フランチャイズのグローバル展開は狙えるか?
公開日: 2017/07/21
この連載は、2017年3月中旬に、ロサンゼルスで開催された米バラエティ誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"MASSIVE The Entertainment Marketing Summit"において、ハリウッドのマーケッターたちがそれぞれの実践を語ったセッションレポートです。
夏休み興行が盛り上がりを見せていますが、この夏公開される作品には『怪盗グルーのミニオン大脱走』『スパイダーマン:ホームカミング』『トランスフォーマー/最後の騎士王』『ワンダーウーマン』など、グローバル・フランチャイズ映画として位置付けられる映画も多いです。
これらグローバル・フランチャイズの成功の要因は何なのでしょうか。データの役割は?今後の展望は?こういったテーマにつき、DCエンターテイメントやイルミネーションのマーケッターが登壇したセッションをレポートします。
モデレーター:
マーティ・ブロックスタイン
国際ライセンシング産業マーチャンダイザーズ協会業界広報担当上級副社長
スピーカー:
アミット・デサイ( Amit Desai )
ワーナー ブラザース DCエンターテインメントの取締役副社長、事業/マーケティング戦略、ダイレクト・トゥ・コンシューマーおよびグローバル・フランチャイズ・マネジメント担当――『バットマン』『スーパーマン』『ワンダーウーマン』『ジャスティス・リーグ』他のフランチャイズ管理を手がける。
マイケル・アウウィリーン( Michael Ouweleen )
カートゥーン・ネットワーク、アダルトスイム、ブーメランの取締役副社長兼CMO
ステイシー・シェア( Stacey Sher )
アクティビジョン・ブリザード・スタジオの共同経営者――アクティビジョン・ブリザードは「コール オブ デューティ」や「World of Warcraft」シリーズを製作するコンピューターゲーム企業。最近、映画・放送向けコンテンツ製作事業を立ち上げており、ステイシー・シェアはその共同経営者
マニュエル・トーレス・ポート( Manuel Torres Port )
NBCユニバーサルの取締役副社長、全世界消費者向け製品、NBCユニバーサルブランド開発担当――『ジュラシック・ワールド』『ワイルド・スピード』シリーズ、イルミネーション・エンターテインメント、ドリームワークス・アニメーションの商品化事業等を手掛ける
サイモン・ウォーターズ( Simon Walters )
ハズブロのグローバルライセンシング担当GM――エンターテインメント/消費者向け製品部門を率いる。ディズニーOB
グローバル・フランチャイズも最初は小さく始まる
マーティ・ブロックスタイン(モデレーター)
グローバル・フランチャイズに関するディスカッションですので、まずパネラーの皆さんにお聞きしたいのですが、フランチャイズとはそもそもグローバル展開を前提にするものでしょうか? それとも、結果としてそうなるのでしょうか?
サイモン・ウォーターズ(ハズブロ)
私の経験では、初めから世界展開を狙ってその通りになったフランチャイズはなかったように思います。国であれ、プラットフォーム、書籍、雑誌であれ、ひとつのソースから発展していくものでした。
肝心なのはその企業に実行力と創造力があるかどうかです。ここからは、マーケティングの決まり文句である「一貫性」と「本物感」ばかりを申しあげることになりそうですが、どちらかというとカギは実行力の方にあるように思います。大企業になるほど世界規模でのフランチャイズを作りにくくなるものです。
Blumhouse(『スプリット』などの低予算大ヒット映画を製作している映画プロデュース会社。本サイト記事「低予算映画で奇跡を起こしたヒットメーカーにハリウッドが惚れた」など参照)のような企業や、そういった企業の実績を考えれば、規模が小さいほど実行スピードが高いのがおわかりになるでしょう。企業が直面する最大の課題というのは、規模が拡大すると共にそれまで可能だった一貫性のある世界展開が困難になることです。
結局は、相乗効果や調和などを掘りさげていくことになります。私もそういったものの重要性を痛感しています。弊社は大企業ですが、小さな企業のように考える姿勢も非常に重要だと思っています。
マニュエル・トーレス・ポート(NBCユニバーサル)
「何でも最初は小さく始まる」ことについては、私もまったく同感です。企業内の演習のような形で始まると言っていいでしょう。そのような経験やストーリーの伝え方がうまく展開できるかどうかは、異なる場所や文化といかに溶けあわせ、定着性を持たせられるか、そしてエンゲージメントを醸成できるかにかかってきます。それから、弊社の内部ではエコシステムとかプラットフォームと呼んでいるものが、取り組みを具体化し単独のイベント以上のものへと変えていくのだと思います。
市場ごと、国ごとに大きな差異がありますので、時間という要素は非常に重要ですが、こういうことは一夜にして成るものではありません。タイミングと世代を超えた強い共感性という要素は、長期に渡って持ち続けられるフランチャイズづくりに不可欠です。
グローバル化の事例:非言語的キャラクターを探し当てた「ミニオンズ」のイルミネーション
マニュエル・トーレス・ポート(NBCユニバーサル)
ストーリーという点では、我々の経験上、複数の市場・地域で高い受容性があるのはユーモアだと言えます。イルミネーションの作品で言えば「怪盗グルー」シリーズや『ミニオンズ』です。非常に愛すべきキャラクターであり、メキシコでも日本でもアメリカでも同じようにオーディエンスの心を掴んでいます。“非言語的コミュニケーション”と言うのでしょうか。魅力という点でもつながりを感じさせる要素としてのユーモアという点でも、地域性や文化を超えて受容されるキャラクターコミュニケーションを探しあてるというのが、勝利の方程式なのです。
マーティ・ブロックスタイン(モデレーター)
マニュエル(NBC)から非言語的コミュニケーションやユーモアの話が出ましたが、「トムとジェリー」にも同じことが言えますね。「トムとジェリー」がこれほどの長きにわたって世界中で愛される理由のひとつは、台詞がないことです。動きだけで伝わるユーモアなのです。そのおかげで翻訳費用もほとんどかかりません(笑)。
グローバル化の事例:「老舗キャラ」の発展のために、そのキャラクターのライフサイクルに着目。日本におけるDCエンターテイメントによる「鷹の爪」とコラボレーション
© Warner Bros. Japan and DLE. DC characters and elements © & ™ DC Comics. Eagle Talon characters and elements © & ™ DLE. All Rights Reserved. |
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アミット・デサイ(ワーナー/DCエンターテイメント)
弊社のキャラクターは、発表後60年、70年、80年と経っていますから、幸運なことに世界的な認知があり熱心で忠実なファンがついています。とは言え、スーパーヒーローや彼らが活躍するジャンルがどの市場でも通用するわけではないことも理解しています。
日本のケースが良い例です。日本では自国のマンガやアニメの人気が非常に高く、弊社のスーパーヒーローは必ずしも受容されません。そのため、異なるアプローチが必要であり、高いクリエイティビティが要求されるのです。
我々が検討したのは、例えばこのような点です。「いかにローカライズすべきか?」「『バットマン』を日本のマンガのようなバージョンで出すことはできないのか?」、また、日本のような市場には“ローカルのコンテンツと我々のキャラクターをコラボレーションさせる”というアプローチも活用しています。
例えば、「秘密結社鷹の爪」というアニメがあります。「サウスパーク」的な感覚のコメディです。我々にとって初めての試みとして、『ジャスティス・リーグ』のキャラクターをそのまま登場させたコラボレーションアニメを製作しました。『ジャスティス・リーグ』に対するリスペクトもあり、日本のオーディエンスにとって魅力的な作品にもなると考えたからです。
もうひとつ我々が痛感しているのは、弊社が手がけるフランチャイズは数多くありますが、市場によってそれぞれのライフサイクルのステージが明らかに異なることです。マーケティングやコンテンツ、配給・流通関連の決定にはこの点を充分加味し、現場と協働・協議し、ターゲット市場の調査を実施して、何が効果的で何はそうでないかをよく理解してから行動する必要があります。
< (2)コンテンツのグローバル展開成功の先に - DCスーパーヒーロー・ガールズ事例 に続く >
参考:映画「DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団」今秋全国公開決定!|ワーナー公式ニュース(2017.03.22)
DCエンターテイメント・イルミネーションのマーケッターが語る「グローバル・フランチャイズの成功の掟」シリーズ
- (1)フランチャイズのグローバル展開は狙えるか?
- (2)コンテンツのグローバル展開成功の先に - DCスーパーヒーロー・ガールズ事例
- (3)世界各国の消費者インサイトの抽出 #1「データの活用」
- (4)世界各国の消費者インサイトの抽出 #2「ストーリーに賭ける」
- (5)コンテンツの消費のされ方が変わりつつある中での今後の展望
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