定額制動画配信ビジネスの伸長は映画興行の脅威なのか、好機なのか?
公開日: 2019/10/04
映画興行の脅威なのか、好機なのか?
映画業界におけるデジタル化の波を配給会社、興行会社それぞれの視点で追う本特集。第5回のトピックは「SVOD(定額制動画配信サービス)」です。同サービスの台頭は、ディスラプション(市場の創造的破壊)と形容されるほど、業界構造の変容を引き起こしました。果たして配給会社、興行会社にとってSVODは脅威となるのでしょうか。
※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。
SVODは映画館への来場者を奪っているのか
モデレーター
SVOD(定額制動画配信サービス:Subscription VOD)を提供する会社はデータ収集に熱心に取り組んでいます。彼らは消費者インサイトの収集や分析に関してはエキスパートであるといえるでしょう。ここでSVOD分野に関するデータ・ポイントをいくつかご紹介しましょう。また、SVODが引き起こす産業構造の変化についても触れたいと思います。
1年間に9回以上映画館に足を運んだお客様は、週に15時間を動画配信視聴に費やしています。また、動画配信サービスを利用したことのない層の48%は、1年間に1回も映画館に足を運んでいません。
当然の帰結として、SVODユーザーと映画館のお客様は同一だということが分かります。 ジェーン、最近SVODユーザーと映画館で鑑賞するお客様の重複について興味深い調査をされていますね。SVODは映画館での鑑賞体験を妨げているのか、それとも後押ししているのか。どちらだったのでしょうか。
ジェーン・ヘイステイングス(Event Hospitality & Entertainment社)
我々の調査も他社と同様の結果でした。より多くのコンテンツを消費する方は、コンテンツの消費性向が高いため、映画館をふくむ複数のプラットフォームで鑑賞する傾向にあります。喜ばしい傾向として、鑑賞頻度の高いお客様の鑑賞頻度が、さらに増えていることが分かっています。複数のプラットフォームで多数の素晴らしいコンテンツにアクセスしているお客様ですね。
興行会社がVOD事業を展開する意味
モデレーター
アレハンドロ、先ほどメキシコでSVODではなく TVOD(レンタル型動画配信:Transactional VOD)事業を立ち上げたとおっしゃっていました。それは、映画館に足を運んでくださるお客様に、自宅を出なくていいと言っているようなものではありませんか? 興行会社がこの事業を展開する意味について教えてください。
アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ(Cinépolis社)
私の見解は少し違っていて、SVODを補完的なサービスだととらえています。家族や友人と一緒に映画を観に出かけたい日もあれば、雨の夜など自宅にこもって映画を観たい日もあるでしょう。TVODは劇場公開終了直後には重要であり、相乗効果も期待できます。例えば、近隣の映画館では劇場公開が終了してしまったアカデミー賞受賞作を観たい方は、我々のプラットフォームで視聴やレンタル、購入が可能となるのです。
これが相乗効果を生むと考えるのは、お客様の趣味趣向や鑑賞パターンを知ることができ、マーケティングに活用できるからでもあります。ですから、代替ではなく補完と考えているわけです。むろんお客様の余暇時間を巡って、SVODやTVOD、そのほかのサービスとも競合していますので、それを意識することを忘れてはなりません。
映画館での鑑賞体験を、常にエキサイティングかつ革新的で自分ごととしてとらえていただけるものにしなければ、映画館に足を運んではいただけません。そして、映画館には優れたテクノロジーや巨大スクリーン、没入感のある音響、3Dや4D上映、プレミアムシートやVIP席、美味しいフードやドリンク、お子さま用の設備などがあることをお伝えしなければならないのです。お客様にリピートしていただくには、これらが重要なのです。
ティム・リチャーズ(Vue Entertainment社)
よくあることですが、業界に長くい過ぎるとかえって見えなくなるものが出てきます。VHSを購入したりレンタルしたりするお客様は映画館にも足を運んでいましたし、DVDを利用するお客様も同様でした。ジェーン(・ヘイステイングス Event Hospitality & Entertainment社)が言った通り、映画好きのお客様は様々な形式で映画をご覧になるのです。
我々がヨーロッパ各地で実施した調査でも例外なく同じ傾向が示されていました。Netflix愛好者は、我々の作品を映画館で観る層でもあります。繰り返しになりますが、これは我々すべてにとって将来的な商機を意味しているのだと思います。
「SVODディスラプション」は脅威か商機か
モデレーター
VODが市場に登場した当時、鑑賞手段やそれまでに築き上げてきた映画業界のあり方が大きく変容しました。愉快な経験ではなかったと思います。ここで私が、「SVODディスラプション(市場の創造的破壊)」と書いた真っ赤なスライドを掲げて、その当時を思い起こしていただこうとしたら何とおっしゃいますか? どなたかお答えいただけますか?
ダンカン・クラーク(Universal Pictures International社)
鑑賞手段については独立したトピックとして議論できてしまいますので、ここではディスラプションについて話しましょう。興行会社にとって、このディスラプションはこの上ない商機になると考えています。
皮肉なものです。技術の進歩で、消費者はスマートフォンやiPadを使ってサッカーのプレミアリーグやオリンピックなどあらゆるスポーツ中継も手軽に観られるようになりました。それにも関わらず昨年、イギリスにおける映画館への年間動員者数はここ数十年間で最高値を記録したのです。業界にとっては心強い限りです。
Amazon PrimeやNetflix、そして優れたTV番組の存在を考えれば、ホームエンターテインメントの持つ「家にいながらにして」という要素には、無限の可能性があると思います。これは我々にとっても、映画館での鑑賞体験を大きく活性化するチャンスなのだと思います。今やるべきことは、配給会社が幅広いジャンルの良質な作品を製作し、興行会社が高品質の大型スクリーンを設置し、座席その他にも気を配って、鑑賞体験をよりよいものにしていくことです。現状が我々にとって追い風になることはあっても、向かい風になることはないと、私は考えています。
第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化
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第1章 デジタル化による顧客行動と映画マーケティングの変化
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第2章 データシェア
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第3章 定額制動画配信(SVOD)ビジネス
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定額制動画配信ビジネスの伸長は映画興行の脅威なのか、好機なのか?
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第4章 映画館のサブスクリプションモデル
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第5章 プレミアムマーケティング
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第6章 終わりに
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