第1章 宣伝戦略の今 「3:宣伝が失敗…、その時、どうする?」
公開日: 2018/06/21
映画のマーケティングに携わる者は、いかにして確実に成功を収められる宣伝計画を立案するのでしょうか。そして、成功する配給戦略とはどのようなものなのでしょうか。”MASSIVE The Entertainment Marketing Summit”で行われた基調ディスカッション“Film Studio Keynote Conversation”では、各スタジオのマーケティングのトップが、具体的な作品の宣伝施策を例に貴重な経験の数々を披露しました。
* * *
シリーズ第3回は宣伝の失敗がテーマ。誰もが戦々恐々とする失敗ですが、ディズニーのリッキー・ストラウス氏は成功に必要なものとして「失敗」の重要性を説きました。また、当初その動向が疑問視されていたものの、見事成功を収めた『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』が事例として登場。その成功へと至る秘密の一端をソニーのジョシュ・グリーンスタイン氏が明かします。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年3月)時点の情報です。
※スピーカーの概要は、連載第1回「第1章 宣伝戦略の今 「1:ヒットの鍵を握る映画のイベント化」」をご覧ください。
失敗から学べ!
ディズニーが説く成功に必要なこと
モデレーター
宣伝活動が結果につながらないこともあるかと思います。そんなとき、一体どうされますか? おそらく、事後検証を行い、次の宣伝で何をどう変えたらいいのか探ろうとしますよね。失敗談だけにここで明かすのは難しいかもしれません。ですが、どなたかそういったエピソードをシェアしていただける勇気のある方はいらっしゃいませんか? リッキー、頭を振っていますが、それは挙手ということでいいですよね(笑)。
リッキー・ストラウス(ウォルト・ディズニー・スタジオ)
酷い作品を作ろうなんて人はまずいませんよね。そこで問題として考えられるのは、宣伝には多くの要素が関係していること。そして、なかには到底我々にはコントロールできないものがあるということなのです。例えば、パニック映画の宣伝をしようとした矢先に本物の災害が発生し、多くの生命が失われたとしたら……。それは非常に不運ではありますが、宣伝活動の再考を余儀なくされますよね。
我々は失敗から学ぶわけですから、くよくよせずにポジティブな面を見るようにしています。何年か前にサンダンス・インスティテュートのイベントで映画ビジネスの難しさについて話をしました。成功するために今大切なのは〇〇である。この〇〇を埋めてください。こんな言い方をしました。私が用意した回答は「失敗すること」です。何故なら、我々は自分の失敗から学ぶことができ、願わくば、二度と同じ過ちを繰り返さないようにできるからです。
今年、ある作品が公開されました。当初は疑問視されていましたが、最終的には大成功を収めて多くの人を驚かせた作品です。一体どういった結果に落ち着くのか、誰も確信を持てませんでした。実は私はその作品の前日譚となる作品の宣伝を手がけました。そう、1995年に公開された『ジュマンジ』です。
今年公開された続編『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』では、ジョシュ以下大勢のチームが素晴らしい仕事をしたと思います。企画段階では、おそらく多くの人が懐疑的だったのではないでしょうか。長期間にわたり製作に携わってきた人々を知っているのですが、彼らは素晴らしい映画を作りあげただけでなく、本当に見事な宣伝をやってのけました。これは本日シェアするのに最高の事例だと思います。
早期に自分ゴト化して成功を収めた
『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』
モデレーター
ジョシュ、『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』は、世界中で約10億ドルの興行収入をあげたのですよね。この成功を受け、多くの人が非常に驚きました。一体どのような宣伝活動をされたのか、どうやってこれほど多くの観客を映画館に呼びこんだのか、ぜひお聞かせください。
ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ)
リッキー。お膳立てしていただいて、ありがとう(笑)。
まず申し上げたいのですが、これは私ひとりの功績ではありません。私のチームが優れていたのです。アメリカ国内、さらには世界中が一丸となって取り組んだ巨大なチーム力のおかげといってもいいでしょう。皆がこの映画の公開に向けて休みなく働き続けました。このパネルにご同席の皆さんも同様の経験があるでしょう。 冒頭で皆さんがおっしゃったことと重なりますが、ともかく良い作品であることを確信していたということですね。
どのような作品であっても同じですが、今日、映画のイベント化に欠かせないのはできる限り早期に消費者の思い入れを醸成することです。我々のケースでは、最高のキャストがいてくれたことが本当にラッキーだったと思います。ケヴィン・ハート、ドウェイン・ジョンソン、存在感の大きい愛すべきジャック・ブラック、カレン・ギラン、そしてニック・ジョナスです。
プリプロや脚本の段階から彼/彼女らは素晴らしい瞬間を共有してくれました。いかに楽しい時間を過ごしているかを、影響力のある自分たちのSNSを通じて配信してくれたのです。映画が完成するはるか前から、消費者はこの“アトラクション”への期待に胸を膨らませ、乗る気まんまんでした。もちろん、キャストと作品コンセプトの相性も抜群でした。俳優たちの身体を借りた登場人物はイキイキと動き回っていたのです。
非常な自信作でしたので、劇場公開の前にアマゾンのプライム・ビデオでスニークプレビューを実施しました。プライム会員であれば、ひと足早くご覧いただけるわけです。作品と合致したアマゾンのユーザー基盤を活用したわけです。このように初期段階から作品や登場人物に思い入れを持ってもらい、自分ゴト化してもらっていったのです。
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【次回】
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