳が行き来し、両国民が互いに交流し、両国の映画事業がともに発展しています」と語る。中国では、市場が拡大する中、脚本も、優れた監督やクリエーターの数も足りてないという。
中国は米国の映画技術、製作スタッフの経験などから学び自国の映画が海外に受け入れられるようになることを望み、米国は、ハリウッド映画の興行、資金調達やマーケティング支援が得られる共同製作の場として、中国市場を必要としている。米中映画産業の交流は、この先10~15年を視野に入れたウィンウィンの共同事業ともいえそうだ。
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