基調講演②配給 【後編】 「映画興行がコロナ前よりも発展するために必要なことと2023年の見通し」
公開日: 2023/05/26
米ラスベガスにて開催された世界中の興行会社と配給会社が集まるコンベンション「CinemaCon(シネマコン)2023」(開催期間:4月24日~27日)から、初日に行われた“INTERNATIONAL DAY”の模様をレポート。本記事ではパラマウント・ピクチャーズの国際劇場配給部門でプレジデントを務めるマーク・ヴィアン氏の基調講演【後編】をお送りします。
※本記事で触れられている内容は2023年4月時点の情報です
マーク・ヴィアン(Mark Viane)
パラマウント・ピクチャーズ:国際劇場配給部門プレジデント
- プレミアムシネマにより価値ある体験を提供すべき
- 配給会社と興行会社の戦略的なデータ共有を進めていくべき
- 話題となるクリエイティブな宣伝で映画公開をイベント化
- ウインドウ問題:映画館は映画を成功に導く最も重要な手段
- 2023年総興行収入は19年比24%減にとどまる見通し、今の勢いならばそれを上回る可能性も
- 映画の力、その中での多様性の反映と最先端技術の導入がさらに明るい未来をもたらす
プレミアムシネマにより価値ある体験を提供すべき
2022年の映画興行分析の後(参照記事)、ヴィアン氏は映画業界が今後さらに復興を続けるための打ち手について基調講演で共有しました。最初に取り上げたのはプレミアムシネマです。ヴィアン氏は、映画館での鑑賞体験について、消費者のこだわりが強くなってきていると指摘し、「プレミアムシネマは高い価格設定にもかかわらず幅広く支持されています。これは、消費者が映画館に来るかどうか決めるとき、チケットの値段が抑止力として働くわけではなく、唯一の判断材料ではないことを証明しているのです。世界中の映画ファンが例外なく求めているのは、価値と体験の提案なのです。つまり、映画のチケットを買うことは、最も価値あるアウト・オブ・ホーム・エンタテイメント(※)と受け取られたということなのです」と分析しました。
※アウト・オブ・ホーム・エンタテイメント:映画館、アミューズメントパーク、ウォーターパーク、水族館などエンタテイメントを体験できる施設
鍵は<没入感のある体験>だとヴィアン氏は強調。そして、プレミアムスクリーンや高級リクライニングシート、モーションチェア、特殊な上映方式、そして特にPLF(プレミアム・ラージ・フォーマット)に対する消費者のニーズの背景には、自宅では味わえない特別なビジュアル体験への明確な欲求があると説きました。
韓国のCJ4D PLEX社が提供するプレミアム・フォーマットの4DXは、2022年だけでも2つの新記録を樹立したといいます。まず『トップガン マーヴェリック』で6280万ドル、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で1億ドルの興収を稼いだことが明かされました。さらに同社最新のプレミアム・フォーマットであるScreenXにおいても、 『トップガン マーヴェリック』で2240万ドルの興収をあげたことが告げられました。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のIMAX版も好調で、アメリカ以外で1億6560万ドルを記録したことが示されました。ヴィアン氏よると、IMAXは複数の市場でレーザープロジェクターへのアップグレードや映画館の改修などへの投資を積極的に行っているといいます。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は最新の3D技術の訴求にも成功し、同作の総興収の60%以上が3D上映となったことが明かされました。また、今年の3D作品は有望であるとし、例として『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』などが挙げられました。
興収に占めるプレミアム・フォーマットの割合は増してきており、今後もアップグレードが続いていくとヴィアン氏は予想します。そして重要なこととして、「映画館は目の肥えた観客が求める価値ある劇場体験を提供しています。映画館におけるテクノロジーの重要性が増すことは、映画館にとって成長のチャンスであり、競争の激しいレジャー業界において、観客の体験を高めて映画鑑賞が消費者の心に響くことを保証する絶好の機会でもあるのです」と訴えました。
配給会社と興行会社の戦略的なデータ共有を進めていくべき
ヴィアン氏は会場に向かって、復興を維持し、さらに推し進めるために業界が協力してできることはなにか、そして映画業界はいかにしてこの課題を克服し、復興のチャンスに変えていけるのだろうかと尋ねました。その1つ目の答えとしてヴィアン氏は「興行会社と配給会社が協力して消費者データを効果的に共有し、誰にとってもメリットのない障壁を取り除くことが極めて重要です。映画業界では、お互いに十分なデータを戦略的に共有していないため、多くの機会が生かされずに放置されているのです」と訴えました。
そして、興行会社と配給会社は、消費者を映画館の椅子に座らせるという共通のゴールを持っていると説き、消費者のプライバシーを保護しながら、映画ビジネスをけん引する頻繁、もしくはときおり映画館を訪れる消費者と確実に、そして効果的にコミュニケーションを取るために、お互いに協力すべきであり、それができるはずだと説きました。
話題となるクリエイティブな宣伝で映画公開をイベント化
ヴィアン氏が2つ目に挙げたのは、消費者が作品を覚えておけるよう、作品鑑賞をイベント化することでした。私たちは新規顧客や若年層を映画館に呼び込むために作り上げた、最先端のクリエイティブを常に目にしているといいます。革新的なマーケティング・キャンペーンから限定のイベントや体験まで、映画業界は記憶に残る見逃せない体験を作り上げるために懸命に取り組んでいることが示されました。
例としてホラー映画『SMILE スマイル』のキャンペーンを引き合いに出しました。パラマウントのマーケティング・チームは俳優を雇い、情報番組の“TODAY”や野球のヤンキース対レッドソックス戦などのような公共の場所にランダムに配置し、カメラに対して本作で印象的な気味の悪い笑顔の表情を保ち続けたと言います。この不気味なマーケティング・キャンペーンはすぐさま、周囲にいた人々のSNS投稿や口コミで拡散されました。
ウインドウ問題:映画館は映画を成功に導く最も重要な手段
ホラー映画宣伝での恐怖体験に触れたのち、ヴィアン氏は「恐怖といえば」と前置きしてウインドウ問題を取り上げました。「この2年間で分かったことは、劇場公開期間(ウインドウ)をどうすべきかの答えは一つではないということです」。そして、映画作品には多様なジャンルがあり、そのジャンルごとにパフォーマンスが変化することを鑑みると、スタジオは最適な劇場公開期間を作品ごとに決断し続ける必要があると説きます。そのうえで、「映画館は映画を成功に導くための最も重要な手段であることを、スタジオは明確に理解しています」と強調すると、会場からは拍手が起こりました。ヴィアン氏は続けて、「文化的インパクトと高い体験価値により、映画館は映画産業のエコシステムにおいて最高位に位置づけられるのです」と考えを明らかにしました。
2023年総興行収入は19年比24%減にとどまる見通し、今の勢いならばそれを上回る可能性も
これまで前年の振り返りを中心に話を展開してきたヴィアン氏ですが、ここで2023年の見通しについて言及しました……(以下、会員限定記事にて掲載)
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