低予算映画の企画と宣伝における革新と実験
公開日: 2017/05/12
2017年3月中旬、ロサンゼルスで開催された米バラエティ誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"MASSIVE The Entertainment Marketing Summit"から、企画の面白さでスマッシュヒット創出を続けているBlumhouse Productionsのブラム氏と同氏をサポートするユニバーサル・ピクチャーズの幹部がヒットの裏側を語ったセッションを4回に渡ってレポートします。本記事は、第二回目です。(前記事:「低予算映画で奇跡を起こしたヒットメーカーにハリウッドが惚れた」)
登壇者:
ジェイソン・ブラム( Blumhouse Productions プロデューサー兼創業者/CEO )
ジョシュ・ゴールドスタイン( Universal Pictures ワールドワイド・マーケティング部門プレジデント )
マイケル・モーゼス(Universal Pictures ワールドワイド・マーケティング部門共同プレジデント )
インタビュアー:
クラウディア・エラー(『バラエティ』誌共同編集長 )
低予算映画の利点
コンセプトにおいても宣伝においてもリスクを取ることができるところ。議論が巻き起こるようなことにもチャレンジしようと思えることに非常に価値がある。またそれを支える優れたクリエイティブディレクターの存在も重要
マイケル・モーゼス( Universal Pictures ワールドワイド・マーケティング部門共同プレジデント ):
では、アイディアをどんなふうに実現していくかについては、最もわかりやすい例が『パージ:大統領令』だと思います。ジェイソンとスタッフは、時代の琴線に触れる作品をつくりあげました。そして、私たちはちょっとした遊びとして、タイトルをその時、実際に起きていることをふまえた『Purge: Election Year』に変更しました。キャッチコピーもトランプ候補(当時)のスローガンをもじって「Keep America great (アメリカを偉大なままに)」としました。
クラウディア・エラー( インタビュアー ):
彼が当選する前のことですよね。それはおもしろい。
ジェイソン・ブラム( Blumhouse Production プロデューサー兼創業者/CEO ):
『パージ:大統領令』のときは、皆が「低予算映画なのに、おもしろくて儲かった」と言ってくれました。それも素晴らしいのですが、映画製作に大金を投じないのには他にもメリットがあるからです。ひとつはクリエイティブ面です。映画の仕上がりに対してリスクを取ることは可能ですが、ジョシュやマイケルが他では考えられないくらい理解してくれているのは、大ヒットを飛ばさなければ採算すら合わないような映画でないのであれば、遊び心いっぱいのリスクがある宣伝も可能だということです。マイケルとジョシュが関わってくれたからこそ、私たちの映画のマーケティングが成功したのだと思っています。『パージ:大統領令』の最初のTV広告は論議の的になりました。
マイケル・モーゼス:
共和党の討論会の時でしたね。
ジョシュ・ゴールドスタイン:
市場に浸透させるために公開6ヶ月前の昨年7月にオンエアしたのですが、監督と私はわくわくしていました。あれは監督のアイディアでした。共和党らしい仕上がりで、「オーケーだ。CMを流すよ」と言ってもらえたのです。信じられませんでした。
マイケル・モーゼス:
誰もが話題にしていましたよね。
この種の映画では、安全策に頼らず刺激的なプロモーションしていいのだと考え、またそうすることを自分に課すようにしています。自分たちがひと目見てゴーサインを出したアイディアが、『パージ:大統領令』のように他の人から見ても映画になる発想だと思ってもらえたのは素晴らしいことでした。文字通り決まり事を無視して、想像力を自由に羽ばたかせることができたのです。それが文化に入り込む瞬間であり、そこから人の心に入り込んでいけるのです。ジェイソンのアイディアが人の心に入り込む本当に特別なものであるポイントはそこなのだと、私は心から思っています。
マイケル・モーゼス:
私たちと一緒に仕事をしているクリエイティブエグゼクティブであり、ジェイソンの作品のプロモーションを指揮しているジョーが、遊び心の天才だということをお話ししておかなければなりません。ジョーがいなければ、これまでお話ししたヒット作は誕生しなかったでしょう。
作品のヒットにおける宣伝の貢献度
映画のヒットにおける作品要素と宣伝要素の貢献度については様々な考え方があるが、このプロジェクトでは宣伝もコンセプト作りからかかわるため共同作業であるし、一般論としてもその作品のDNAが宣伝を決めている側面は大きい。
クラウディア・エラー( インタビュアー ):
ご自分たちの映画の成功に宣伝・マーケティングはどれほどの役割を果たしているとお考えですか?
ジェイソン・ブラム:
私たちは皆違う答えを持っていると思いますよ。私が思うに、もちろん正しいと思っているのですが、フィフティフィフティです。良い映画を作るだけでは仕事は半分しか終わっておらず、マーケティングが成功して初めて100%と言えるからです。
クラウディア・エラー( インタビュアー ):
納得できるご回答ですね。わかりました。
ジェイソン・ブラム:
まったく賛成できませんね。49対51でしょう。(会場笑い)
マイケル・モーゼス:
私が思うに、大切なのはジェイソンの言った通り、私たちが早い段階から関わっているということではないでしょうか。どちらが重要という話ではないのです。
それはジェイソンの映画の製作やり方にあらわれています。彼の素晴らしいところは会社の経営方針としてスタッフに最大限の自由を与えていることなのですが、私たち全員が共有している考えはタイトルとログラインをシンプルな文言に煮詰められるように腐心することです。私たちはタイトル段階から挑戦を続けています。
ジェイソン・ブラム:
そうでしたね。私たちはちょうどある映画に、タイトルのみでゴーサインを出したばかりです。マイケルは"truth or dare"という映画を作るべきだと言い、そして言ったのです。「それしか決まってないが」と。
すべての映画はそんなものです。映画マーケティングの実に多くが映画のDNAそのものからくるのです。映画製作を決定するということはそれを市場に出すことを決定するものであり、それを観たいとする観客がいて多くの人が共感するものを持っていると宣言することです。人が共感したり自分ゴトとして感じたりできる何かを根本に持っていれば、それは素晴らしいストーリーだと言えます。
<(3/4)『Get Out』の事例:ヒットの裏の戦略は?「人種差別×ホラージャンル」に娯楽性のある斬新なコンセプト に続く>
ハリウッドでのヒット研究 - 『Get Out』『スプリット』レポート
- (1) 低予算映画で奇跡を起こしたヒットメーカーにハリウッドが惚れた
- (2) 低予算映画の企画と宣伝における革新と実験
- (3) 『Get Out』の事例:ヒットの裏の戦略は?「人種差別×ホラージャンル」に娯楽性のある斬新なコンセプト
- (4) 『スプリット』の事例:「コンセプトメーカー」シャマランのカムバック
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